第30話『魔王牧場:罪の告白』
「万事休すだなぁ」
「地獄に行く前に、犯した罪の全てを話しなさい」
「罪? 我は罪など犯しておらぬ。貴様らこそ、貴族に逆らったその罪、万死に値する。地獄に行くのは貴様らだ。そんなに聞きたければ話してやる」
俺の中で、このクズはすでに死んでいる。
声を発する権利を許しているだけ。
あとはこいつの協力者や悪行の数々を吐かせるだけ。
「我は、アグリィ辺境、テリブル家の十代目の当主にして、
「……
ギルドに登録されていない
ハッタリとも思えないが。
「ユーリさんは知らなくて当然です。呪われた
「ふんっ、無学な貴様のために教えてやろう。我が、使役する対象は魔獣ではなく、亜人。我が亜人に命じれば、亜人は我の言葉の強制力に絶対に逆らう事は不可能。その効果は、死ぬまで続く。更に、
価値のない、最低最悪のゴミ職業。
ギルドに登録する価値がないスキル。
存在する事実だけで不快な気分にさせられる。
「我を殺せば、多くの我の領地の領民を不幸にすることになるぞ。くっくっく、貴様らにそれができるか? 我の領地の民は幸福である。なぜなら、労働という本来、人間が負担すべきではない苦役を、下等で、愚かで、醜い、劣等種、亜人に押し付けることができるのだからなぁ。領民は我が命じるまでもなく、牧場を喜んで自発的に管理しておる。我が、指示する余地もないほどに……完璧になぁ」
牧場……場違いな言葉。
理解を拒絶する言葉。
「我の領地の民は、忠誠心が篤く、賢いのでなぁ。強制する必要すらない。自分の頭で考え、自発的に牧場の維持、管理を行ってくれておる。領主が優秀なら、その民もまた優秀ということだ」
領民も進んで犯罪に加担していたということだ。
領主が領主なら、領民も領民。どちらもゴミ。
「我の領地の民は皆、喜んで牧場運営を手伝っておる。領主と領民の理想的な関係。偉大な領主と、賢い領民ということだ。テリブル一族は代々、民から篤い支持を受けてきた。だからこそ十代も続いているのだ。我を討つことは、すなわち、我を慕う民を討つことに他ならない。貴様にその権利はあると思うか?」
より一層、この喋るゴミを生かす理由がなくなった。
もはや呼吸をすること、人語を話すことすら許しがたい。
「我の管理する牧場では、隷属させた、多種多様な異なる亜人同士を交配させ、多様性に富んだ亜人を造り出してきた。亜人を繁殖させ、そこらの小悪党や貴族に売りつけ、領地に富と幸福をもたらす。これ以上の善行はあるまいよ。我が一族は、それを続けてきた」
アグリィ辺境領にも例外なくギルドの監査役は派遣されている。
監査役から領民へ聞き取り調査も行われているはずだ。
それにも関わらず、人道を外れた行いは露見しなかった。
この規模の悪事は一人だけで隠しきれる物ではない。
証言の通り、領民も共犯だったと考えるのが自然。
領主と領民が結託して意図的に隠匿した。
単純な圧政は十代続かない、誰かが立ち上がる。
だが、それは起きなかった。
辺境伯の存在が民の都合が良かった。
だからこのクズの一族は、民に生かされた。
領民は亜人を隷属させる悪行を、良しとした。
甘い蜜の味に堕落し、悪徳に屈した。
腐りきった悪性が民に感染し、人倫を破壊した。
その罪の裁きは、すぐに下される。
「特に、希少な亜人ほどコレクターには高く売れるのでの。純血種、変異種、特異種、異形種……我の一族は十代に渡り、亜人や誘拐した人間を牧場で交配させ続けた。平坦な道のりではなかった。異なる種族との交配。孕んでも死産したり、産まれてもすぐに死んだり、失敗の連続だった。だが、我は努力を怠らなかった」
自慢気に語っているが犯罪の自白に過ぎない。
アグリィ辺境領は近いうちに大規模監査の対象となる。
加担した者、看過した者、等しく法によって裁かれる。
「亜人など、所詮は邪悪なる魔王の
太古の昔、多くの亜人種は魔族と呼ばれていた。
生まれついての魔力適性の高さゆえの事である。
それは、吟遊詩人の歌にしか残されていないような遠い昔のこと。
人族と魔族の戦争、それは、はるか昔のことだ。
「我は最強の亜人を造りだすため……過去の文献を探った。そして、我の大祖父、テリブル一世はある仮説に辿り着いた。過去に魔王と呼ばれている存在。それが、人間と竜を交配させた種であると。歴代のテリブル家の当主のみがその事実を継承、過去の魔王と呼ばれる存在を造り出すために研究を続けた。最強の亜人を量産し、使役する。それこそ人族こそが生物の頂点であることの証明。何代も掛け、我の牧場でさまざまな地域の竜と人の交配実験を繰り返し、試行錯誤を繰り返した。……長く、険しい日々であった。平坦な道のりではなかっただろう。だが、ついに十代目、つまりこの我の代で、――至った」
…………………。
「我は、遂に……文献に記された、あの魔王を交配によって造り出すことに成功した。あとは、あの竜人……否、試作型魔王を母体として、魔王を繁殖させる。……あと一歩だった。我が一族の悲願の成就まで。それだというのに……最後の、最後の段階で、あやつの、繁殖用に用意した人と竜、我の
目眩と
血流が全身を高速で駆け巡る。俺の体がアレを殺せと叫んでいる。
「続けよう、我に降り掛かる不幸は続いた。我の
「てめぇの罪状の告白は、もういい――、黙れ」
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