第9話『ギルド嬢ちゃん温泉に入る②』
女湯の音声を一時的につなげている。
スピーカーモードで通話する感じだな。
女湯にはルナとアルテ。
外には俺とユエが控えている。
温泉を体験してもらいリアルタイムで感想を聞く。
生の声ほど役に立つものはないからな。
「アルテさん、俺の声、聞こえていますか?」
「はーい! 聞こえていまーす」
「あーっ。おっさんの声が聞こえたー。へんなのー」
「ルナ、おまえはちょっとだけ静かにしてろ」
「あーいっ! ちょーりょーかーい」
それにしてもこの世界の人々の順応性の高さには驚く。
魔法や超常的な出来事が身近なせいだろうか?
一言でいえばおおらかなのだ。
未知の現象をありのままに受け止められる。
簡単なようで難しいことのように思う。
「ユーリさん、私のことはアルテって呼んでください。"さん付け"は他人行儀で寂しいですよ。長い付き合いじゃないですか」
「えーっと、そうだな……アルテ、湯加減はどうですか?」
「湯加減はちょうど良い感じですね。長くつかってものぼせにくそうな、ほどよい温度だと思います。あまり熱いとのぼせちゃいますからね」
なるほど。少しぬるめくらいのほうが良いようだな。
熱い温泉は好みがわかれるからな。
まずはぬるめでいくか。
「温泉のお湯は回復の泉の水ですが、癒やしの効果はどんな感じ?」
「はっきりと感じます。全身の疲れが取れていきます。さすがは回復の泉の水ですね。これならば冒険者の方たちにも自信をもって勧められそうです」
「マジで! その言葉は嬉しいなぁ。めっちゃ助かります」
「いえいえ! 現地調査にきてよかったです。報告書を作ってギルド内でも共有します。でも、どれくらいの効果があるかは未知数ですので……」
「ぶっちゃけ、報告書作ってくれるだけでありがたいっす。こっちでも集客は工夫するんで、あんまり気負わないでください」
「いえいえ、それに、実際に入ってみて感じたことなのですが、表面的な治癒効果とは別の面の疲れも取れているような気がしますね。なんでしょうか……。うまく表現はできないのですが……」
精神的なものだろうか?
うーむ……、なるほど。
むしろ温泉の本来の効能はそっちだもんな。
俺だけではわからないことがある。
自分だけの判断には限界がある。
そういう意味でもアルテの意見は参考になる。
客観的な意見はありがたいものだ。
「おっさん、ユエっち、はいらないのかぁー? あったけーぞー」
「アルテがいるし。俺とユエは、アカンだろ」
「ボ……ボクは、男なので、入りませんっ。男は、男同士で温泉にはいるべきだと思います。そうですよねっ、ユーリさん?」
「おっ、おう……そうだな」
「男女が裸体を晒す事は、……とても良くないことだと思います。ハレンチな、忌むべきことです。同性なら問題ありませんが。ですよね、ユーリさん!」
「えっ?……お、おう」
なんでだろうか。
すげー同意したくない感があるな。
それにしてもグイグイくるな。ユエ。
美少女にしかみえないのに押しが強いという。
ここらへんは男ということか。
「きゃはっ! おっさんもユエっちも、おとななのに、はだかみられるのはずかしいのかぁーっ! へんなのーっ」
「おまえも、生物学上は女なんだ。ちったぁ、慎みと恥じらいをだなぁ」
「せいぶつがくじょー? つつしみぃー?」
「そうだ。生物学上というのはだなぁ……」
「いみわかんないことゆーなっ!」
(いや、まだ説明すら始まっていなかったのだが?)
「ははーん。さてはおっさんツノがちいさいな? でも、そういえばユエっちのってエグかったっけなぁー」
「ルナさん、ボクは普通です! エグくないです。かわいいです!」
(いや、……だいぶエグかったぞ。かわいくないと思います)
「てへっ。ユエっちごめんーんっ」
「ルナちゃん。ユーリさんを困らせちゃダメですよ。体のことをバカにしてはいけません。慎ましやかなのも、個性の一つです。傷つく人もいますからね」
「そーなのー? えーっと。おっさん、ごめんね。ちっちゃいのも、こせー、だね」
「ユーリさん……ルナちゃんはまだ子供なので許してあげてください。私は、ユーリさんが、慎ましやかな人でも……大丈夫ですからっ」
(大丈夫って……何が?)
「男性の魅力はそういうところにあるわけではないと、信じています。気にする人もいますが、私は気にしません!」
「そーだぁー。おちこむな、おっさん!」
「逆に……男性自身が、素朴で謙虚な男性は、魅力的だと思いますっ! 逆に!」
(なにが逆なのだろうか。それにしても素朴で謙虚。アルテさん、すごい婉曲的な表現を使ってきたな。なんというか、婉曲的すぎてエロいな。……逆に)
「ボクも、ユーリさんのそういう謙虚なところが素敵だと思います」
なぜ小さい前提で話が進んでいるのだろうか。
俺のジョニーは、標準的なサイズだのはずだ。
わざわざ他人と比べたことはない。
だが、一応根拠はある。
告白しよう。思春期の時に定規で測ったことはあるのだ。
思春期の時にネットでみて気になったのだ。
気の迷い、若き日の過ちである。
その時はギリ俺のは標準サイズだったはずだ。
……なんとも虚しく意味のない試みだったな。うん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます