第66話『採掘王の驚愕』

「ひえー。あんまビックリさせんな、心臓に悪いぜ。ひひひっ」




 口先だけの棒読みのような雑な反応。

 コイツと友達なら、私の代わりに相手をしろ。


 よく見たら爪を研ぐヤスリ紙が違う紙に。

 粗目から、きめの細かい紙になっていた。


 いやいや違う、そんなこと、どうでも良い。

 この男も、まともに相手するな。





「めんごめんごっ! ベオっち。ビックリさせちゃったよね! でもさっ、そういうリアクションって素直に嬉しいんだよね。僕は、そういうの好きだぜ」



「おめぇ、年寄りに冷や水ぶっかけて殺すつもりかぁ? あんまりビックリし過ぎて、うっかり天寿を全うしとうになったぜ、なぁ、王?  ひひひっ」




 ――ゴミめ。




「……っ、さすっ、神」



「ベオっち、マジごめんごめん! でも、ベオっちはちゃんとそうやってリアクションをしてくれるのは、僕は好きだな。それに比べて、コイツの適当なリアクション。見てると、ほんと呆れて言葉も出ないよ……。はぁ、やれやれ。疲れちゃうよ」


「世界を渡りし神の偉大なる英雄譚! 感動のあまり言葉を失っておりました」


 

 呆れて言葉もでないのは、私の方だ。



「そうやって、アホみたいに僕をありがたがるだけで、自分で考えることができないキミのような無能。僕は嫌いなんだよねぇ。キミさぁ、偉大過ぎる僕を、偶像かなんかだと勘違いしてるでしょ? 僕、生きた人間だよ。卑屈な野郎だなぁ、てめぇ」



「余りに、御身の後光が眩しすぎ、私は貴方を人ではなく、神と思っておりました」




 面従腹背めんじゅうふくはい面従腹背めんじゅうふくはい面従腹背めんじゅうふくはい

 吐き気が酷い。喉元まで胃酸が逆流している。




「何だよ、そのお寒いギャグ。しらけちゃった、僕。キミ、ユーモアのセンスがないの? それとさぁ、僕のこちはちゃんと神として扱えよ、ゴミ」




 ……………………。




「僕はね、ベオっちと、ついでにキミのために、頑張って一生懸命、面白い話してんだよ。ビックリしたり、笑ったり、リアクション取れ。地頭悪いのか、キミ?」


「まぁ、あんちゃんも許してやれよ。ずっとお城にこもって、蝶よ花よと愛でられて、お勉強だけしていた、王は、世界を知らねぇんだよ。ひひっ」




「あー。はいはい、把握。よくいる世間知らずのゴミ貴族系ね。はぁっ、教養のないクソ真面目って、ほんとイラッとくるけどさっ、世間知らずの引きこもりおじさん相手に怒るのはさすがに、大人気ないね。僕はキミの頭の悪さを許す。感謝してね」





 ふざけるなッ!

 私のこの地位は努力と実力で勝ち取った物。


 私が城を構えるに至ったのは、私の実力による物。

 そして、亡き妻の支えあってこそ!



 私は、民に選ばれた王。知ったような口をっ!

 世間知らずの、血筋だけの王などではない、断じて!


 いままで、どれだけ辛酸を舐めてきたか。

 貴様などには、わかるまい!





「過分なるご厚情を賜り、心より御礼申し上げます、神」




「ひぇ~。キミ、いま、何語喋ったの? キミ、宇宙人? 人と話をする時は、ちゃんと伝わる言葉で喋るの、基本だよ? キミ、日常会話もできないの? ボンクラ」


「とても、勉強になりました。ありがとうございます、神」





 ―――――――ッッッ!!!





「引きこもりで、城の中しかしらない世間知らずの城オジを責めるつもりはないんだけどさぁ、……難しい言葉を並べて頭の悪さを隠そうとするのはやめれば? 余計、頭悪そうに見えるからね。周りの人も迷惑してるから、空気読んで、ねっ?」


「申し訳、……ござっ、いません……神ッ!」


 



 イマ、ナンつった? 城オジ?

 はぁッ? テメェ舐めてんのか?

 殺すぞ、――クソガキ。





「そうそう、話を戻すよ。……えーっと、どこまで話したっけ。城オジのせいでどこまで話したか忘れちゃったよ。……そうそう、思いだした! まぁ、仲間の中にも影の薄い、陰キャみたいな殺しても問題なさそうなのがいるから、そいつを、仲間がみんな集まっている場所で、イキナリ聖剣とかでグサッてブッ殺すの。そん時の、みんなのビックリしたマヌケ面が、いやぁ……マジでおもしろくてさぁっ! やめられないんだよねぇ。積木くずし、ドミノ倒しの醍醐味だよねぇ。一生懸命、一生懸命、辛抱強く耐えて耐えて、頑張りまくった、僕が得て当然の、ご褒美だよねっ!」




 

 3回ほど、自分の手を叩いた。

 手がかゆかったから。拍手ではない。

 こんな面倒事、お前がやれ、傭兵王。





「素晴らしい。感動しました。さすが、神っ!」




 コイツ、目線すら合わせなかった。

 私の奥歯がギリギリと、音を立てている。

 我慢、我慢、耐えろ、臥薪嘗胆がしんしょうたん




「恋愛がどーのこーのとか言ってただろ? 恋バナ聞かせろよ。ひひっ」


「はいはい。そりゃ、僕は絶世の美男子だし、まぁ、その恋愛事情は誰だって、気になっちゃうよね。聞かせてあげるよ、僕の恋バナ! まぁ、僕って生まれついて顔も、性格も、頭も良いから、何もしなくても自然とモテちゃうんだよねぇ。恵まれすぎて、恋愛の苦労を知らないというのは結構コンプレックスだよねぇ。なんちて!」





 輝く金色の髪。端正で、優しそうな面構え。

 憂いを帯びたようにも見える澄んだ瞳。

 均整の取れた彫刻のような美しい体躯たいく

 最初は、その見た目通りの内面を期待した。 



 いまは、その中身を知ってしまった。

 ……今は、それら全ての特徴がチープに感じる。  



 魅了されるのは、女性の側の落ち度ではない。

 その責を女性に求めるのは、あまりに酷だ。

 コイツに恋をした者たちに、何ら否は無い。





「どこの世界にもなんか湧いてる、ラスボスみたいなヤツ。周りに迷惑をかけるゴミみたいなカスを殺すまでは、ヒロインたちと手をつないだり、花で作った冠を作ってプレゼントしたり、一緒に歌ったり、キス止まりにしたり、プラトニックな感じの恋愛を楽しむのがコツだね。我慢すればするほど、あとが、楽しくなるからねっ!」




「凄いです。うわぁ。とても驚きました。さすが、神」




「そんで、適当な仲間を一人ぶっ殺して、さぁ本編スタート! ヒロインみたいな奴らをメチャクチャに犯す! 公衆の面前で! 仲間たちの前で! 玉座の間で! その時の顔が、いやぁマジで、……病みつきになっちゃうんだよねぇ。泣いたり、叫んだり、怒ったり、絶望したり、飽きないよ。我慢した分のボーナスだよねぇ!」




 

 悪ぶってる訳じゃないのだろう。

 なんとなくコイツを理解はできた。


 ただ、頭が悪いだけの喋るゴミ。


 存在自体が、マジ不快。

 空気を吸うな、――ゴミ。





「さすが、神っ。いやぁ~、サプライズって、本当にいいもんですね」

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