第50話『採掘王の指揮と策謀』

 勝敗はすでに、決している。


 人々は私を、サイコロ王と呼ぶ。

 行動をサイコロで決めると。だが、実情は違う。


 サイコロを振るうのは、酔狂ではない。

 このサイコロは等級も、出自も不明の星遺物アレイスター


 出目に従い因果律、未来を固定する。

 運命を保証させる魔導具。


 そして、サイコロの出目が勝利の運命ダイスを、約束する。


 サイコロが星遺物である事を知るものは二人だけのはずだ。

 それは、……私と、ギルドマスター。




「ギルドマスター。やはり、私の前に立ち塞がるか。良いだろう、受けて立つとも」




 私には、亡き妻の間に授かった一人娘が居る。

 親の贔屓目ひいきめなしに美しく優しい自慢の淑女だ。


 私より生まれつき、優れた素質を備えている。

 容姿も頭脳も精神性も私よりも遥かに優れている。


 いつか、彼女に王の後継を……。

 我が子の未来のためなら、私は修羅にもなろう。

 目的の為には悪すら、使い捨てにしようではないか。



 率いる私の十万の軍勢。

 その一割には確実に死んでもらわねばならない。

 そうでなければ、冬の飢饉でより多くの人間が死ぬ。



 兵の選出基準は、過去に罪を犯した者、法を犯した者。

 ゴロツキ、など。これは、体のよい口減らしでもある。



 彼らの死は無駄死にではない。

 彼らの死がもたらす国民の怒りと悲しみ。

 それこそが、私の必勝を確実なものとする。




「教会での懺悔も済ませた。愛する娘、民のため、罪の十字架を背負う」




 極光加速収束砲ワールド・エンド・クラスター

 あれを使えば、王都結界アイギアスを破れるはずだ。


 私は生粋の王ではない、民に選ばれ、選出された王だ。

 それゆえに、私の権限は制限がある。


 独断での、封印指定遺物の、起動も私の意志だけではできない。

 だが、今日、私は真の王になる。




 目の前の村。ここが、王都の最終防衛ライン。

 採掘国軍、傭兵王の兵の混成部隊が陣を組んでいる。




此度こたびの指揮は、王である私が直々に執ろう」


「ひひっ。頼りにしてますぜぇ、王」




 これは、奴と私の一対一の勝負。

 傭兵王の助言など、不要。


 あくまでも、彼の暴力に期待しているだけ。

 保険に過ぎない。




「伝令より連絡あり。王都最終防衛ラインに、人影が四つ」


「伝令、ご苦労。どのような者たちであった」




「黒いローブを纏った、禍々しい、赤い悪魔、だ、そうです」


「ありがとう。……赤い悪魔。人か、使い魔か、どちらでも良い」




 四人の黒い法衣をまとった、赤き悪魔。

 ギルドマスター、これが、君の指し手か。


 恐らくはギルドマスターの持つ、最強の駒。

 一騎当千、特記戦力だろう。



 ならば、私は奇策などとは侮りなどしない。

 これは君と私のゲーム盤だ。


 油断などしない。

 さぁ、始めよう――ゲームを。




「ひひっ、王、あの珍妙な連中、どう評価します?」


「一騎当千の強者に違いあるまい。だが、それは通常戦闘においての話だ」


「ほう。そりゃ、悪くない評価だな」



 傭兵王、君の出番はない。

 これは、速攻戦だ。



「陣形を変更しろ、超遠距離包囲殲滅陣」




 勝負は一瞬。最初の一手が重要。

 ギルドマスターの出鼻を挫く。


 運命ダイスがその未来を約束している。

 奇策は用いない私は、王道、正道で行く。




「全弓兵隊、全魔術師隊、全投石機隊、前へ」


「王よ、全隊動員ですか?」


「そうだ、全隊だ。盛大に祝おう、私達の約束された勝利を」




 近寄らせずに長距離から初撃で仕留める。

 持久戦の泥仕合などにはしない。

 一瞬で片を付ける。


 相手の土俵に乗る愚を、私は犯さない。


 過剰なる攻撃、かもしれない。

 だが、ここで勝利する。

 その意味の重さ、それを考えるのだ。




「さすが、百万都市の王、贅沢な陣形っすなぁ。ひひっ」


「友よ、これは、開戦の狼煙のろしだ。過剰かつ、完璧な勝利で士気を鼓舞しようではないか。これは、デモンストレーションのようなものだ」




 ここを超えれば王都まで遮蔽物となる物はない。

 たった、四人。そう侮るな。


 これは、ギルドマスターの指し手だ。

 全てに意味があるはずだ。それを見抜け。

 全力をもって、打ち倒してみせる。




「弓兵隊、大弓を構え、弧を描く軌道で村に向け、放て。狙わずに乱射しろ。死の雨を降らせろ」




 あの四人の身体能力は不明。

 陽動の可能性すらある。


 家屋内に伏兵が居る可能性は非常に高い。

 だからこそ、あえて狙いを絞らずに射る。


 圧倒的な数によって面で殺し切る。

 策を潰す、圧倒的な戦力で。




「術士隊、火球魔法ファイアボールの詠唱を開始。家屋を焼き尽くせ」




 伏兵を屋内、または地下に隠している可能性がある。

 ならば、伏兵を表に出す前に殺し尽くすのみ。




「投石機を、前方へ進めろ。王都に放つ前の試運転だ。全機投石で、更地に変えろ」




 これで、遠距離からの攻撃が可能な兵は全部配置に着いた。

 全弓兵隊、全術士隊、全投石機、照準は村へ向けられている。

 後は、私の号令でその全てが放たれる。




 歴史を変える。その最初の一歩だ。惜しみなどすまい。

 



「全弓兵隊、放て!」




 尋常ならざる数の矢が、大弓から射出される。

 弧の軌道を描き闇夜を埋め尽くす。

 あれは、もはや鉄の雨だ。




「全術士隊、あの村の上空に向け放つのだ」




 魔法火球ファイアボールが最も効果を発揮するのは市街戦。

 上空に放てば、あとは自由落下で、無作為に家屋を燃やし尽くす。

 こと、戦争において、人を狙うなど、素人のすることだ。




「投石機隊、全機一斉に発射。屋内に潜む賊を、轢き潰せ」




 特記戦力4人、あれは陽動の可能性がある。

 悪魔のような姿も注目を惹くためだろう。

 視覚により強い注意を引く、基本的な戦術だ。



 おそらく、本隊は、あの家屋の中に居る。

 相当の数が隠れていると見て良いだろう。

 だが、お前たちは、戦う前に圧死するのだ。

 

 遊ばず、最短、正道、定石を打つ。

 これが、王の戦争だ。




 数千を越える、鉄の矢。

 数百を越える、火球。

 数十を越える、巨大岩石。




 まるで地獄の鍋を引っくり返したような光景。

 村に、圧倒的な死が、容赦なく、迫る!

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