第35話『星を穿つ竜星』
「いったい……いつまで、遊んでる……おまえは……城をも落とせる力を持つ……相手はBランク…………ええぃ……
声を発した男の右肩が爆ぜた。
俺は適当な小石を投げただけだ。
だが、それで十分。
虫の鳴き声はおさまった。
親子水入らずのジャマをするな。
焦るな、礼儀正しく順番を待て。
おまえは、ちゃんと殺してやるから。
そこで、おとなしく待っていろ。
「あたい……やっぱり、パパに、全然勝てないや」
「諦めるのはまだ早いぞ」
ルナがふるふると小さく首を振るう。
「ムリ……だって、パパ……あたいに……一度も攻撃してない……受けてるだけ」
俺は頭をポリポリと掻く。
「そりゃ、そうだろ。父親が、自分の娘に手を上げたりするもんかよ」
「あははっ……そっか……そうだよね、……パパっ!」
「そうだ。そんなことはなぁ、当たり前のことなんだぜ!」
ルナは連撃を止める。
拳圧によって巻き起こっていた暴風は止まる。
そして、闇夜に静寂が訪れる。
ルナは目をつぶり、深く息を吸う。
体を最善の状態に整えている。
「パパ……次が、……正真、正銘、全身、全霊、究極、本気、最後の一撃っ!」
「そうか、ドンとこいッ!」
「うん、それじゃ――いくよっ!
太陽のような黄金の輝きがより一層激しくなる。
黄金の輝きは徐々に光を増し、やがて穏やかな白になる。
今のオーラは
ルナの背中の翼の色も白金色に変わる。
まるで……その姿は。
「はは……すげぇ。ルナ、まるで天使だ」
ルナが白金色のオーラに包まれる。
そして更にそれを覆うように、七色のオーラが包む。
幾層の色が重なりあいオーロラのように光り輝く。
これはマナそのもの。
魔力に変換される前の、純粋なマナ。
「はは……っキレイじゃんか。これで、最後と思うともったいない気すらするぜ」
ルナの背中の左右の翼は、水平方向に最大展開。
トッ――、ルナはつま先で軽く地面を蹴る。
超低空、超高速、直線的飛行。
そういえば一番初めに使ったのがこの技だったな。
規模が違いすぎるけど。
直線状には、俺が立ちふさがっている。
体の重心を下げる。
靴底を地面にがっしりと構える。
相撲の四股の構えがこんな感じだったかな。
左右の腕はルナを受け止めるために前へ。
前方から超エネルギー体。
流れ星を受け止めるようなものだ。
そんなこと……できるか?
「できるに決まってるだろぅおおおおッ!!!」
――超弩級の衝撃。
足もとの大地がえぐれる。大気が爆発する。
まるで朝が訪れたかのような激しい、光。
「掴まえたぜ」
ルナの両手、俺の両手ががっちりかみ合う。
あとは、ただの力比べ。意地の張り合い。
俺は、まだ一歩も後退していない。
だが、ルナの勢いも止められていない。
白金色に輝く両翼がルナに推進力を与えているのだろう。
靴底から根が生えているイメージを、想像しろ。
一歩も譲らない。後退なんて許さない。
「ぬらぁあああああああああああああああっ!!!!!」
押し戻す。左足を一歩、前へ。
押し戻せ。右足を一歩、前へ。
一歩、一歩、前進――、前へ。
七色の光をまとったルナがゆっくり押し返されていく。
まとっていた七色の光が消えてゆく。
黄金の光もやがて消えた。
翼も角も消え、元のルナの姿に戻った。
力を失い、倒れかけた体を両腕で強く抱きしめる。
「はは……っ……やっぱり……パパには勝てなかった」
「当たり前だ。おまえの親なんだからな」
「うん……、そうだったね」
ルナは安心し、俺の胸で眠りについた。
こうやって寝顔を見れば、本当にただの子供だ。
「ルナの本当の親の仇は、俺がきっちり取る」
俺の胸で眠っているルナをアルテに預ける。
アルテの胸でルナが眠っているのを確認する。
俺の仕事は、子供の情操教育に良くない。
「ここから先は、――大人の時間だ」
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