第85話『第二階層:消滅』
シンの死因。それは、――自殺。
両手のナイフで体を狂ったように滅多刺し。
死に際までサプライズへのリスペクトを忘れない男、シン。
――もちろん不自然なシンの自殺にはタネがある。
エッジの奇術のトリックを話そう。
タネが分かれば何ってことない。
ほんのささやかな、……手品。
鉄のカギ爪、
フロアの石畳を覆う謎の粘液は粘性魔獣。
だが、安心安全な
厳密には魔獣かすら、不明。
なので、暫定的に粘性生物と呼ぶ。
床を覆う粘性生物はショゴスと呼ばれる。
凶暴で凶悪な危険な粘性生物。
なぜ、エッジがそんな危険な生物を?
人は誰しも秘密がある。
エッジも例外ではない。
…………テケ、リリ、キキキキ。
エッジも過去に対人相手に使ったことは一度もない。
悪人相手とはいえショゴスさすがにやり過ぎ。
それにショゴスは安全に運用できる代物じゃない。
エッジが使役できているのは
更に
超魔力、超集中力。人の限界を遙かに超えた超能力。
今のエッジであれば……なんとか、使役できる。
……それでも、多少のリスクはあるが。
――最悪の事態が起きても自爆で全消滅させられる。
後処理、安定性を考えれば
普段の任務なら、安定性と安全性を重視する。
だから、仮に使えたとしても使わないだろう。
だが、今回は、あえて危険なショゴスを使った。
スライムをシンに寄生させるのは不可能。
体内に入った時点で消滅させられるだろう。
――このフロアに居るのはエッジとシンだけ。
さすがに仲間が居る所では……使えないよね。
イマ……この音楽室に……ダレモイナイ、カラ。
テケ……ッ、テケリ、リ……テテケケリリ……。
『
『
――シン、復活。
シンの体を中心に黄金の眩い光がフロアを照らす。
シンは……見てしまった。
そして見てしまったことを後悔する。
完全に視界が遮断された暗闇の方が良かった。
…………恐怖。恐怖。恐怖。
「目、目? 目、目ッで、僕を目で見るなァッ!」
シンの自慢のスキル『
無条件で相対した敵より3倍強くなる。
それなのに……――、シンは逃げ出した。
ヤバいと本能が
走れ 走れどこまでも走れ。
脳がそう指令を出す。
「……っざけるな……っざけるなよッ……」
手も、足も、胴も、頭も有った。
配置ヲスコシ、間違えた、カナ?
それダケ。些細な、違いダヨ?
サベツハ……ヨグ、ナイヨネェ?
「僕ぁ、聞いてないッ……こんな、こんなッ!」
ナゼ、……、ソンナニ……恐れル?
……キューィ……コケケケケケケ。
目、目、スコシ多カタ――カナカナ。
「イヤだ! 生きたい! イヤだッ!!」
絶叫しながら走る。
走っても走っても、果てが無い。
それもそのはず。
実際終わりがない。
同一フロア内を強制的に
このフロアの端は、すべて
左端にたどり着くと右端に
何も見えないから気づけない。
そもそも、恐怖で考える余裕もない。
このダンジョンの全階層はボスフロア仕様。
フロアボスを倒さなければ次の階層へ進めない。
そしてこの音楽室のボスは、――エッジ。
エッジを倒さなければ、永遠に出られない。
「ひぃ……なんでぇッ!! こんな目にッ!!」
答えは自業自得。
チュートリアルを受けると決めたのもシン。
このダンジョンに進んで入ったのもシン。
サプライズを求めたからサプライズが来た。
物分りが悪すぎるから親切な先生が来た。
嗚呼、素晴らしき
全部、望んだ結果。
おめでとう。
願い、叶ったね。シン。
サプライズを求める想いが
そしてナニカを引き寄せた。
走っている最中、足を滑らせ再度転倒。
おっちょこちょいだナァ……キキキキ。
「ひぃ、たッ、べなぃで、ぐだじゃぁいッ!」
「テケ、――リリリリリ――タベ……ルヨ?」
「――――( 絶 叫 )――――」
この音楽の授業の楽器は――シン。
エッジはシンを
エッジは一流の奏者。
人を楽器に変える。
絶叫、悲鳴、咆哮、号泣。
さまざまな
一流のコンサートマスター。
シンはいままで無限に近い回数その声を聞いている。
比喩ではなく実際に無限に近い回数聞いている
だけど、自分の声をこんなに聞いたのは初体験。
音楽の授業。とても、タメになりましたね。
よき先生に恵まれましたね。
サプライズパーティーが楽しすぎるみたい。
シンはずっと楽しそうに走って喜んでいる。
涙を流し、喜びのあまり、股間を濡らすほど。
あらら……イヌ、ジャ、ナインダカラ。
いつも周りをサプライズさせるシンくん。
今度はサプライズが、会いに来ちゃったッ!
よかったね。サプライズとキミはズッ友だょ。
おやおや。どうしたのかな?
口から泡。体も痙攣しているね。
危うくサプライズ死、しそうだね。
「――ザ――プリャァ――ィズ」
・ ・ ・ ・ ・ ・
「ぎぃやあゃぁあああああああああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁあああああああッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
サプライズがとても大好きな男、シン。
だからこれは心からの感謝の言葉。
嬉しすぎて言葉にならなかったんだよね?
でも、先生は分かってる。
それが感謝だって。
嬉シスギテ思ワズ手出チャッたンダネ?
最後ニ先生に暴力振ルッタコト、許スヨ。
キミニ正シキ星辰ノ祝福アレ
―――――閃光。轟音。爆震。
第2階層は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます