第83話『第一階層:消滅』
操り人形の最後のヒモが……プツリと、切れた。
ドチャリと肉塊が地面に叩きつけられた。
――文字通り肉塊にしか見えなかった。
背中は溺死体のよう膨れて紫色に。
それでも生きている。
芋虫のように床をヌルヌルと。
石畳を這いずり回っている。
――――何もない空間に巨大な剣。
剣の柄を二柱の神が握っている。
地を這う芋虫に垂直に落ちる。
剣先が背中を触れた。
ゆっくり剣先は体内を進む。
剣先が芋虫の心臓に触れた。
全ての所作が儀式めいている。
……恐らくは過去の再現。
ゆっくりゆっくりと正確に行われる。
手順を間違えないよう丁寧に。
シンの心臓が潰された。
「異界の神よ。荒ぶる御霊をどうか鎮め給へ」
霊的な存在と会話をしてはならない。
それはあくまで呪術師の原則の話。
マルマロはあえて禁を破る。
決して、対応を間違ってはならない。
相手の格と力を見誤るな。
自分で制御できると思い上がるな。
神前では無作法は許されない。
礼法に
畏怖と敬意、礼儀と作法。
額に汗が伝い、体が震える。
その恐怖を神は
人が神を畏れるのは当然のこと。
畏怖せぬ行為自体が不敬にあたる。
人が神に見せる恐怖の感情には寛容。
マルマロの対応は正しかった。
マルマロが示すことが出来る、最大限の敬礼。
二柱の神は極小さく返礼のお辞儀をし消えた。
……緊張の糸が解ける。
「……寿命が10年は縮まったっす。まぁ、元より数十分程度の余命っすけどね」
シンの周りに黄金の粒子が集まる。
『
『
――――シン、復活。
シンは死人のような顔をしている。
身体は完全に復元。
死ぬ前より2倍強くなっている。
「あんたは、デキの悪い生徒っす。なので体で『道徳』を理解してもらうことにしたっす。あんたの大好きな、サプライズ、楽しかったっすか?」
「………っはんぎぃッツッ!!!」
「そっすか。サプライズ同窓会。楽しんでもらえたようで何よりっす」
「……ちゃんぎいりぃ?」
「少しは『道徳』を理解していただけたようっすね。これで、少し賢くなったっすかね。人を呪わば穴二つ。いままでに殺めてきた、億、兆、京、垓、――――
空間が万力のように圧し潰されかけつつある。
すでに死者の世界との繋がりを断っている。
今のこのフロアは元通り完全な生者の世界。
それでもなお、部屋が
繋がりを断てば死者は生者の世界に干渉不可能。
その筈だったのだが……、何事も例外はある。
「………痛い………まだ痛みを感じる……! いやあああッ!!!」
「今宵のチュートリアルは、あんたのための特別仕様っす。教師がマン・ツー・マンで懇切丁寧にちゃんと理解するまで、しっかりとサポートするっすよ」
「謝る! 謝る! 超絶謝る!! マジ超ごめんて! つか、僕が、うっかり殺した、
首をキツツキのようにブンブンしている。
マルマロはシンを、一つだけ理解できた。
『ひたすら頭を上下にブンブン振る行為』
どうやらソレを謝罪と理解している事を。
意味は不明だが、どうやらそういう事らしい。
……改めて考えた。やっぱり意味不明。
そもそも前提がズレてる。相互理解はムリ。
人と人が分かりあうことの限界。
いや、そんな高尚な次元の話じゃない。
「謝罪? いえいえ。んなモン不要っす。もとかあ、だぁれも、あんたからの謝罪なんて求めてないっすから。ただ純粋に、会いたい。そう、思っているだけっすから。いやぁ……人気者は辛いっすね」
「そんなのって不公平だ僕ぁ会いたくない、面会謝絶だッッッ!!!」
「因果応報。人を呪わば穴二つ。せめてこの二つは覚えて欲しいっすね」
言いながら、まぁ、無理だろうなと思った。
それはこの男にはあまりに難しすぎる。
期待しすぎている。
この男が二つも言葉を覚えるなんて無理。
――――だって、ほら。警告した
『
マルマロの心臓を狙い刺突を繰り出す。
マルマロは一歩も動かず避けない。受ける。
だから、既に心臓は刺し貫かれている。
……でも、マルマロは笑っている。
「――もう面倒!……
善なる者には
――悪しき者には
因果応報は則ち天地万象の理を示す
――故に対価を払わぬ咎人に印を刻む
マルマロの最後の呪い。
術者の死亡時に術式が発動。
呪術は、因果応報の体現。
そしてその究極が『
罪過のツケを強制的に支払わせる永劫呪詛。
マルマロが辿り着いた真理。
発動後、絶対に回避不可能。
そして、絶対に解呪不可能。
これは魔法の域から外れる。
文字通りの呪い。
「ごほ……っ、過去、現在、未来、死後、地獄、天国、異界。あんたは……どこに逃げても、この黒印からだけは逃れられないっす。……重ねた
……少し難しかっただろうか?
生徒のレベルにあわせよう。
これは道徳の授業。
懇切丁寧な授業がウリだ。
生徒に歩み寄る姿勢も大切だ。
だから、言い直そう。
「ほら! おまえが殺した那由多の魂 みんなおまえ探してるね みつけられないみたい かわいそうだね でも拙者殺しちゃったせいで おまえの居場所 みんなにバレちゃった ぜんぶおまえのせいです あ〜あ」
「いッ……いやだぁああッッッ!!!!!」
―――――閃光。轟音。爆震。
第1階層は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます