第38話『王都侵攻計画:採掘王と傭兵王』

 ここは採掘国の玉座の間。



 採掘国と傭兵国の王との会談が行われている。

 秘密会談の内容は、王都侵攻について。



 採掘国は太古の遺物アーティファクトの発掘により発展した都市国家。

 王都と並んで歴史を有する都市国家。

 その民の殆どが人族のみで構成されている。

 


 傭兵国は特定の主義を持たない小国。

 傭兵の派遣で外貨を稼ぐならず者の国。

 報酬が貰えるならば誰とでも手を組む。

  



「採掘王、牧場とかいう施設の亜人、解放して問題なかったんすか?」


「かまわない。あの亜人たちは、いつ爆発するか分からない時限爆弾だ」




「時限爆弾、といいますと?」


「亜人たちも、王都の貴族たちが統治する領の一つ。辺境伯が隠匿していたこととは言え、知らなかっただけではすまない」


「そりゃ、まぁ、そうですな」




「自国の領地で生まれた者である以上、亜人を引き受けなければならない」


「辺境伯も王侯貴族。まぁ当然の義務ですわな」




「牧場という限られた世界、それしか知らない亜人を数千単位で引き受ける。起こる未来を、目をつぶり想像してみたまへ」


「食糧の枯渇、治安の悪化、経済の停滞、格差の拡大……なるほど、手を汚さずに、国力を削げると。そうお考えで?」




「さすがは、傭兵国の王、ベオウルフ。悪くない回答だ。君の後ろ盾を得たことで、私の勝利は、より確実なものとなった」


「ははっ。国なんて大層なもんじゃねーですわ。ゴロツキばかり集めたならず者国家ですよ」


「謙遜しないで良い、ベオウルフ。君と、傭兵国の偉業を知らぬ者はいない」




「ならず者の小国が、由緒正しい国の王に認めて頂き、光栄至極っす」


「こちらこそ、どうか王都を占拠したあとも、君の力を頼らせて欲しい」




「よろこんで。亜人たちの引き取り手がないっつーなら、うちの国で引き取って傭兵でもさせれば、一儲けできると思っていたんすが、仕方ないっすな」


「王都を占拠したあとは、好きなだけ王都の民を持っていくがいい。まだ発掘されていない遺物が期待できる王都の領地は欲しい。だが、そこにいる民は不要だ」




「うっす。よろしく頼んますよ」


「無論だ。約束しよう」




 採掘王は十面ダイスを大理石のテーブルに放る。3D10。

 3つのサイコロの合計値は、25。完全成功クリティカル




「ところ、採掘王はなんでサイコロがそんな好きなんですか?」


「私には、未来が読めてしまう。その未来をなぞるだけでは、つまらない」




「ひひっ。偉大なる王は、深遠なる哲学をお持ちのようですな」


「人生には、不確定要素というスパイスが必要だ。あらかじめ定まった運命をなぞるだけ。それでは、退屈だ。だから私は判断をサイコロに委ねるのだ」




「退屈? そんなもんすかね。さすがは、元ギルドマスターのパーティーの参謀。叡者様は言うことが違いますな」


「王になる前の遊興に過ぎない。民は、勇ましい武勇を好む。王になるまえの権威付けに戯れに加わっていただけだ。私は、そこに何の思い入れもない」




「あらら。お友達に対して、随分と冷たく、いらっしゃる」


「彼に対して、好意も嫌悪もない。もとより、特段な思い入れはない。私の前に立ちはだかるののであれば、排除する。それだけのことだ」




「はーん。そんなもんですかね。いやぁー、あんたもドライなお方だ」


「君ほどではないさ」


「そりゃそうだ」


「王都が破滅する光景を遠目でみる、それもまた、王の遊びの一つ」




 採掘王は手のひらで十面ダイスを転がす。

 サイコロがぶつかりあい、カラカラと音がする。




「ですが、爆弾は起動しますかね。んな最悪な事態になる前に、受け入れた亜人を追放するのでは?」


「それはそれで、私にとっては最高の結果だ。むしろ脚本としては、そちらの方が望ましいほどに」




「そりゃ、またどうして?」


「意志と尊厳。これは、暴力では奪えない、尊きものだ。自らの手で放棄させてこそ、意味があるというものだ」




「なーるほど。まぁ、ゴロツキの俺らにゃ、元より無いものっすがね」


「ギルドの掲げる、法、秩序、公平、それらの高潔な理念が、なんの意味のない嘘だと自覚させる。これ以上に痛快な勝利はない」


「はははははっ、さすが、採掘王……それは、極上の遊興ですな。さすが、いい趣味をお持ちで」




「不確実だからこそ、楽しめるものもあるということだ」


「俺もまた、その不確実の一つって訳ですかね?」


「いや、戦争という局面において君ほど確実な物はない。君が、私についてくれた時点で勝敗を決している」




「確実を求めながら、不確実を楽しむ。俺には矛盾しているように聞こえますが」


「確かに私は、予測できない不確実な未来を好む。だが決して敗北を許さない」




 サイコロを振るう。3D10。

 3つのサイコロの合計の値は10。成功。




「確実に勝利が約束された選択肢の中でのみ遊ぶ」


「それは、つまりどういうことで?」




「私は3つのサイコロを振るい、その出目で行動を判定をする」


「はぁ」




「3未満の出目で失敗。3以上の出目で、成功。サイコロの数は3、最悪でも3以上が確約されている。成功か、大成功かの違いしかない。絶対失敗ファンブルは、ない」


「あはは。そりゃとんだ、イカサマだ」



「もとより、私がふるうサイコロにおいて敗北の判定はない。あくまで、約束された勝利の中でのみ、不確実を遊ぶということだ」




 カラカラとサイコロが転がる。3D10。

 サイコロの合計の値は3。成功。




「不思議と、君と一緒に居ると饒舌になってしまう。勝利のあとも、どうか今日のように私の話し相手になってもらえると嬉しい」


「ひひっ。喜んで」




「まずは、目の前の不確実を楽しもう。使い魔の召喚儀式を始める」


「使い魔の召喚。魔導書による悪魔召喚みたいなもんっすかね」




「同じような物と考えて差し支えないだろう」


「そもそも、悪魔とか、召喚とか、よくわからない物を俺は、使う気にはならんですがなぁ。王は、そのあたり怖くないっすか?」




「動作原理や構造を理解する必要はない。都合のよい結果が出るなら使う」


「採掘で収集している、遺物も便利だから集めているだけと」




「もちろんだ。遺物を過度に恐れる必要も敬う必要もない。所詮、昔の人間が作った、人のために作られた道具に過ぎない。それ以上でも、それ以下でもない」


「なるほどなるほど」




「そういえば、ベオウルフ、君は、魔剣の類を扱わないと聞く。なぜかな?」


「どうにも胡散臭くて、信用できないんすわ。頼れるのはこの曲刀カムシーンだけっすね」




「世界は広い、頑なにならず、より広い視野を持つといい。私とともにあれば、より深く世界のなんたるかを、君に教えてあげることができるだろう」


「世界っすかぁ。さすが100万都市国家の王。言うことが違いますなぁ」




「例えば、人を殺めた数に応じ成長する魔剣ブラド、君との相性は良さそうだが」


「使い手の俺の成長を放っておいて、剣に勝手に強くなられてもなぁ」




「君への土産として用意した、幻想級ファンタズマ業物ワザモノだったのだが、残念だ」


「いや、貰えるもんはありがたくもらいます。額縁に入れて飾らせてもらいまさぁ」


「喜んでもらえたようで何よりだ」


「まぁ、俺みたいな野蛮人には単純な刃物が向いてますわ。レアな武器とかは美術品として飾るだけで十分っす。人殺すのに、必要以上に強い武器は不要ですからね」




「この村の儀式がうまくいけば、それはそれで良し。失敗した時は、亜人受け入れによる自壊を待った後に、攻め滅ぼせば良い」


「へー。気の長いことですなぁ」




「人生は長い、焦る必要はない。どのような結果が出ようとも、それを受け入れようじゃないか」


「まぁ。俺は金さえ貰えれば、文句は言わないっす」




 採掘王は手の中でサイコロを転がす。




「それにしても、誰もかれも、疑わず転移門に乗るなんて、あの領民たち、無警戒も良いところですぜ」


「私の国とは、長年に渡って信頼を築いてきた間柄だ。疑わないのも、不思議なことではない」




「なんつーか、屠殺待ちの豚みたいで、皮肉を感じますなぁ」


「傭兵の王、ベオウルフ君。君も少しずつ、滑稽という物の醍醐味を理解してきたようだね。よい傾向だ」


「おかげさまで。ひひっ」




 サイコロが盤面を転がる。

 カラコロという乾いた音が響きわたった。

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