第62話『奇跡の起こし方』

「みなさん、お見苦しい姿を、お見せしました」




 アルテは立ち上がり、深々と頭を下げる。

 凛としたいつもの表情に戻っている。  

 泣きはらした目が赤いのは、仕方がないこと。




「ルナちゃんに王都を案内してくれますか?」




 テミスは、アルテの目を見て言葉の意味を理解する。

 テミスは、そっと、ルナの手を取る。




「……いや……だ」


「ルナちゃん……」


「ルナさんにとって、辛い話しになります。覚悟はありますか」




 ユエはルナの目をじっと見て言う。

 本当にその覚悟があるか見極めるため。

 そして、ユエはルナの気持ちを理解した。

 



「……わかってる……あたいも」


「ルナちゃんは、どこまで……知っているのですか」




「きっと、ぜんぶ……知ってる」


「ルナ、嘘言ってない。わたしには、わかる」




 テミスがそう、ぽつりと言った。

 テミスとルナはいつも一緒。

 だから、分かってしまうのだろう。




「いつも、パパ、ムリしてる……いつも、がんばってる」


「はい。奥歯を噛みしめて、『大したことねぇ!』そう、笑うんです」




「パパ、……かっこつけ。でもね……そんな、パパがすき」


「ルナさんにもバレるとは……ウソがヘタです」




 ユエも知っている。

 自分の境遇を打ち明けた事があった。



 その夜を境に、違法奴隷商のキャラバンは壊滅。

 同時にユーリが数日、村を不在に。


 ギルドの報告を、ユエは信じられなかった。

 「派閥間争いで自滅」そんな偶然は起こらない。



 ユエはそのことを実感として理解している。

 だから、これは偶然ではない。




 ――奇跡。




 奇跡を起こしたのがユーリだとも分かっていた。

 一度は、それを、ユーリに聞こうともした。



 ユーリの、相棒として手伝いがしたかったのだ。

 だけど、それを思いとどまるように言われた。

 


 ユエには、自分のような殺しをして欲しくない。

 ユーリが語った「一人の少年の物語」。



 その話に託された、想いと願いを、理解した。

 だから、その意志を尊重することにした。 



 複雑で凝ったウソを、ユーリはつけない。 

 だから、ユーリのウソを暴くのは簡単。



 でも、それはユーリが守った、砂の城を壊す行為。

 ユエはユーリの砂の城を守りたい、そう思った。





「パパ……ウソ、ヘタだから。……ね。あたいも、わかるよ」


「ルナさんの言うとおりですね」





 ユーリがウソを付く時は、常に誰かのため。

 そして、命を張って、その意地を通す。

 思いっきり格好つけてみせる。



 大人が子供に読み聞かせるおとぎ話。

 儚くも美しいその世界を壊したくない。



 ユエは、そう思った。



 ユーリが守り通そうとした幻想には価値がある。

 そう、ユーリにも信じさせてあげたかった。





「とてもとても、優しい物語。わたしは、ずっとそれを聞いていたい」


「パパがまもったモノ、みんなで、まもろ! かっこつけさせて、あげようよ」





「そうですね。アルテさん、現状の説明をお願いします」

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