第52話『全滅』

「ひひっ。こりゃあ贅沢な、見世物。王、前の接待の続きっすかっ?」



 傭兵王……彼は、何を、言っている……。

 これが、傭兵流の振る舞い、なのか。

 見世物、接待……そんなはず、あるものか。



 今は、この男の言葉は、無視しよう。

 このような者と、話している余裕などないのだ。

 今は、最も大事なタイミングだ。




「馬鹿な……いや……伝令、部隊の状況報告を頼む」




 私は、王。ここで、取り乱すことなど。

 私は、血筋だけで決められた、王ではない。

 民に……選ばれた、民の……代表。

 実力で、ここまで成り上がった、王。



 だから、膝を折ることなど、できない。



 採掘都市国家の代表が跪くなど。

 慌てふためき、隊の士気を削ぐことなど。


 王のように、凛とした毅然とした顔で。

 まずは、見極めよ、状況を。戦況を。





「王、伝令です。損害規模の詳細は、不明……」


「だいたいで構わない。何割程度、削られた」




「さっ、三割……です」




「さぁさぁ、楽しくなってきたなぁ、どうする、王! ひひっ」


「三割の戦死者、負傷者の数は不明、敵能力、未だ不明……考えろ」




 先の、理解不能な現象だけで、三割が死傷。

 考えろ、今の指揮権は、私にある。




 ……




 つまり、私の軍は敗北したのだ。

 想定とは違う。戦死者は、1割程度で良かったのだ。

 3割――全滅は、あまりに……多すぎる。

 私の……責任問題が問われかねない、膨大な数。



 これでは……各国のパワーバランスが……。

 傭兵国との同盟の力関係にも……影響する。

 いや、……私には、私の国には、切り札が……。




 だが、結果が出ればその道筋など、些末なこと。

 ある程度の敗北、……元よりこの結果が私は欲しかった。

 それが……得られたのだ。だと、言うのに……。



 

 極光加速収束砲ワールド・エンド・クラスターの封印していは解除される。

 私が、国まで後退すれば、即ち、勝利。




 即時の撤退以外の選択など、愚策も愚策。

 これは、ゲームでも、遊びではないのだ。



 くっ……欲をかくな。あの悪魔達はあの男の、駒。

 きっと、策は、あれだけでは無い……。

 私に……勝てるか、いや、勝たねば……だが。



 王は、興じず、賭けず、確率で遊ばない。

 殺せ、感情を徹底的に、冷徹に、考えろ。




 敗北か?――断じて、否。




 想定とは違ったが、目的は達成している。

 国内の穏健派を……これで、丸め込める。


 民に選ばれた王の制約、権限の限界。

 それさえなければ、このような苦労は。



 戦争は既に、始まった。

 穏健派も私に味方せざる負えない。

 もはや、和平の道は残されていない。



 電撃戦、ならば、その撤退も迅雷の如く。

 私は、目標は達成した。


 封印指定遺物の解除の承認を得る。

 それに必要な犠牲。それは成した。





「撤退だ」


「はぁ?」





 食糧問題、治安問題も、これで解決する。

 冷徹だが……必要な、な判断であった。


 だが、数万の民の口減らしは必要だった。

 冬に訪れる、飢饉は……免れられなかった。

 3万……多すぎる……だが、口減らしとしては……。





 私が国に戻り極光加速収束砲ワールド・エンド・クラスターを起動。

 超長距離から、確実に王都を破壊の奔流で陥落させる。

 世界終焉級遺物アポカリプス・アーティファクト。封印指定破滅兵器。



 その、封印さえ解ければ、目的は果たせていたのだ。

 ……成功だ。帰還、そして即座に封印を解く。





「もう一度言う。撤退だ、傭兵の王、定石に従い、撤退の準備を」

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