第65話『10の世界を転移した神の物語』
私が召喚した、シンと名乗る金髪の青年。
いや、――神と言ったほうがいいだろう。
あまたの異世界を転移した、神。
神は、10のスキルを持つ。
そのどれもが聞いたことがない恐ろしいスキル。
私が、召喚時に確認した10のスキル。
私は、その全てのスキルを把握している。
・・・・・・・。
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神が最初に持っていたスキル『
他者から一方的にスキルを奪い取る能力。
転移した世界の特別な存在からスキルを奪ってきた。
神の強さの起源は、
恐らくは因果律干渉系の自動発動スキル。
その、上位版といったところだろう。
「そういやさぁ、あんちゃん、なんか趣味あんの。ひひっ」
「僕の趣味? いいけどさ、マジ、すっげーいっぱいあるよ。多趣味だから、僕」
「ひひっ。一番好きな趣味を教えてくれや。王の、サイコロみたいなヤツ」
「一番の趣味ねぇ。やっぱ、一番となると、世界の破壊、かなぁ?」
世界の破壊? 何の話だ。
「世界の破壊ねぇ。あんちゃんも、随分とビッグな男だなぁ。ひひっ」
「さすが、ベオっち。分かってるね! おい、お前! 何か反応しろや」
しまった。……反応が遅れたか。
何か言わなくては……。
「さすが、神」
「ナニその雑な反応? 人の話聞く時はさぁ、ちゃんと相づち打てよ、基本だろ?」
この男は、本当に当たりなのだろうか。
サイコロの出目は、30。
傭兵王はそう言っていた。
私に最善の運命を約束してくれる。
最強、最良の駒。そのはずだ。
落ち着け。違和感は誤解だ。
私は、
「あんちゃん、世界を破壊するって、ここでネタバラシしてもいいのか? ひひっ」
「まぁ、ね? 僕もこういう話は、最後の最後までネタバレしない主義なんだけどさっ、ベオっちとは友達だし、隠し事したくないんだよねぇ。最終的に、ベオっちも、殺しちゃうけどさっ! 最後の瞬間までは友達だもんね! だから、内密にねっ!」
「ひひっ。そりゃまた、光栄なこって」
何が光栄な物か……殺されるのだぞ?
目的だ、目的を果たした後は……。
この駒は、盤外に捨てれば良い。
「神よ、私と交わした約束。守っていただけるのでしょうか」
「はいはい、約束ね。守る守る。僕は召喚されたら、キチンと召喚した相手に勝利をもたらすんだよねぇ。律儀に、約束を守る僕って偉いよね。義理堅いからなぁ、僕」
それさえ守られるのであれば、後は些細な問題。
全てが終わったあとで処分すれば良い。
焦るな。ここは、静観だ。
「神は、
「転移した異世界をブッ壊す理由? ……えーっと、何だったっけなぁ?」
今のは、迂闊な質問だったか……。
何が逆鱗に触れるか分かったものではない。
「そうそう、理由ね。思いだした! だってさぁ、僕が居ない世界で、僕だけノケモノにして楽しくされたらさぁ……僕だけ仲間ハズレみたいで、寂しいじゃん?」
……寂しい? ノケモノ? 仲間ハズレ?
はぁ? マジでナニ言ってンだコイツ?
「だから世界ごと完全に破壊して、次の世界に転移するんだ! みんなの笑顔は僕の中で永遠! 世界が消えても、僕の中で、思い出として無限に生きる! ズッ友だ」
傭兵王は関心なさそうに爪を磨いている。
紙やすりで爪をゆっくり撫でている。
もはや、話を聞いてるかすら分からない。
何故だ? その行為を、神、この男は咎めない。
コイツの相手を王たる私が何故しなければいけない?
「最初は、雑魚モンスター相手に、ワザと苦戦したりして一生懸命手加減して、仲間との絆を少しずつ築くワケ。まぁ、その世界の……、メインヒロインみたいな、特別でかわいい、女の子とピュアな恋愛しながら冒険するのが、いつもの感じかなぁ?」
「神よ、メインヒロイン、とは……?」
この男が言っている、言葉の意味は分かる。
だが、このタイミングに相応しい言葉ではない。
「はぁ? 僕に相応しい処女の事だよ。王女とか、そういうレアな処女の事。もちろん、美人限定。んなことも分からねぇの? ベオっち、なんとかしてよ、コイツ」
「ひひひっ。俺らにゃ、若者言葉は難しいつーこった。話を続けろ」
「本当に、ベオっちは欲しがりさんだよねぇ。大丈夫だって、僕の面白話は、逃げたりしないって! そんでまぁ、トルゥーエンド目指してさぁ、サブヒロイン的な女ともきっちりフラグ立てつつ、丁寧に丁寧に、僕が手加減しながら、仲間と数々の感動的? みたいな感じのイベントを経て、ラスボスみてぇなヤツに、瀕死の体を装いつつ、死闘みたいな感じで、まぁ最終的には、僕がブッ殺すじゃん?」
「素晴らしい。さすが、神」
人じゃない。駒と思え。
目的を果たしてくれさえすれば良い。
もう、この男は用済みだ。
戯れ言も一笑に付してやろう。
私は、王。その心は、寛大だ。
「そんで、僕が英雄みたいに担がれるじゃん。完全なハッピーエンドだよね?」
「でも、あんちゃん、いままで、そこで止めなかったんだろ? ひひっ」
「さすが、ベオっちは分かってるね! そうそう! みんなのハッピーが頂点に達した瞬間、グサッて聖剣とか、まぁその世界で一番特別な剣を、一番どうでもいい仲間に、唐突に! みんなの前で! ぶっ刺すの! サイッコーの、サプライズ・パーティーだよねぇ! ここから、やっと本編が始まるっつーワケよ。ウケるっしょ?!」
シンという青年は、純粋に楽しそうに笑っていた。
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