第46話『誓い』

「君の魔力暴走制御輪サーマル・スロット・リングを解除した。以後、自壊式オーバ・クロックの使用後、一切の制御が効かなくなる」


「つまり、最大出力で自壊式オーバ・クロックを使えるということだな」




「そうだ。身体保全のための強制機能停止エマージェンシー・シャットダウンも作動しない。心音が停止する瞬間まで出力は上昇、極限に達した瞬間、死ぬ」


「つまりは、だ。自壊式オーバ・クロックの最大出力で、死ぬ瞬間まで敵を削れって、ことか?」




「否定だ。戦闘力の向上は、あくまで副次効果サイド・エフェクトに過ぎない。いかに強くなろうと、正規軍10万相手に勝利することは不可能だ」


「まぁ、現実的にはそりゃそうか。なら、目的は、別か」




「肯定だ。自壊式オーバークロックを発動させた瞬間、君たちの肉体は徐々に爆弾へと変異する。閾値リミットを超えた瞬間、超広域を破壊する光へ変異、連鎖爆発を起こす」


「人間爆弾、ね。いやぁ、はは……テンションが上がるぜ!」




 膝が笑っている。

 否、武者震いだ。


 心臓の鼓動の音が高まる。

 否、胸が踊る。


 


「ただの超広範囲爆弾ではない。爆発範囲を人の住めない瘴気地帯グラウンド・ゼロへと変える」




 この世界は平面世界だと信じられている。

 この世界の地図の端は、瘴気の海。


 そこより先を誰も知らない。

 生存不可能領域それが、グラウンド・ゼロ。


 地上で爆発すれば地図に空白地帯を作る。 

 つまり、失敗は許されないということ。




「なるほど。だから、迷宮術士ダンジョン・メーカーの俺が作戦には不可欠ってことか。そりゃ、責任重大と」


「肯定だ。ダンジョンは隔絶された領域、異界に近い。ダンジョン内であれば、いかなる破滅的な爆発であれ、地表にその影響が及ぶことはない」




「了解。地表で死ぬなと、最悪の事態でも、全員ダンジョ内で死ねと」


「その通りだ。任務の成功の如何に関わらず、ダンジョン内で死ぬ。それが、最優先事項。王都の領内、領外、そのどちらでの使用も禁じる。国家間の戦争どころでは、済まなくなる」




「そんで、俺たちゃ何割ぐらい黄泉路への巻き添えにして、心中すりゃ良いんだ?」


「多い方が望ましいが、それよりも遥かに優先される項目がある。今回の任務の最優先事項は、召喚された転移者の無力化。ヤツをダンジョン内に誘き寄せる事に成功したのであれば、他の有象無象は無視してもよい。後のことは、私に任せろ」




「俺たちが死ねば、確実にソイツを殺し切れるか?」


「敵の能力は未知数。――断言できない。だが、可能性は考えうる中で、最も高い。それで倒せないのであれば、王都に為す術はない。敗北、ということだ」




「それ以外、策は無いんだよな?」


「ない。ありとあらゆる可能性を探り、私がたどりついたのが、この作戦だ」


「わかった。あんたが、そういうんだからそうなんだろうさ」




「君たちは、命を賭けてこの王都の民の命を守る。私は、君たちが大切に思う者たちの未来を守ると、誓う」




 これほど、心強い約束はない。

 この男が、誓ったのだ。なら、何も心配することなどない。


 ルナ、ユエ、テミスはアルテに王都で保護するようとお願いしている。

 アルテにだけは、今回が決死の作戦であることは伝えている。

 


 俺たちが王都を出た瞬間に王都を覆う都市結界が展開。

 内外からのいかなる干渉が不可能になる。

 あいつらには、最も安全な王都に留まって欲しい。


 アルテには、一番辛い役目を任せることになってしまった。

 それは、本当に、すまないと思っている。




「分かった、俺たちの死後のことは任せた。必ずし、シャドウ、マルマロ、エッジ、そして俺の大切に思う人たちを守り抜き、必ずしやその全員の幸せを約束しろ。それが、俺達が命を賭けて、任務を遂行する条件だ」



「委細、承知した。ギルドマスターの名において、必ずその約束を守り抜く。私の死後すら、交わした約束は果たす。君たちが託した者たちは、私の命より重要な物として扱うと、誓おう」




「後のことは、任せた」




執行権限者デーモン・ライセンス全番号ナンバーズに、最終命令を下す。いかなる手段を使ってでも、王都を守り抜け、そして、――死ね」

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