第40話『王都侵攻計画:採掘王と傭兵王の辺境伯評価』

「道化の引き連れていた護衛についてだが、戦闘の専門家プロフェッショナルとして、君に聞きたい。あの一件を君はどう評価する?」


「まず、護衛。数こそ少ないっすが、遠征かつ外遊と考えるならまぁ妥当な人数。大盾タンク1名、魔術師キャスター1名、盗賊シーフ2名、剣士ソードマン2名。ゲテモノには似合わないバランスの取れた悪くない人選っすねぇ。この人選において、一切遊びはなかったっすわ」




「結果から見れば明らかだが、君のその評価は、過大評価だと思う。もちろん、専門家プロフェッショナルの君が言うのだから、一分の理はあると理解はするが」


「それと、護衛たちの過去の経歴ざっと目を通しました。冒険者で言えばAランク相当。Sランク複数相手でない限り負けることは、絶対ない。そう結論づけました」




「専門家だからこそ、過去の経歴の評価を過信することがあるということなのかもしれない。一般人に、負けたというのは揺るがぬ事実。経歴はともかく、あの道化に相応しい、粗悪品だったということだろう。経歴などいくらでも捏造できるさ」


「ひひっ。まぁ、そっすね。まぁ、バカな俺ではこの程度の、ひひっ、的はずれな推理しかできないっす。先生のご考察をお聞かせいただけませんかねぇ?」




「結論から言おう。あの道化の直接的な死因は偶発的な災害によるものだ」


「ひひひひひっ」




「小規模な隕石の落下」


「ひひっ、隕石っ」



「または地脈のマナ溜まりの暴発」


「隕石、地脈の暴走。はぁ、死に際まで荒唐無稽な男っすね。ひひっ」




「落雷で死ぬ人間も居る。確率的にありえない話ではない。死に際でまで笑いを取ろうとゆうのだから、道化師としては一流ということだ」


「なるほど。なるほど。ひひひ。続きを」




「まぁ、これは私の遣わした者による、現地調査で得た情報によるものなので、間違いないだろう」


「そりゃ、凄い」




「激しい長雨のせいで、その痕跡が保全されなかったのが残念だ。雨がなければ、隕石か、地脈の暴発か、その解を君に答えることもできたはずだ」




「それに、護衛を倒した相手が、凡庸な一般人であることまでは調べがついている。素人の私が、専門家の意見に反対するようで、恐縮なのだが、これもほぼ確実だ」


「はぁ。で、裏はとれているんで?」




「護衛の身柄はギルドに拘束されている。証言は得られてない。だが、おおむねの調べはついている。まぁ、私達が楽しめるような意外な事実は、なかった」




「いやー。一級の護衛6人を倒す一般人ねぇ」


「驚くことではない。一般人も、護衛も、Aランクも同じ人間。たいした差などない。サイコロの出目が悪ければ、このような、番狂わせも起こるというものだ」




「はぁ……そうなると、どのような筋書きになるとお考えで?」


「外遊先で、暇つぶしの憂さ晴らしに一般人相手に喧嘩を売り、間抜けにも返り討ちにあったのだろう。きっと相手も、凡夫の中ではそこそこの腕自慢だったのだろうね」




「ひひ、ふひひっっ、いやー面白い、名考察で。勉強になります。続きの考察をお聞かせくださいますかね?」


「あの道化が怯えて、逃げた先に何らかの災害に巻き込まれ死んだ。そんなところだろう。護衛が倒れたのも、災害が絡んでいる可能性はある。雨天を、集団で歩いていたら運悪く、落雷で全員昏倒。まぁ、金属類の多い装備をまとった者たちだ。不思議ではない」




「いやー。さすが、大先生。脚本まで作れるでとは。素晴らしい」


「独自の調査と状況から分析した推論。脚本は、いささか失礼な評価だな」




「すんません。こちとら学ないんで。細かい語彙とかわからないんっす」


「ふむ。そうか、いや、気にしないで欲しい」




「専門家だからこそ、君はいろいろと複雑な想像を巡らせ、深読みをしてしまう。論理的思考の罠というやつだ。事実は、このようにつまらない物だ」


「天井のシミがオバケに見えるっつーアレっすかね。何もないのに、色々考えを巡らせて幽霊を作るっていうような……はひっ」


「良い例えだ」




「ひひっ。まぁ、そっすね。そういや、先生は魔王牧場でしたっけ? あれ、かなり期待していたんじゃないっすか? ひひ。資金援助していたとか?」


「魔王を創造する施設。荒唐無稽な妄執を十代も信仰し続けた、世にも珍しい極上の変種。天然物の道化として、最上級と評価していた。資金援助といっても、投資ではなく、娯楽の一環だよ。リターンはもとより期待していなかった」




「アレが、最上級? ひゃはは。いやー。ゲテモノの味は分からねぇですな」


「美食も過ぎれば、飽きがくる。たまには、あのような珍味を食したくなるものだ」




「へー。そんなもんっすかねー。美食は俺にはわからねぇーっすわ。ひひっ」


「君も、より豊かになれば、ああいったキワモノの味がわかるはずだ。私と伴にある限り、その未来が盤石になると、約束しよう」




「それにしても、自覚なき道化というのは、傍で見る分には面白いものですねぇ。あー。俺も、もっと……見たく……いやいや……ひひひっ、我慢我慢」


「随分と喜んでくれたようだね。望むなら、君専用の道化を用意しよう」




「いや、大丈夫っす。俺、養殖より、天然派なんで」


「君も随分と、舌が肥えてきたようだね。良い傾向だ」




「あの男の愚かさを過小評価していたようだ。事前に外遊を知ることが出来たなら、君をもう少し、もてなすことができたのに。残念だ」



「死んだもんは、あんま興味ないっすかね。やっぱ死んでる道化より、生きた道化っすよ。王もそう思いません? ひひっ」



「確かに、何事も鮮度は大事だ。君も、私とともにあれば、必ずしや君の望む道化とも会えるだろう。欲するものは、私が与える。君は武力で、報いてくれれば良い」




「王は、随分とあの男を評価していらっしゃるようで」


「道化として至高の逸材だった。投資もしてきたのだ、多少の未練はある」




「未練。いやー。あの辺境伯も、きっと地獄の最下層で光栄に思ってますよ」


「いままで、笑わせてもらった御礼だ。この位の言葉は贈っても良いだろう」

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