第77話『決着』

 …………血……ひやりとした、床の感触。

 ……私は……負けたのか。




 使用した確殺型迎撃遺物カウンター・アーティファクトは3つ。




 『魔弾の手套デアフライシュッツ』:因果を逆転、必ず先手を取る

 『小さな鍵レメゲトン』:この本に触れたあらゆる物を本の世界に封じる

 『奈落の小片フラグメンツ』:しかない空間に通ずるアナ





 まず、『魔弾の手套デアフライシュッツ』でベオウルフの神速に先んじる。

 因果逆転。光速を超える斬撃であっても先手は確定。


 次に、『小さな鍵レメゲトン』が、曲刀カムシーンとらえる。

 瞬時に触れた対象は『小さな鍵レメゲトン』に封じ込められる。


 最後に、『奈落の小片フラグメンツ』に『小さな鍵レメゲトン』を落とす。

 これで、……勝利できるはずだった。








 ・・・・・・・・・・。








 これは、自信のある……必勝戦法。

 だったんだけどなぁ。はは……。



 シンという、召喚した使い魔。

 ヤツは復活と復活時超強化のスキルを有する。

 『黄金道十二宮アンヘルゾディアック』『救世主福音書ニューゲームプラス



 つまり、殺せば殺すほど強くなる。

 長期戦は圧倒的に不利。



 だから初手で本に封じ奈落に落とし無力化。

 ……つもり、だったんだけどなぁ。



 傭兵王の鉄の曲刀――三日月刀カムシーンに、断ち斬られた。

 …………完全なる決着。私の敗北。



 この流血の量。……もって、あと18分程度。

 13分後には血液不足で意識の混濁が始まる。

 自分の正確な死期がわかる。



 ふふ……やはり、勉強しておいて良かった。 



 最後に語り合う時間をくれたということか。

 ありがたい。私の自慢の友だ。






「……ベオウルフ。君の勝利だ。そして、私の、敗北だ」


「……十分にシンをほふれる、完璧な連携技だった。ハッたりでも、無謀でもない、ちゃんと考え、よく練られた、エゲツないほど確殺の連携技だ。……あんたがアイツとマジで対決しても、アレに勝てたんだろうなぁ……」





「お世辞はいい……、――――いや……やっぱり、お世辞でもいいから、君からの称賛の言葉は……聞きたいなぁ……私はね、ギルドマスターと居た冒険者時代……そして、王になったあとも、……本当の意味で……私を、認めてくれてる奴はいなかったよ……どこか、みんな、心の底で……馬鹿にしてるみたいでさ……そりゃまぁ……私だって……目を見りゃ、相手がどういう風に思っているかくらい、わかるよ……はぁ……まぁ、正直……それなりに、……そういうの、こたえたよね……ははっ」





「あんたの周りはクソ野郎ばかりだぜ。キザったらしいギルドマスター、あんたを侮り罵倒した冒険者時代の仲間、影でせせら笑っていた臣下、みんな、クソ野郎だ」


「はは……仕方ないさ、私は元平民……それに、実績、出せなかったからなぁ……」





「……俺が、あんたに勝った理由はただ一つ。それは、世界で一番、あんたに関心を持ち、興味を持ち、誰よりあんたに詳しい、採掘王殺しの、専門家スペシャリストだからだ」


「君も、変わり者だな……私に関心を持ってくれたのは、世界で二人。……妻と、君……他の者が、私の名を出す時は、……はぁ……まぁ、もう、そんなこと……どうでも、いいか。……それは光栄だ……つまらない、人間だっただろ……叡者えいじゃ。……努力した凡才。そんな私に、興味を持ってくれて、ベオウルフ、君に、感謝だ」





「あんたの遺物を使った連携技。完璧だった。俺に曲刀カムシーンを抜かせたその事実だけでもあんたは大した戦士だ。その闘志に敬意を示そう。あの化け物も殺せた。俺がアレを打ち破れたのは、ちゃんとタネがある。物事には、必ず理由がある」


「……その手品のタネを聞かせてくれないか」





「単純な手品トリックだ。あんたの所有遺物アーティファクトはな、その特性、材質、弱点、……事前に調査済みだ。さらに、あんたの使える剣技、魔法、得た知識、行動パターン、そのすべてを完璧に予習。精神面の弱点も含め、完璧に対策した。まぁ……何の対策もせず、初見だったら殺されてたのは俺だったな、ははっ! まぁ、俺も俺で、死ぬほど勉強してんだよ。殺しの専門家スペシャリストは、絶対に油断はしない。あんたと同じように、仕事の前には、可能な限り徹底的に準備をする。目の前の野蛮な男は、実は意外と勤勉な男だったんだぜ? 根っこのとこでは、あんたと、俺は似た者同士だったつーこったなぁ」



「似た者同士か。嬉しいよ……最高の褒め言葉だ。まぁ、……違うのは、私は……君と違って、勇敢じゃない。……だから、シンに対して確実な勝機がなければ……最初から、私は頭を下げ、君にお願いしていた……でも、君はきっと……完全な勝機がなくても……闘うのだろうね」





「……――俺は、自分の罪を自らの手で消し去ろうとしていた、あんたの心意気、決意を無にした。すまない。……だから、あんたを殺した俺は、あんたの代わりに、――――いや、それ以上に、完璧にアイツを、肉体だけでなく、心まで破壊し尽くし、討ち滅ぼしてみせよう。それが、……傭兵王流の筋の通し方ってもんだ」


「……ベオウルフ、私の罪の後始末を、……すまない。そして、ありがとう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る