第76話『採掘王と傭兵王』

「私は、過去に盤上遊戯ですら、あの男に勝てた事がない。この結果は必然だったか。――いっそ清々すがすがしい、そういさぎよく言いたいところだがやっぱり、……悔しいな」


「はは、そりゃそうだ。それで良いんだよ。負けて悔しくないなんてのは、ウソだ」





「……――ベオウルフ、君の本当の、雇い主は」


「……………………」





「……いいや、あえて、聞くまい」


「すまねぇな。守秘義務は絶対だ」





 私がゲームを始める前に、ゲームは終わっていた。

 君は……本当に。はは……、嫌な奴だな。





「気にしないでくれ。君に気を遣わせてしまった私の方こそ、すまない」


「……そう言ってもらえると俺も少しは気が楽になる」






「ベオウルフ。君は、課せられた義務と職務を、果たしたまへ」


「惜しいなぁ……これで、終いかぁ」





「ベオウルフ。君の最終任務は、私の殺害。そうだね」


「…………、そうだ」





 いまは亡き妻が、私の隣に居たのなら。

 私が愚かな行いをする、その前に正してくれただろう。



 私には考えられる事、できる事に限界がある。 

 だから、一人で考えると間違える。

 私の心の弱さが論理ロジックを歪ませる。




 ギルドマスターとの決別。

 最愛の妻との死別。




 私は一人になった。

 そして私は安易な『万能』を選んだ。




 そんな私が最後の最後で、友を得た。

 私が勝手にそう思っているだけのこと。

 それでも良い。それで十分だ。




 隣に語り合うことのできる誰かが居る。

 私は、救われた。




 私は一人で考えると過ちを犯す。心の弱い愚か者。

 そんな私に最後に友が。それこそが、きっと、奇跡。



 だから私の過ちを正すのは、ベオウルフ。

 ――――きっと君だ。





「ベオウルフ。私は、シン。私が招いた罪を、自らの手で討ちたい」


「過ちの種を刈り取ろうとする心意気、汲んでやりたい。だがな、……駄目だ」





「君とて、あの存在を看過できない。そうだろ」


「もちろんだ。傭兵なんてのは、所詮、平和な世でしか必要とされない者たち。世界中に戦争が広まれば万民が武器を持ち、兵になる。そんな世界で傭兵は不要になる。そして、俺の国は滅び、民は飢える。だからなぁ……アレは、看過できない」





「そうか、ベオウルフ。私と目的が同じなら、それでし」


「俺は、あんたは殺す。仕事だからな。その後に、アレは俺が殺す」





い。――私の感傷と、君の任務は、一切の関係がない」


「あんたの決意と覚悟、無にしてすまねぇな」





「――いや、問題はない。どのような結果になろうとも、願いは叶う。これは、確率でも運命インチキでもない。これは運命に対する宣戦布告、勝利宣言だからだ」


「ははっ、なるほど。あんたも男だな。そうだ、最後はガッツのある方が勝つ」





「私と、君の願いは同じ。どちらが勝っても目的は果たされる。この部屋を生きて出た者が、すなわち強者。君が私を倒せるのであれば、それで、し」


「勝っても負けても、あんたの望みは叶うってわけか。そりゃ、いいなァ」






「私は、シンを滅するために用意した力を使う。本気で来い。私は君を、殺す」


「おうとも。こっちも、あんたを殺す気マンマンだ。遠慮なく力を振るえよ」







「ベオウルフ。王としての君の想い伝わった。満足だ。これ以上、語る言葉はない」


「決闘開始の合図は」





「せっかくだ。先ほどの賭けで君からもらった、この金貨を使おう。この金貨が地面に着いたら、決闘開始だ」


「そりゃ、シンプルで好い」





「賭け金は金貨一枚。君が勝った時は、この金貨を持って行くがよい」


「分かった」





 親指で弾いた金貨がクルクル回転しながら天井に向け跳んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る