第39話『王都侵攻計画:異世界召喚の儀』

 玉座の間は、アグリィ辺境領と転移門で繋がっている。


 門を潜って玉座の間に転移した者は、拘束される。

 そして、これから何が起こるかの説明を受ける。



 その後、召喚硬貨タリスマンに変える変換器コンバーターの上に乗せる。

 ほどなくして変換器から人は消え、真っ黒な硬貨が残る。


 この硬貨は、異世界からの使い魔の召喚に使われる触媒。




「他の世界からの使い魔の召喚。そりゃ、まぁ、なんともうさん臭い。不確実の中でも、一等不確実なものですなぁ。採掘王らしいご趣味で」


「もとより遊興。失敗してもさしたる害はない。仮に失敗した時は、亜人という時限爆弾が破裂するのを、気長に待とうじゃないか」



「それにしても、なんで殺す相手に生贄の儀式の説明してるんすか?」


事前殺傷同意説明インフォームド・コンセントというものだ。突然命を奪うというのは倫理的に問題がある。君はそう思わないかい?」



「そんなもんっすかね。俺は難しいことは、分からんですわ」


「それに、その方が味わい深い最後が見れる。君のための催しと思って欲しい」




「そりゃ、光栄なことで」


「人の命を使い捨てにする見世物。なかなかに贅沢な遊興だ」




「まぁ、楽しいかは分からんですが、死に際は、なかなか個性が現れますな。この列に並んでる連中は、ある意味、人間の新しい可能性なんじゃないかって気がしますわ」


「それはどういう意味だい?」




「あの辺境伯の領地。あそこは、純粋培養の血統書付きの悪党を繁殖させる牧場だったんじゃないかって思うんすわ。硬貨にされている有象無象のどれもが、かなりの悪性の持ち主」


「牧場での亜人の交配よりも、牧場外での人間の交配の方が成功していたと?」




「戦場という地獄でも、断末魔にここまでの悪性を見せる奴らは居ないっすからね。なんつーか、こいつらマジで人間じゃなくなってるんじゃねーかな、と」


「君の物事を大げさに評価をする悪癖が出ている。とは言え、面白い評価ではある。あの規模で純血の悪性を持つ者を育てるには、何世代も掛かるだろうからね」




「牧場の魔王なんちゃらつーのは、まぁ、妄執に囚われた狂人の誇大妄想として、自覚なき純血の悪党同士を交配させあって、人の悪性を強化、最強の極悪人を作ろうって、試みだとしたら、こりゃ、もう大成功といって良いんじゃないすかね?」


「血統書付きの、悪。君のところに欲しい人材だったかな?」



「いやー。劇物はいらないっすわ。取り扱い間違えれば国滅びます。こちとら、遊びで殺しやってんじゃないんで。金儲けのための仕事なんすわ。遊びで、人殺しされても迷惑千万っすわ。あそこまで腐ったら、傭兵としても使い物にならんっすね」


「あの道化はたった十代で、ここまで人を作り変え、堕落させたということか」



「殺しまくってる俺が言うセリフじゃねーんすが、あれらが、同じ人間だとは、信じ難いっすわ。なんか、もう別の種族なんじゃないかなと」


「別の種族。少しばかり飛躍が過ぎるが、見世物としてはこれほどの物はない。これから親交を結ぼうとする君に、楽しんでもらえたようで何よりだ」



「ひひっ。王様に接待してもらえるなんて、俺も偉くなったもんだなぁ」


「あれらは、壊れてしまった価値なき命。その最後の命の輝きは、王すらも興じさせる」





「あーっと。そういや、死んだ後に現れる黒い硬貨は一体なんっすか?」


「この硬貨は、そうだな。この世界とは異なる異世界から、使い魔を召喚するために必要な触媒と思ってくれれば良いだろう。召喚硬貨タリスマンと呼ばれる物だ」




「いやー。禍々しい色してますな。触れただけで、呪われそうな色してますぜ。ひひっ」


「銀色の硬貨が出ると書かれていたのだが少し、予定と違うが、まぁ、色の違いなどは些末なことだ。召喚の触媒として使えればそれで良い」


「さすがは、王。器が大きい。豪胆でいらっしゃる。細かいことは気にしないと、ひひひひっ」




「それにしても、随分と集まりましたな。10万枚くらいあるんじゃないっすか?」


「硬貨の枚数が多ければ多いほど、より強力な使い魔を召喚し使役できる」




「等価交換って奴ですかね」


「これだけの硬貨を使えば、どれほど強力な使い魔を召喚できるか、想像したまへ」


「ひひっ。楽しみですなぁ」



「これだけの命を使い捨てにするんですから、当たりが出てほしいものですなぁ」


「そうだな」






 *







「それにしても、誰一人転移先から戻ってこないのに、だーれも疑問に思わないもんなんすかねぇ?」


「驚くには値しない。すべて亜人頼みで考えることを放棄したものの末路だ。道化の狂言に盲目従う愚者ハーメルンの笛吹に従う者たち、考える頭など元より無い、散り際で王を笑わせるくらいの使いみちのない、愚物だ」


「ひひっ。そりゃまー。いままで仲良くしていた、お友達に対して随分と手厳しい評価をなされますなぁ」




「汚れ仕事をさせるにはあれほど使い勝手のよい駒はそうあるまい。そういった面では、あのピエロたちは、便利に使える代物であった」


「タダほど高いものはないという教訓ですな」




「自給自足で手間がかからないので都合のよい存在ではあった。僅かばかり、失うことが残念だという想いはある。授業料と思うことにしよう」


「経費をケチると良いことはないっつーことですな」




「その汚れ仕事を、俺に任せることになったから、もう惜しくはないと」


「失礼した。汚れ仕事、という言葉は訂正しよう。必要な悪、暗部の仕事と言った方が通りがよいか」




「いやいや、お気になさらず。こちとら、プライド持ってやってるんでね」


「便利ではあったが、あれらはシロウトの集団。今回の事故も起こるべくして起こったこと。今後は、信頼のおける専門家プロフェッショナルにお願いしたい」


「ひひっ。言質、取りました。もう引っ込められませんぜ」




 採掘王は傭兵の王に手を伸ばす。




「簡略式ではあるが、どうかこの私との握手をもって、正式な同盟の締結とさせてもらいたい」


「よろこんで! 大口取引ゲット。引き受けさせてもらいまさぁなぁ」


「こちらこそ宜しく頼みたい」




「それにしても、まさか辺境伯が殺されるとはねぇ。わからんもんです」


「先が読めない、それが人生の醍醐味というものだ。大番狂わせがあるから、楽しめるというものだ」




「へー。俺にはわからん価値観っすわ」


「君も、私とともにあれば、遊興の奥深さというものが分かるはずだ」




「そりゃ、ぜひとも教えて欲しいもんっす」


「約束しよう。公私ともに、君とは親交を深めたいものだ」


「いや。ひひっ、光栄なことでさぁ」




 サイコロを振るう。3D10。

 3つのサイコロの合計の値は4。成功。

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