第45話『絶死の最終任務』

 ここは、ギルドマスターの執務室。

 漆黒の片翼の懐かしいメンツが勢揃いだ。


 まぁ、ひさしぶりという感じもないのだが。

 皆、しょっちゅう来てくれていたもんな。


 義理深い、良い奴らだ。




「てめぇ、なんで一般人になったユーリまでこの作戦に巻き込んでんだッッ!!!  命を賭けるのは俺らだけで、良いだろうがッッ!!! この場でドタマかち割られてぇカッ!!!」


「迷宮術士が今回の任務に必要不可欠。それ以外の理由は、ない」



 団長のシャドウがギルドマスターの襟首を掴み、叫ぶ。

 あわや、一触即発の状況だ。

 とりあえず、落ち着かせるしかない。



「おう、団長!相変わらず燃えてんな!」


「……ユーリ」


「まあ、まずは、大将の名演説でも聞いてみようや」



 俺は、団長の肩にポンと手を乗せる。

 団長は、引き下がってくれた。



「すまない、ユーリ。取り乱した。恥ずかしいところをみせてしまった」


「気にすんな。団長が燃えてるのなんて、いつものことだろ?」


「会いたかったでござる、ユーリ殿!」


漆黒全員集合これで全員集合だな


「おうっ! マルマロ、エッジ。そんじゃ、ギルドマスター。これで、漆黒の片翼の全員が揃ったんで、一から詳細な作戦内容を教えてくれ」




「分かった。これより、最終任務を説明する。君たちの任務は、王都防衛」


「たった5人で。そりゃまた、大任。で、敵の規模は?」



「10万を越える軍勢。指揮するのは、採掘王」



 採掘都市国家の王の率いる軍勢か。

 王都とは、同盟国という理解だったのだが。 

 いやぁ、分からんもんだなぁ。



「5 対 10万。いやぁ、心が踊るね」




「それだけではない。傭兵の王、不敗のベオウルフと、彼の率いる軍勢。極めつけは、生贄召喚で呼び出された、超災厄級の使い魔の存在だ」


「つまり、それらの相手をしろと?」




「そうだ。その命を賭して、王都を守護して欲しい」


「……命じてくれ、大将」



 ギルドマスターは目をつぶり、頭を下げる。



「失言を詫びよう。不正確かつ卑怯な言い方であった。中央ギルドの最高権限者として、君たちに王都の民のため、死ねと命じる。生還は、許さない」




 この男も、随分と不器用な男だ。

 権力を持つ者は、時に冷徹な決断を下さねばならない。


 こいつは、責任感の塊のような男。

 罪からも責任からも逃げない。


 耳あたりが良い甘い言葉も使わない。

 それが、この男なりの誠実さ。




「そりゃ、ド直球。つまり、そんくらい難易度が高い任務という事か?」


「今回の任務の難易度は、測定不可能。それほど高い。だが、死なねばならぬ理由はそこには、ない。今回の作戦は、君たちが死ぬことで成功する。ゆえに、捕虜、拘束、逃走、いかなる条件での生存も許さない。死ぬ事が、必須の任務だ」




「そりゃ、珍妙な話だ。まぁ、冗談でも、酔狂でもないんだろ?」


「――すまない。私が告げた命令は、全て、言葉通りの意味だ。私はもはや、頭を下げ、君たちに、命ずることしかできない」



 ギルドマスターが頭を下げる日が来るなんてな。

 それほど事態が逼迫ひっぱくしているという事だな。




「大将、頭を上げてくれ。死ぬことが必須の理由、それを教えてくれ」


「分かった。君の右腕を、私の前に伸ばしてくれ」




「いいぞ、こうか?」


「ユーリ、協力に感謝する。この方が、口で説明するよりも早い」




 ギルドマスターが俺の手首を掴む。

 右手首が、円形に光る。


 


「その光。それが答えだ」


「なるほど……これが、切り札ってことか」

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