第65話『10の世界を転移した神の物語』

 私が召喚した、シンと名乗る金髪の青年。

 いや、――神と言ったほうがいいだろう。



 あまたの異世界を転移した、神。

 神は、10のスキルを持つ。



 そのどれもが聞いたことがない恐ろしいスキル。

 私が、召喚時に確認した10のスキル。

 私は、その全てのスキルを把握している。





 ・・・・・・・。





主人公チーター』:因果律に干渉しご都合主義を常時自動発動

正当行為チートコード』:殺害時の取得経験値3000倍

簒奪之王スニッチャー』:相手のスキルを一方的に略奪するスキル

我流転製コピーキャット』:一度見た技を完全模倣。更に発展

黄金道十二宮アンヘルゾディアック』:死亡時に自動発動。12回復活する

救世主福音書ニューゲームプラス』;復活時に自動発動。復活時2倍強くなる

真向勝負アンフェアネス』:相対した敵より無条件で3倍強くなる

全智全能デバッグモード』:手にしたあらゆる武器を完全に使いこなす

万物創造エディタモード』:想像した武器を瞬時に創造

超神展開デウスエクスマキナ』:敗北時に自動発動。敗北を強引に勝利に改竄





 神が最初に持っていたスキル『簒奪之王スニッチャー』。

 他者から一方的にスキルを奪い取る能力。



 転移した世界のからスキルを奪ってきた。

 神の強さの起源は、簒奪之王スニッチャーから始まっている。



 超神展開デウスエクスマキナについては意味がわからない。

 恐らくは因果律干渉系の自動発動スキル。

 その、上位版といったところだろう。





「そういやさぁ、あんちゃん、なんか趣味あんの。ひひっ」


「僕の趣味? いいけどさ、マジ、すっげーいっぱいあるよ。多趣味だから、僕」




「ひひっ。一番好きな趣味を教えてくれや。王の、サイコロみたいなヤツ」


「一番の趣味ねぇ。やっぱ、一番となると、世界の破壊、かなぁ?」




 世界の破壊? 何の話だ。




「世界の破壊ねぇ。あんちゃんも、随分とビッグな男だなぁ。ひひっ」


「さすが、ベオっち。分かってるね! おい、お前! 何か反応しろや」




 しまった。……反応が遅れたか。

 何か言わなくては……。




「さすが、神」


「ナニその雑な反応? 人の話聞く時はさぁ、ちゃんと相づち打てよ、基本だろ?」




 この男は、本当に当たりなのだろうか。

 サイコロの出目は、30。絶対成功クリティカル

 傭兵王はそう言っていた。



 私に最善の運命を約束してくれる。

 最強、最良の駒。そのはずだ。

 落ち着け。違和感は誤解だ。 



 私は、運命ダイスを信じる。




「あんちゃん、世界を破壊するって、ここでネタバラシしてもいいのか? ひひっ」


「まぁ、ね? 僕もこういう話は、最後の最後までネタバレしない主義なんだけどさっ、ベオっちとは友達だし、隠し事したくないんだよねぇ。最終的に、ベオっちも、殺しちゃうけどさっ! 最後の瞬間までは友達だもんね! だから、内密にねっ!」


「ひひっ。そりゃまた、光栄なこって」




 何が光栄な物か……殺されるのだぞ?

 目的だ、目的を果たした後は……。

 この駒は、盤外に捨てれば良い。




「神よ、私と交わした約束。守っていただけるのでしょうか」


「はいはい、約束ね。守る守る。僕は召喚されたら、キチンと召喚した相手に勝利をもたらすんだよねぇ。律儀に、約束を守る僕って偉いよね。義理堅いからなぁ、僕」




 それさえ守られるのであれば、後は些細な問題。

 全てが終わったあとで処分すれば良い。

 焦るな。ここは、静観だ。




「神は、何故なにゆえ、召喚された世界を壊すのでしょうか? その、深遠なる哲学を、蒙昧もうまいなる私たちに、ご教授いただけますでしょうか?」


「転移した異世界をブッ壊す理由? ……えーっと、何だったっけなぁ?」




 今のは、迂闊な質問だったか……。

 何が逆鱗に触れるか分かったものではない。 




「そうそう、理由ね。思いだした! だってさぁ、僕が居ない世界で、僕だけノケモノにして楽しくされたらさぁ……僕だけ仲間ハズレみたいで、寂しいじゃん?」




 ……寂しい? ノケモノ? 仲間ハズレ?

 はぁ? マジでナニ言ってンだコイツ?




「だから世界ごと完全に破壊して、次の世界に転移するんだ! みんなの笑顔は僕の中で永遠! 世界が消えても、僕の中で、思い出として無限に生きる! ズッ友だ」




 傭兵王は関心なさそうに爪を磨いている。

 紙やすりで爪をゆっくり撫でている。

 もはや、話を聞いてるかすら分からない。


 何故だ? その行為を、神、この男は咎めない。

 コイツの相手を王たる私が何故しなければいけない?

 



「最初は、雑魚モンスター相手に、ワザと苦戦したりして一生懸命手加減して、仲間との絆を少しずつ築くワケ。まぁ、その世界の……、メインヒロインみたいな、特別でかわいい、女の子とピュアな恋愛しながら冒険するのが、いつもの感じかなぁ?」


「神よ、メインヒロイン、とは……?」   




 この男が言っている、言葉の意味は分かる。

 だが、このタイミングに相応しい言葉ではない。




「はぁ? 僕に相応しい処女の事だよ。王女とか、そういうレアな処女の事。もちろん、美人限定。んなことも分からねぇの? ベオっち、なんとかしてよ、コイツ」




「ひひひっ。俺らにゃ、若者言葉は難しいつーこった。話を続けろ」




「本当に、ベオっちは欲しがりさんだよねぇ。大丈夫だって、僕の面白話は、逃げたりしないって! そんでまぁ、トルゥーエンド目指してさぁ、サブヒロイン的な女ともきっちりフラグ立てつつ、丁寧に丁寧に、僕が手加減しながら、仲間と数々の感動的? みたいな感じのイベントを経て、ラスボスみてぇなヤツに、瀕死の体を装いつつ、死闘みたいな感じで、まぁ最終的には、僕がブッ殺すじゃん?」


「素晴らしい。さすが、神」




 人じゃない。駒と思え。

 目的を果たしてくれさえすれば良い。

 もう、この男は用済みだ。


 戯れ言も一笑に付してやろう。

 私は、王。その心は、寛大だ。




「そんで、僕が英雄みたいに担がれるじゃん。完全なハッピーエンドだよね?」




「でも、あんちゃん、いままで、そこで止めなかったんだろ? ひひっ」




「さすが、ベオっちは分かってるね! そうそう! みんなのハッピーが頂点に達した瞬間、グサッて聖剣とか、まぁその世界で一番特別な剣を、一番どうでもいい仲間に、唐突に! みんなの前で! ぶっ刺すの! サイッコーの、サプライズ・パーティーだよねぇ! ここから、やっと本編が始まるっつーワケよ。ウケるっしょ?!」




 シンという青年は、純粋に楽しそうに笑っていた。

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