第51話『因果応報鏖殺陣』

 ――村の直上で赤い光。何らかの干渉。魔法、ではない。


 放たれた巨岩、鉄の矢、火球がある高度に達すると赤く光る。

 それが、呪術発動の合図。





  「因果応報鏖殺陣フィード・バッカー





 村を覆うようにドーム状に展開された、マルマロの呪術。

 その中でも、更に、口伝のみで継承される秘術。



 冒険者は、誰も呪術を、学ばない。当然だ。


 そもそもの存在、その前提から間違っている。

 致命の攻撃を受ける前提の魔法など、破綻している。


 呪術を扱う者に求められるのは、強い精神性。

 そして……死すらも恐れない、狂気。



 呪術師は、その特性から、長くは生きない。

 ゆえに、後世に呪術師の技術は残らない。



 だが、極めれば、このような芸当も可能。

 マルマロは、呪術の伝統を継承し、実践で極めた。

 そして呪術を、彼一人で一段階、昇華させた。



 その効果は範囲内の全ての物におよぶ。

 マルマロは、自壊式オーバー・クロックの最大出力で呪術を発動。

 呪術の適用範囲は、いまや、村全体に及んでいる。


 

 究極の呪術――因果応報鏖殺陣フィード・バッカー

 あらゆる物理、魔法攻撃を倍返しする迎撃魔法カウンター・マジック




 自壊式オーバー・クロックによって、呪術は超強化されている。

 ――10倍にして、因果の報いは、還る。





 それは、――つまり。





「うわああぁぁああっ!!!!!!!」


「あががががががあああああ!!!!」


「ぎぃやああああああぁあぁ!!!!」





 数千を越える、鉄の矢。

 今は、数万を越える、鉄の矢に。

 敵陣に、降り注ぐ、死の豪雨。

 死ななかった者たちも、負傷はしている。




 数百を越える、火球。

 今は、数千を越える、火球。

 敵陣は、まるで日中のように、明るい。

 地獄の釜を引っくり返したように燃えている。




 数十を越える、巨大岩石。

 今は、数百を越える、巨大岩石。

 敵陣に、巨岩が、あちこちに生える。

 運搬器具はめちゃめちゃに破壊された。




 過剰なる自己防衛。自業自得の極み。



 十万の軍勢の頭上から、死は降り注ぐ。

 戦場のこの悲鳴は、戦争によるものではない。

 阿鼻叫喚の地獄絵図、



 採掘王の指揮、それは大筋、間違っていなかった。

 奇策を弄さず、正攻法、定石を打つ、大きな問題はない。



 運が、そして相手が、悪かったのだ。

 わずかばかり、ある男へ、屈折した感情を持っていた。


 それは事実。その個人的な感情が……判断に影響を与えた。

 被害を、ここまで甚大にした。それも、事実。


 だが……それらの事実すら、あくまで結果論だ。

 このような事態が起こることなど、誰にも想定不可能。

 だから、……運が、星のめぐり合わせが、悪かったのだ。





「いやー。ひひひっ、王と一緒にいると、本当飽きねぇっすなぁ」


「ベオウルフ、君は……いや……この戦況を……」






 降り注ぐ火球は陣形を乱し、情報の伝達を阻害した。


 巨岩は多くの兵を圧殺し、運搬機を破壊した。


 数万の鉄の矢は、もはやデタラメに多くの人間を殺した。





「……これは、戦争、などでは、ない」

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