第31話『魔王牧場:罰の宣告』

 聞くに堪えない言葉が続いた。

 辺境伯とは貴族の中でも上位の爵位を持つ者。



 この罪人の一族は統治する領民と共謀きょうぼう

 人道に反する極悪な行いを常習的に繰り返してきた。

 その忌まわしき日々も、いま、終わる。



 全ての隠匿されてきた罪。

 それが、白日のもとに晒される。



 罪人、罪人に加担した貴族、幇助ほうじょした領民。

 その全てが、等しく法の裁きを受ける。 


 悪徳によって蓄えられた財はギルドが押収。

 被害者たちのケアに使われるだろう。


 ギルドを動かすだけの証言は手に入った。

 そろそろ不快な鳴き声を発する害虫を、潰す。

 



「アルテ、こいつの自供は記録できたか」



「はい。一言、一句、漏らさず、完璧に」




 アルテは秘跡級の魔導具を持つ。

 その魔導具の名は、記録書エメット


 記録書エメットには、事実しか記述できない。

 つまり、魔導具に記述されたものは全て、事実。


 その特性から閻魔帳えんまちょうとも呼ばれる魔導具。




「この男の言葉、全て事実なんだな」


「はい。狂人の妄言であればと、何度も――祈りました」




 アルテはクズの自白を記録書エメットに全て記述している。

 信じがたい悪行の数々は、全て事実ということ。


 このクズを数分のこととは言え、生かしておいた理由。

 それは、関わった共犯、影響範囲を特定するため。



 そして、記録書エメットに悪行の全てを記述するため。




「これで、ギルドは動くか」


「はい、確実に」




 記録書エメット、ギルドマスターから下賜かしされた魔導具。

 秘跡サクラメントと呼称される、星遺物アレイスターの一つ。


 製造者、材質、構造、動作原理、全て不明。




「アルテ、準備は整ったか?」


「はい。いつでも、大丈夫です」




 書き手の主観、恣意しい、偏見が含まれた文字を記述できない。

 厳格に自己を律する者でなければ、一文字記述することすら不可能。

 自己を殺せる、高い精神力と集中力の持ち主にしか扱えない。


 精神操作、脅迫によって歪められた文字も記す事ができない。

 ゆえに、歪められた事実を記す事もできない。


 法と秩序。規律と公平。まさにギルドの体現と言える魔導具。






「アルテ、罪状を読み上げてくれ」


「アグリィ辺境領、テリブル辺境伯の罪状を読み上げます。王家に対する大逆、中央ギルドへの宣戦布告、牧場と呼称される非人道的な施設の運営、禁忌職業を用いた人道に反した数々の悪行、武力による王都転覆の企て、私設軍隊の保有、人体実験、亜人種差別、人身売買、人魔教典の冒涜、爵位を超えた常習的な越権、中央ギルドへの報告義務の不遵守、貴族義務の不遵守、不特定多数の人間の拉致および、監禁、不特定多数の人間に対する性交の強要、拷問、殺人、傷害、殺人教唆、洗脳、強制労働、統治する領民の人倫の不可逆的な毀損、悪徳の流布、領民と共謀しての隠蔽工作、暗殺の企て、その他86の法を犯しています」






「次に、その罪状により、与えるべき罰則は」


「爵位の剥奪、財の没収、領地の没収、職業権の剥奪、親権の剥奪、弁護権の剥奪、思想の自由の剥奪、集会の禁止、相続権の剥奪、配偶者を持つ権利の剥奪、子孫を設ける権利の剥奪、私有財産権の剥奪、信教の自由の剥奪、表現の自由の剥奪、言語使用の永久禁止、教育を受ける権利の剥奪、無償労働義務、自衛権の剥奪、名前を持つ権利の剥奪、外出の無制限禁止、積極的自傷行為の努力義務、自殺の努力義務、他殺される自由、尊厳侵害の自由、激毒物摂取の努力義務、二足歩行の禁止」






「判決を言い渡せ」


「人々の規範となる辺境伯という強い影響力のある立場にありながら人道に反する行いを繰り返し、公共の福祉を毀損、領地の領民の道徳心を著しく毀損きそんしました。積み重ねた数々の犯罪行為により、テリブル辺境伯を自称する存在は、法の定義に従うところによりますと、人ではなく、害獣と認定されます。つまり、法の庇護、並びに、裁きの対象から、外れます」






「なるほど。人ではない。だから法の庇護も、裁きも、受ける権利がない。道理だ」


「はい。罪、罰、そして法。それは人に適用される物。害獣は法の扱う対象から外れます。ゆえに、法による裁き与えることはできません。この害獣に適用されるのは、ではなく、魔獣討伐目録ハンティング・リスト。この害獣は、その悪辣さ、危険性、人倫への影響度を考慮しますと、緊急討伐対象エマージェンシー・クエストの害獣と認められます。冒険者、ならびに、善意の市民による可及的速やかな殺処分が求められます。判決は、以上です」






「了解。善意の市民が――害獣を叩き潰す」

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