第10話『やっぱ混浴も必要かも?』
「でも、ルナちゃんの言うことも一理ありますね」
「そうか。一理ある?」
「はい。一理はあると思います」
「アルテの考えを聞かせてくれるか?」
「たとえば、冒険者の方たちはダンジョン内の回復の泉は、男女で一緒に入りますよね?」
「そういやそうだったな」
俺の所属していた漆黒は男だけだった。
だから詳しいことは知らない。
だが男女混成パーティーの場合はそうらしい。
「はい。武器や防具を外し、身一つの状態で、仲間と語り合う。ソレがともに戦う仲間と絆を
「それは、まぁ。そうだな。……なるほど。アルテが言うとすげぇ説得感あるわ。うん」
さすが多くの冒険者のことをみてきただけはある。
経験からの言葉だ。説得力があるし、適確だ。
ダンジョンでは、回復の泉は男女一緒に入る。
回復の泉はトラップや敵のいない、安全地帯。
魔獣のうろつく室外に仲間を置いていくことはできない。
安全面を考えれば当然のことではある。
漆黒は男だけのパーティーだ。
だから、俺は実際に見たことはないが。
他の冒険者がそんなことを話していた。
俺は無意識に異性を意識しすぎないのかもしれない。
郷に入れば郷に従わねば。商売の基本だ。
「いやー。本当、勉強になるわ。マジ、ありがと」
「あっ、でも、あくまでも私の個人的な感想です。商売に関してはシロウトです。あまり気にしないでください。差し出がましいことを言ってしまったような……」
「いや、参考になるので遠慮なくガンガン言ってください。すげーためになります」
ユエとルナの意見はあんまりあてにならない。
まぁ、この世界の人たちと価値観のずれた俺もそうなのだが。
ユエは『いっそ、男湯に特化してみたらどうでしょう?』とか言ってるし。
ルナは『わははっ。りんごでも売ればぁー』とか適当な事しか言わない。
すまん。参考にならない。
やっとまともな人の意見が聞けた。ありがたい限りである。
常識的な人の意見がこれほどありがたいとは……。
「少しでもユーリさんのお力になれたら嬉しいです」
「マジで助かるぜ! なるほどね」
「えっと、恐縮です……少し耳に痛いお話もしてしまったかもしれません。あくまでシロウトの意見なので、そんなに気にしないでください!」
「いや、全然耳に痛くないし。つか、めっちゃ助かってる。商売コケたらおれたち露頭に迷ってしまうんで。あっはっは!」
笑いことではないのだが、笑わねばやってられない。
ユエもルナもいろいろワケアリなのだとは薄々感じている。
今は、俺くらいしか頼れるところがないのだろう。
あんまり詮索するつもりもない。
自分から話したくなったら話せばいいことだ。
いろいろあるのだろうが、いつも元気にしている。
脳天気な二人には救われている面があるのも事実だ。
二人分のメシを食わせるためのは楽ではない。
まぁ、誰かのためだからこそ踏ん張れているという面もある。
それにだ。
一人でないというのは、それだけで……悪くない。
人付き合いがヘタな俺ですら、そう思う。
まぁ、……格好悪いから言葉にはしないが。
「そうですか?」
「そういう率直な意見はマジで助かる」
「これはあくまでも一般論のお話ですが、男女の肌を過度に見せることを気にしすぎるのは、逆に……その、えっち……なことだと思われるかもしれませんね」
「もう少し詳しく聞かせてください」
「はい、わかりました。男と女をきっちり分けることによって、逆に男女を意識させてしまうといいますか」
「なるほど」
「たとえば、男しか入ってはいいけない宿屋とか、女しか入ってはいけない道具屋とかが王都にあったら、ちょっとだけいかがわしい施設のように感じませんか?」
「……たしかに。絶対えっちな施設だと思うわ」
「たとえば一般的な宿屋や道具屋のように、はばひろい層のお客様を呼びたいのであれば、男女を分けずにするというのも一つの考えかもしれません」
この世界の男女は互いの裸をみる機会が多い。
それを恥ずかしいことだとは思わない。
日常の風景だからそんなに意識しない。
それは事実だ。
貞操観念がないわけではない。
ただ、恥じらうポイントが違うというだけだ。
男女の秘め事はあるし、色恋話は小声で話す。
何でもあけっぴろげに話すわけではない。
女は花束を渡せば頬を赤らめる。
少しだけ価値観が違うというだけだ。
「ただ、もちろんユーリさんのように……その……男性自身が……謙虚で
「……んっ?」
俺のサイズの話はしていないし、誰にも見られていない。
ルナがてきとーなこと言っているだけだ。
風評被害も甚だしいぞ。
それにしてもアルテさん。
今日び『男性自身』って言葉聞かないけぞ。
昭和かな?
「そういう方たちのために男女別のお風呂にも意味があるかもしれません」
(いや、別に俺の、謙虚じゃないからね? おいこら、ルナ。表にでろ)
「あたい、泳ぎつかれた。おねーさんのおっぱいでじゅーでーん」
「だめですよ。ルナちゃん、もんじゃだめですっ! くすぐったいです」
「えへへっ。おっきー。ママのみたい。へるもんじゃないしさわらせろーっ」
(おまえは、おっさんか)
「ふふっ、くすぐったいです。ダメですよ、そんなところをさわったら……っ」
「……………………」
「おねーさん、おとななのに、した、ツルツルだねーっ」
「ルナちゃん。大人でもいろんな人が居るんですよ!」」
(――――ルナッ! グッジョブ)
俺は一人、親指を立てていた。
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