第81話『チュートリアル』

「ひゅーっ。ここがチュートリアルの会場かぁっ!」




 地面に転がるおびただしい数の死体。

 燃え盛る家屋。

 投石で抉れた大地。

 まるで地獄のような光景。





 ――その中央広場に、巨大な門。





 シンは、その全てを演出として楽しんだ。

 世界の全ては自分を楽しませるための玩具。

 この男は、そう考えている。



 この惨状もこの男にとってはアトラクション。

 お化け屋敷、ハロウィンの装飾。

 その程度の認識。




 楽しい楽しいパーティーが待っている。

 だから、彼は、とても上機嫌。





「すっげ、いい感じだぁ、ワクワクしてきちゃったっ!」





 軽快なステップを刻み、躍るように歩みを進める。

 巨大な門の前に、四つの影。




 月明かりが、彼らの姿を映し出す。

 血塗られた黒装束を着た四人の男。




 月明かりが顔に陰影を作る。

 その表情は薄っすら笑っているようにも見えた。





「出たなぁっ! 偽りの四天王っ!」





 シンは、人差し指を突きつける。

 大げさにビシィッとキメる。

 相手を断罪する時に決めるお気に入りのポーズ。




 ――四天王からの反応は無い。



 

 シンは気持ちよくなぶり殺せる相手が大好き。

 いつも誰かを痛めつける理由を探している。



 そんな、シンですら理由が思いつかない時がある。

 そんな時は、適当な人間は痛めつけ、

 殺したあとで理由を考える。

 理由なんてなんだって良いのだ。




 彼が転移した世界を破壊する理由。

 そのクールな理由を、現在考え中。



 きっとそのうち飽きて、適当に雑な理由を決める。

 神の試練、世界の剪定……、何でも良いのだ。

 そして、一人で勝手に納得する。



 世界を破壊する本当の理由は、一つ。

 単純に、楽しくて、気持ちがいいから。





 門の前に立っていた四人の一人が動く。

 一番大柄な男が、一歩前へ進み出る。

 背中には巨大な鉄のカゴを背負っている。




 

「ようこそいらっしゃいました、冒険者シン。この門の先がチュートリアルを執り行う、教室部屋クラスルーム。僭越ながら私たちが、四つの基礎的な授業をレクチャー致します」


「まっ、僕は天才だから教わることなんてないけど、ねっ!」





「この門の先の、教室部屋クラスルームには、貴方に楽しんでもらうためのさまざまな趣向をこらしたをご用意させて頂きました。きっと、喜んでいただけるはず」


「いいねぇっ! 僕、サプライズパーティー……だぁい好きっ!」





「では、私どもは一足先に、門の向こうで会場の準備をいたします。冒険者シン。貴方も、しばらくしたら門の中へお進み下さい。授業を開始します」


「いいねぇ!……なぁーんちゃって! 僕ぁ、プロフェッショナルを超える、超プロフェッショナル! チュートリアルは超スキップ!――先制さぷらぁいずっ!」




 万物創造エディタモードで槍を瞬時に創造。

 そのまま、投擲。



 ――因果応報鏖殺陣フィードバッカー



 迎撃呪殺魔法カウンター・マジック発動。

 投擲した十倍の威力で槍がシンの胸を貫く。





「はぁ……っ?……僕……これ、死んじゃうじゃうって……いや、……これ、マジで、やばいって。痛いし……全然、洒落になってないって……ッ!」





 胸に野球ボール大の円形の大穴。

 心臓が綺麗に無くなっている。

 シンは、失血で、倒れる。





「――とまぁ、このように。とても愉快なサプライズをご用意させていただいております。冒険者シン。それでは、どうぞ、お立ちになり、門の前にお進み下さい」




「無理だよっ!……見りゃわかるだろ? 治癒、治癒!……僕の命が、……こぼれ落ちているっ! 早く……助けろよッ! マジ、これ死ぬって……!」




「そうですか? それは何よりですね。心ばかりのささやかなおもてなしでしたが、お気に召して頂き、恐悦至極にございます。私どもは門の向こうで、貴方のために、心を尽くした特別授業の準備をさせていただきます。ではまた、お会いしましょう」





 薄れゆく意識の中で最後にシンは見た。

 黒装束の男たちが巨大な門の中に入っていく姿を。




 そこで意識が途絶えた。

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