第97話『最終階層:ママ』

 シンはこの最終階層地獄をダンスホールのように歩み進む。

 そして、ステップを刻みながら楽しそうに中央に進む。




 最終階層の中央部にあるのは巨大なクリスタル。

 賢者の石ダンジョン・コアと呼ばれるダンジョンの生成に不可欠な心臓部。




 うかつに触れれば超巨大爆発を起こす。

 シン諸共に消し去るエネルギーを貯蔵している。






「さぁ、着いた。……いひひっ。こんな世界、もうバイバイ。おいガキ。仕事だ」


《・・・・・・・・・・・・・・》


「……あっ、そう? そういう生意気な態度、取るんだ。――ふーん。いいけどね」





 シンはマキナの眼窩がんかに人差し指を突っ込む。

 最終階層に声にならない絶叫が響き渡る。






「――僕がこの人差し指を、クイッって、折り曲げたらキミの目玉どうなると思う? どうなるのかなぁ? 気になるなぁ? 興味ない? 実験してみる。ね?」


《・・・いたい・・・ほんとうに・・・こわいの・・・おねがい・・・もうやめて・・・・・ひどいこと・・・・・しないで・・・・ごめんなさい・・・》


 



 シンはいままでにない最高の笑顔を見せる。

 歯をむき出しにし、顔全体の筋肉を使った満面の笑み。



 ……シンのこの表情を多くの人間が見せつけられた。

 それにも関わらずこの表情を見た生者はユーリのみ。



 答えは一つ。この表情を見た人間はみな、殺された。

 だから、誰もシンのこの顔を知らない。それだけの事。






「うるせぇッ! ふふふ……天運は僕に味方したね……コレだけ巨大なエネルギーが有れば、転移できる。……行き先は僕の最初の世界に設定。やれッ! クソガキッ! また目の奥を、眼検診されたいッ?」


《・・・・・暴力はヤメて・・・ダンジョン・コア・・・・接続・・・・・転移門・・・・解放・・・・・・転移先・・・・・地球・・・・ダメ・・繋がらない》






「……ガキ。面倒くせぇ、この賢者の石ダンジョン・コア抉じ開けろハックしろ異界転移門ディメンション・ゲートを開け――次の転移先は……いひっ。地球。ついに僕の凱旋の刻が来たね。……江戸の仇を長崎で討つ、その刻が。ね? ジャぁねッ! まっ……二度と会わないだろうけどさぁッ! アバヨ! 負け犬ッ!」


《さっきから・・・やってる・・・でも、わたし以外の・・・誰かが・・・転移門の展開を妨害している・・・・次空転移はができないッ・・・・・》









『アナタにはどこにも行かせないかしら? 残念だったわね。アナタが期待していた賢者の石ダンジョン・コア、ソレがわたし。――――アナタの旅は、ここで終わりよ』











シン・万物創造シン・エディタモード――邪神誅殺の手甲ヤールングレイプル。――シン・全智全能シン・デバッグモード――拳神」







 シンは賢者の石ダンジョン・コアを殴りつける。

 賢者の石ダンジョン・コアに亀裂が……。


 賢者の石ダンジョン・コアを用いたとしても、

 正常な状態でなければ次空間移動は、不可能。


 ……そんなことは愚かなシンも理解している。

 ただ殴りたいから殴ったのだ。理由はない。







「うるさいなぁ……ただのデカイ石ころごときが僕に気安く話しかけないでくれるからな? キミ生意気だね? まぁさ。機械とかも殴れば直るって言うでしょ? だから……僕が殴ったら転移門が開かないかなぁ……なぁんて。思っちゃったりして?」


『――かはっ……女に手をあげるなんてあんたほんとうに最悪な野郎ね』





「おい。ガキ、……ちんたらしてないでさっさとしろ……あぁあああああああ……クソガキッ! 殺されてぇかッ! とっとと、門を開けッ! 殺すぞッ!!」


《もうこわい・・・やってる・・・でも・・・痛いの・・・許して・・・》





「ガキ。『無理』っつー言葉はね、嘘つきの言葉なんだよ。わかる? 途中でやめてしまうから無理になるんだよ、ね?」


《・・・・・・・どういう・・・こと?》


「途中でやめるから無理になるんだよ。途中でやめなければ無理じゃなくなるだろ。だからヤれよ。ガキ」





 シンは拳を振りかざす。

 ――拳神の補正がついた状態。

 さらに神話級武具を装備している。

 マキナが人質だったことすら忘れている。






『――させぬ。貴様にわらわの子を触れさせる事など。断じて許さぬ』



 


 マキナの前にあらわれる美しき女神。

 賢者の石ダンジョン・コアを依り代に顕現。

 白いドレスに、深紅のハイヒール。

  





「……はぁ、……誰だよおまえ?」






『ふふ。貴様が覚えてなくても当然。わらわは貴様に殺された那由多なゆたが一。黒印アビスで貴様の居場所を見つけ、賢者の石ダンジョン・コアの力でかりそめの生を得た。さぁ、……妾を興じさせてみろ。道化』


「あー。……思い出した。……いひっ。おい、ガキ。聞けよ!? ママ……すっげぇカッコつけているけど僕に穴という穴をハチャメチャに犯されまくっって……殺されたんだぜ。ウケるよなぁ? サンキュ。あんた顔良いし、すっげぇ……気持ちよかったぜッ! おいおいなにイキってんの? そんなにまた僕に、イカされたい。ね?」


《・・・・ッッッ!?・・どういう、ことなの・・・シン?・・・わたしには・・・ママがいない・・・スキルだからって・・・はなしが違う・・・》







『――わらわの娘よ。コヤツは病気なのじゃ。ウソしかつけぬ舌を持って生まれてきた、生粋の道化。神々を興じさせるための玩具じゃな? あの男の言葉はすべて虚言。信じる必要はない。――妾のような美しき神が、人のことまぐわう? ふふ……ははは。畜生とまぐわうより、あり得ぬことよの?……ふむ。確かに、妾は美しい。それは認めよう。貴様のようなブサイクな道化が、妄想の世界で楽しむことを特別に許す。感謝をするが善いぞ? 神は寛大だ。だが、妾の最愛の娘の前でそのような言葉。――少しばかり、妾のペットにもオシオキが必要なようじゃな。いつものように興じさせてみよ――道化」






 白いドレスをまとった気高く高貴な女性。

 高いヒールの靴は戦闘向きではないと思うが。


 ――シンの鉄甲に直撃。自慢の武器が砕け散る。






「――テェねァッッッ!!! そんなに僕を求めるなよッ!!……盛りのついた犬じゃないんだからさぁッッ!!! キミも死んでまで僕に会いに来るとは随分、僕のテクニックの虜になったようだねぇ? いいよ。……遊んであげるよッ!――特別に」


『――まぁ、貴様のような最上級のブサイクは、異界広しと言えど、貴様くらいだったからなぁ。貴様の抱腹絶倒おもしろフェイス。ふむ。妾はよく、覚えておるぞ? ひさびさに貴様の爆笑ツラを見たくなって思わず、会いに来てしまったわ。――妾の気まぐれを光栄に思うがよい』


「――――はぁぁあああああああッッッ!!!??? 誰がブサイクだぁ?!!! 撤回しろッ!!! 僕ぁ…………マジで……キレたねッッッ!!」






 深紅のヒールから繰り出される蹴り技。

 シンの足元をすくい……転げさす。

 シンは拳神の補正が有ったにも関わらず。






『そら。貴様の足元、お留守だぞ。……貴様の顔面だけで爆笑モノなのに、さらにウケを狙うとは。ふむふむ……人間にしては、なかなかできのよい道化よな?』






 ――シンは無様に地面を転がる。

 シンが弱いわけではない。



 今のシンは拳神の力を有している。

 体術で遅れを取るような事が。


 ……シンは、また無様に転がされた。






『はっはっは。スッテンコロリんとは、また妾のご機嫌を取ろうとしたのじゃな。よいよい。貴様の……その、美しき妾に対する犬のような忠誠心。ふむ。褒めて使わそう。娘よ。。……ヤツは、神々の庭で飼育しいた――道化じゃ。……退屈は神にとっては最大の敵でのう? 故に、あの道化を飼育していたのじゃが、……飼育当番の手違いで、ペットの道化が逃げ出してのぅ?」




《・・・神々の庭も滅ぼした・・世界を9も壊したって・・・でも・・・そうじゃないと・・・あの男がスキルを持っている説明がつかない・・・》




「ふふ……それこそまさに、神の戯れよなぁ? 戯れにあの道化に9のスキルを授けてやったのじゃ。世界を滅ぼす? はははははっ! 大きく出たな道化。あのような愚かで笑いしか取れぬ下郎に、そのような大事。できるはずはない。……娘よ。あの惨めな男を笑ってやれ。……あれは、あのように惨めに地面を転がって、妾たちのご機嫌を取ろうとしておるのじゃ。まぁ……芸は凡庸でも、その顔面だけは爆笑モノ。せめて、笑ってやるのじゃ」


《・・・はは・・・ほんとだ・・・よく見たら・・・とってもヘンな顔・・してるね。――アイツ》







 深紅のヒールがシンの腹部を追撃。

 ピンヒールが突き刺さる。






「……かはっ! クソ……嘘つき淫売がッ!! キミが最高なのはアソコだけだなッ!! 口も悪いし、性格も悪い……最低最悪のクソ女だよッ!!!!!」






 ――無言。ハイヒールで頭部に鋭い蹴りを放つ。






『ふははははっ。なかなか蹴り心地のよい蹴鞠けまりよの?』


《・・・ママは強いんだね・・・シン・・・なんかより・・・ずっとッ!!》


「――――売女にガキ。――――あぁあああああああッッッ!!!!」






『ふむ。そなたはユーリと言ったな。協力に感謝する。どうやらこの道化、地球が恋しいようじゃな。ほーむしっく。というやつかの? さぁ、そなたので、アヤツに引導を下してやるがよいぞ?」



「――――応とも。まかせろ。の準備は完璧に、整った。あんた、最高に美しく、そして格好良かったぜ。最高の女神さま――いや、母親だ」

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