第84話『第二階層:音楽』

 シンは目を覚ます……。

 ここは……さっきとは違うフロア。




 第二階層、音楽室。

 担当講師はエッジ。

 この授業部屋クラスルームの特徴は、暗闇。




 手元すら見ることのできない完全な闇。

 この部屋で視覚は役に立たない。




 遮蔽物のないひたすら広いだけのフロア。

 マルマロのフロアのような大掛かりな仕掛けもない。

 ……奥ゆかしいほど、ささやかな手品があるだけ。





「暗ぃ、真っ暗で、……何も見えねぇ」





 遮蔽物は何もない。だから触覚に頼れない。

 鼻孔びこうに、木酸のような独特な酸っぱいにおい。

 ……フロア全体から漂っている。





 ――頼りになるのは聴覚だけ。





 どこからか声が聞こえた。





「第二階層――音、楽、才ンガ、勹ゥ」





 おそらくはエッジの声。

 完全なる暗闇、姿は見えない。


 万物創造エディタモードで剣を瞬時に生成。

 シンは、その声の方に向かって駆ける。




 靴底にヌメリ。




 ……気がついたら足を取られていた。

 シンは盛大に尻もちをつく。

 と痛みを感じた。




「いってぇッ、僕を無様な目に……クソがぁッ!」




 その雄叫びへの反応はない。何も。

 床は石畳に粘液をぶち撒けたような状態。

 慎重に歩かないと足を取られる。

 



「無視か? ザッけんな! 抉り潰し殺し抜くッ!」




 小動物か何かの鳴き声が聴こえた。





「       ……――キキキキキキ」


「みーつけたぁ! 先手必勝! ばいばーい!」





 万物創造エディタモードで弓を生成。

 全智全能デバッグモードの補正により超精度で矢が放たれる。

 矢は音源の元を貫いた。




 シンは拳を掲げ勝利のダンスを躍る。





「神の裁きッ! いひっ! 思い知ったぁ?」





 反応はない。

 そのことにシンは疑問を持たなかった。


 なぜなら、音源を殺したはずだから。

 死人に口なし。





「  ……――リリリリリ――……  」





 それは、小鳥のさえずるような鳴き声だった。



 万物創造エディタモードで拳銃を生成。

 全智全能デバッグモードの補正で弾丸が放たれる。

 弾丸は音源を射殺した。





「チチチチチ――……        」


「はぁ……? なんなんだよ……ななななんだよ」





 万物創造エディタモードで投擲剣を生成。

 全智全能デバッグモードの補正で正確に刺し貫く。

  短剣は音源を刺殺した……はず。




「おい! おい! 答えろッ! おいッ!!!」




 顔面に激痛。見えない何者かからの攻撃。

 攻撃の気配は……まったくしなかった。

 殺意も感じなかった。





「………痛ぇ……ザケンな!! 僕と、闘え!」





 シンは、誤解をしている。

 ここに居るのは生徒と教師。

 最初から戦闘は行われていない。




 ここは、授業教室クラスルーム

 シンのために行われる特別な授業。




 万物創造エディタモードで2本のナイフを生成。

 左右の手に持ち。未知の敵からの襲撃に備える。




 右腕に鋭い痛み。

 ……血があふれ出る。





「……痛い……痛すぎてぇ……死ぬぅ」





 攻撃した犯人の姿は未だに見えない。

 音なき影の暗殺者。



 不殺ころさずの暗殺者エッジ。

 確かに彼の得意分野。



 ……だが、それにしてもこれは。

 あまりに気配が無さすぎる。





「あへっ?……腸が、超、出てん……じゃん?」





 また、何者かに斬られていた。

 背中を斬られ、顔を斬られ。

 全身を切り刻まれていた。





「……やめッ……やめろォッッ!!」





 首が斬り落とされた。

 シンの首が地面を転がる。





「  ……――テケリリ――……  」






 最後に聞いたナニかの鳴き声。

 ……そこで失血により意識を失った。

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