第41話『王都侵攻計画:最凶転移者の召喚』

「それにしても、マジで王都に攻めいるつもりなんすね。ひひひっ」


「恐れることはない。ここに至れば、もはや勝利は必定。通過点。確定した未来をなぞるだけのことだ。傭兵王、ベオウルフ。君とともに」



「まっ、金もらってる立場なんでつべこべ言わないっすが、まぁ、イかれてるな、と。いや、いい意味で。傭兵流の褒め言葉と受け止めて下さいよ、王」


「不敗の戦神の傭兵流の、激励、ありがたく受け止めさせてもらう。勇者不在のいまこそ、千載一遇の好機。歴史が変わる、その瞬間をともに見届けようではないか」




 カラコロとサイコロが転がる。3D10。

 3つの十面ダイスの総数は16。成功。




「もし、使い魔の召喚に失敗したらどうするんっすか?」


「その時は、決起の時を少しずらすだけだ」




「はぁ。そりゃ困るなぁ」


「安心して欲しい。失敗したとして、報酬は約束の通り支払う」




「仕事せず金が貰える、と。そりゃ、至上」


「元より証拠を残さぬよう、あれらは王都の監査が入る前に、即座に処分する必要があった。その目的は達成済み」



「一石二鳥たぁ、強欲ですなぁ、王」


「現時点で最低限の成功は得ている。更に、私はその上の完全成功クリティカルを狙う」




「そうなると、これから起こることは遊興と?」


「そうだ。未来は決まっている。せめて、その途中の分岐くらいは、私の予想を超えてもらうものではないとつまらない。だから、こうやって行動の判断をサイコロで決めるのさ」




 大理石の机をサイコロが音を立て、転がる。

 3つの十面ダイスが27。3D10。

 数値は28。絶対成功クリティカル





「へぇ、なかなかの数字」


「今や、確率すら私達の味方をする」




「次で最後の一人っすかね。これで、演目も終わりと」


「なかなか味わいのある見世物であった。散り際すら、楽しませるとは、見世物としてはなかなかの物であった。私なりのもてなし、楽しんでいただけただろうか?」


「ひひっ」




「それじゃ、そろっと召喚の儀式っすかな? さぁ、鬼が出るか悪霊が出るか! 最大の見せ場ですぜ。掛け金は最大、バシッと決めてくださいよ! ひひひっ」


「十万の命を使い捨てにする、大博打。国の命運。私を信じる百万の民の未来。愛する者たちの幸福。そのすべてが私にかかっている。これほど大きな賭けはあるまい」




「王、手が震えてますぜ」


「さすがの私も、気分が昂揚しているようだ。武者震いというものだろうか」




「そういう時こそ、お得意のサイコロを使えば良いんじゃないっすか? 肩に力が入ってますぜ。そういう時は、目をつぶって深呼吸ですよ。ひひっ」




 採掘王は目をつぶり、深く息を吸い、深く吐く。

 目をカッと見開く。




「さぁ、運命ダイスよ。未来を、占え。勝利を、うたへ」




 テーブルの上にサイコロを投げる。

 いままでにない不規則な動き。


 サイコロ同士がぶつかりあい、激しく跳ねる。

 3つのサイコロはテーブルの下へと転がり落ちる。


 採掘王は今すぐにでもその出目を確認したい。

 格下の小国の王の前で膝をつくことなど許されない。




「大丈夫っす、俺が拾いますんで」




 傭兵王は、椅子を離れ、膝を床に付ける。

 落ちたサイコロを、拾うため。

 そして、その出目を目にする。




「おやおや……、ひひっ、こりゃぁ、また……ひひひっ」




「跪かせてしまった無礼、どうか許して欲しい」




「落ちた物拾う位で大げさっすよ。それに、ひひっ、面白い物、見れたんでね」



「君の表情を見て、出目を理解した。解は得た。その上で、あえて、友に問おう。さぁ、聞かせてくれ、戦神ベオウルフ。運命ダイスの指し示す――出目を」




「30。3つの十面ダイス、全て10。いやぁさすが、王。鬼がかってますなぁ」




絶対成功クリティカル。運命は、確定された。召喚の儀を執り行う」




 採掘王が、指先を振るい魔法陣を刻む。

 大理石の床に、真っ赤な魔法陣が浮き上がる。

 



「全ての召喚硬貨を贄として捧げる。対価に求めるは、最強の兵。いざ開け、あまたの異界へ通ずる召喚門。契約に従い、天秤に捧げた贄と釣り合う等価を授けたまへ」





 十万を越える禍々しき黒硬貨。


 召喚硬貨タリスマンが溶け、混じりあう。


 刻んだ陣の中央に汚泥おでいが吸い込まれる。

 一瞬の静寂と、暗闇。




 そして幻覚剤でみる悪夢のような極彩色の明滅サイケデリック

 多種の毒虫を同時にすり潰したような、極彩色の光。


 やがて、極彩色の明滅は止まる。

 儀式の陣の中心から一人の男が現れる。





「いってぇー、あぁーっ。いつもの召喚部屋? これで、10回目じゃん。マージ勘弁してほしいんっすけどさぁ」





「友よ……見給え。あの、底知れぬ圧倒的覇者のオーラ。精悍なる面構え。光り輝く黄金色の髪。私は今、最強の使い魔の召喚に完全成功した!」


「ひひひひっ。能力値全項目最大。スキル数10。転移者トラベラー。こりゃー、まぁーた、極上の使い魔ゲテモノでさぁなぁ」





 採掘王は召喚の儀式の陣に現れた男に、頭を垂れる。

 喜びから無意識に口角があがる。





「勇者不在の折、最強の使い魔、傭兵王の助成。最強のカードは私の手に有る」


「ほんじゃ、仕事しますか。今回ばかりはゲテモノの味を理解する、これ以上にない最高におもしれぇ機会になりそうですなぁ。ひひひひひっ」




「時は満ちた! 天運は我にあり! 運命ダイスは勝利を約束した! 剣を持て! 立ち上がれ! 私が、全軍率い王都を落とす!」

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