第98話『最終階層:地球』
マキナの母は
だが、依り代の元となったムーが消えた訳ではない。
ムーはユーリと言葉を介さずに意思の疎通を取ることが可能。
ムーの目を通して状況を知ることができる。
ムーはムーでいままでに貯蓄しまったポイントを使用。
ユーリの地球を完成させるために動いていた。
まるで雪だるまを大きくするかのように地球の上に、
鉄塊を粘土のように圧しつけ創り上げた。
――直径3メートル。重量15トン。
とても……人が持ち上げ投げれるサイズではない。
重量15トン。ユーリはそれを片手で持ち上げている。
しかもそれを投げようと。
ムーから伝わるシンの激昂の仕方を見て理解した。
どこを刺激すればヤツが切れるか。
ユーリとシンとの間には距離がある。
ただ投げつけるだけでは躱される。
そして、ユーリが駆けつけるまでの
わずか数秒のうちに全員殺し尽くす。
「よう。元気にしていたか? ただですら面白すぎるおまえの抱腹絶倒ヅラ。さらに面白いツラになったな。ほう。貴様の趣味は女性にハイヒールで蹴られることだったんだなぁ。まぁ、貴様にはお似合いの趣味だ」
「――――ッッッ!!!」
「貴様の足りない脳ミソで考えろ。ブサイク野郎。貴様の顔面があまりにも面白すぎてうっかり楽しみ過ぎてしまったが、まぁ異界の女神さんも忙しいから、そろっと幕を引かせてもらう」
「…………僕の容姿を馬鹿にしたその罪。万死に値する」
「俺は嘘つき野郎の貴様と違って正直者なんだわ。生まれて一度もウソを付かないぜ? 太陽は東から昇って西に沈むように。貴様の顔がブサイクなのはこの世の普遍の事実だ」
「それにしても、チート能力ってのは恐ろしいな」
「キミもやっとッ、僕のスキルの恐ろしさに今更気づいたッ!?」
「違う、違う。そうじゃねぇ。俺が言っているのは貴様の隠しスキル、抱腹絶倒顔面福笑い。その抱腹絶倒の顔面で相手の力を千分の一にまで低下させる脅威のスキル。まぁ、他人様の顔をアレコレ言うのは、失礼かなとも思ったんだが、貴様の正体が笑いを取るだけの道化と分かっちまったもんなぁ。そうやって俺にまでその顔面でご機嫌をとって媚を売らなくても良いんだぜ? 鼻から血が出てさらにおもしろいツラになってんな」
「――――――ぐあぅううううッッッ!!!」
「ウソつきホームシック野郎のために、少しでも故郷の地球を思い出すきっかけとなる物を作ったぜ。12回目の貴様を殺したときに作った地球。あれを3倍の大きさにしてみた。――俺が投げる。だから受け取れ」
「受け取れる訳ないだろッッ!――僕ぁ、避けるッッ!!」
「そうか。貴様は顔が面白いだけが自慢の男だったもんな。――まぁ、俺は過去に隕石を受け止めたことがあるが、――道化にそれを求めるのは無理か。所詮は臆病者のカス野郎だったな」
「……おい。おいおいおいおいおいおいいッッッ!!」
「おいおい。無理すんな。ビビってんだ? ホームシック野郎。まぁ、貴様ごときが受け取れるはずないと思っていたが、やはり思った通りだったな。――また、キミはそうやって勝負を逃げるんだろ。――ね?」
「――――いいよ。受けて立つさ。僕ぁ、キミのちみっちぇえパチンコ玉を軽く受けとめるさ。僕の侮辱したこの怒り……忘れない。江戸の仇を長崎で討つ!」
「さすが、江戸っ子。気前がいいねぇ。そんじゃ――いくぜ。受け止めろ」
「
「ちみっちぇえパチンコ玉なんかを相手に、マジになって。随分と格好いいな貴様。格好いいねぇ。そんじゃ――軽く止めてみろや。――――ちぇすとぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッ!!!!!!!」
「――ああああああああ――――ッッッ!!! ねッ?!」
巨大な鉄の塊が飛翔する。
3メートルを超える鉄の玉が飛ぶ。
――ユーリの手から離れた瞬間にすでに音速を越えていた。
10メートル地点で音速の壁を突破。
――更に加速。
速さの単位。音速と光速に大きく分けられる。
だがその2つの間には大きな隔たりがある。
光速は音速の88万倍。
今のユーリの地球は音速の50万倍。
光の速さには及ばないが亜光速と呼ばれる速さにまで到達。
シンが目の前に展開した100層の
……まるでガラスのようにバリバリと砕き突き進む。
アンチマテリアルライフルの弾丸をわら半紙100枚で防ごうというような愚行。
3メートルの巨大な鉄の隕石はシンの間近に。
シンは右手の人差し指を突き出す。
その指一本で止めようとしているようだ。
シンには勝算があった。
――亜光速に達しようが投げた本人より無条件で5倍強い。
更に――神武器、神技、文字通り天空神の
受けとめられないはずがない。
「――――ムリだろうな」
正確には、シンだけではなく、ユーリでも受けとめられないのだ。
ユーリの地球投げ、亜光速に達する大質量の投擲。
だが――それでも、ルナの
――ユーリがあの力に勝てたのは、ルナを想う心。
家族というものを知らないユーリが親になる覚悟を決めた。
その、意志こそが今のユーリを超える力を与えた。
――
必ずルナに人並みの幸せをすると、決めた。
その想いがあったから受けとめられた。
殺意と憎悪だけでは足りない。男の意地と矜持。
そんな物が――ユーリに力を与えた。
――理屈じゃない。
理屈上の。性能上はいまのユーリが強い。
そのユーリの5倍の力でも想いがなければ受けとめられない。
いまのユーリは強い。
爆発寸前の極限の力。――シンはその5倍の力を持っている。
それでもやはり無理なのだ。
――――想いのこもらないただの暴力では止められない。
シンは強い。それなのに負ける。
――自分を最上級に置く。
他者を想う心を持たない。
だから、この結末は――必然。
「――――こんな石ころ一つ。僕なら指一本で止めて……アァぁッ!!!」
鉄球が指の先端に触れる。第一関節がグチャグチャに砕かれる。
ヤバいと判断して即座に両手で抑え込みにかかる。
両手の平は一瞬でミンチになった。
――手が。手首に埋もれた。
そして伸ばした左右の腕は粉々に砕かれた。
「――ああああああああッッッ…………アァ嗚呼嗚呼嗚呼あッ!!!!」
シンは自分の血で足を滑らせる。
両腕と右半身が地球によって完全に破壊された。
受け止めた両手の平の骨が砕け手首の骨が砕け肘の骨が砕け。
吹き飛ぶ。
両腕が完全に破壊された。
「残念だったな。――地球、おまえのこと大嫌いだってよ」
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