第70話『偽りの狂気 / 本物の狂気』

「その、偽りの四天王ってのは、今、城オジ……」


「――ふむ? 城オジ、とは」




「めんごめんご、……御遣いさんの兵が戦っている奴らのことだよな?」


「そう、偽りの四天王。貴方の超根源魂魄アストラル・ボディーが封印されていた最初の世界の者たちと同じ、四偽神に創造された、悪魔たちです」





「くっ……! 僕に苦痛を与えた、あのクソみたいな世界、東京……いや、トンキン。邪悪なゴミクソ世界。マジ、許せねぇッ! いつか再転移して、全生命を一人一人、惨たらしく苦しめぬいて、破壊してやるッ!!」




「偽りの生命、偽りの世界。貴方の最初の世界、トンキン。それは貴方を封じ、破滅させる為に創られた牢獄。貴方の聖魂を、堕とすためのものでした」


「マジ、許せねぇ。マジクソ野郎だな、偽神野郎ッ!」





「四偽神の創り出した、偽りの四天王。それは貴方を人に堕とした、トンキンなる世界のクリーチャーの同位体。つまり、貴方の宿敵――トンキン野郎です」


「アイツラ、あのトンキン野郎どもと同じってことかッ。江戸の敵を長崎で討つってぇ、ヤツだぜっ! 手始めに血祭りに挙げてやるッ!!! その前夜祭ッ! 自力再転移で、トンキン大蹂躙する、その予行練習だッ!! 倍返しだッ!!!」





「――鎮まりなさい。聖人ベオウルフ。肩聖拳シャクティによる浄化を」


「ひひひっ。くらぇ、聖肩パンっ」





「痛、いや、気持ちいい。ベオっち、落ち着いたから、さんきゅっ!」


「遠慮すんなよ! 我慢は体に良くねえ。俺は、あんちゃんの味方だぜ」









「――シン、認めなさい。貴方は、――最低の、負け犬です」


「はぁっ? なんだよイキナリ? いやっ……僕、転移した全世界の人間を皆殺し。つまり、勝利してる。片腕だけで、皆殺しにできるからッ。だから、完全勝者ッ!」







「――認めなさい。呪われ、穢れ、腐った、惨めな、敗者、負け犬よ。そなたは、最初の世界で敗北し、死んだ。偽神の手で、殺された、敗北者です」


「……っ! いやだっ! 僕は絶対ッ! 敗者じゃない! 勝者ッ!」


「――ここから、始めるのです。イチから……いいえ、マイナスから」






「なんで、僕だけこんな優れてるんだよッ! 周りの連中のように、ブサイクで劣った人間に生まれていれば、こんな苦労しなくて済んだ! 僕ぁ、それが悔しいッ!」


「――そなたの嘆き、ごもっとも。ゆえに、今こそ復讐の時」






「詩篇第78章13節、最後の審判アポカリプス。おい、負け犬。時は満ちたぜっ! ゴミカス人生から卒業だ! チャンスだぜっ! ひひひひひっ」


「――さぁ、今こそ、チュートリアルをクリアし、四偽神を引きずりだすのですッ! 偽神によってゴミ箱に捨てられた、貴方の人生を取り戻すのですッ!!」






「まぁ、……もちろん、……それは、それで、僕ぁ、善人だからぁ、頑張ろうと、努力するつもりだけどさっ? へへっ……そんなことより、御使いさん、僕の冒険に、アレ! もちろん、用意してるよねっ? わかってるでしょ、アレだよ……アレっ」


「――ふむ?」


「僕、ご褒美がないと頑張れない、タイプなんだよねぇ。……ねっ! わかるでしょ? くじけて、逃げちゃうかも? 困るっしょっ? バトルだけとか、モチベが保てない。だからさぁ……。えっち、ちゃんと、できるよね? 御遣いちゃんっ」







「――聖行セックスのことですね?」


「そう! ファックスッ!!!」






「――もちろんです。聖行セックスによって、カルマを高めなさい。魂の位階を上昇アファメーションさせるのです。それが、シン、貴方の使命です。ゆめお忘れなきよう。遊びでは有りません、魂を浄化する神事」


「いいの……かよ? 我慢しなくて? 偽神なんちゃら、殺す前に、フォックスし放題でいいの? すげぇな。やべぇ、モチベ、ガッツリあがってきたッ」





「異なことを申されるな。聖行、すなわち、修行。日に五度、行いなさい」


「聖行は、命と命の響鳴っ! 響命レゾナンス。ドンドンやれよ! ひひひっ」


「すげぇ……響命レゾナンス頑張らなくちゃっ。皆のため、最低五回。いや、これは世界のため。僕は、響命レゾナンスをする。日に、十回やるっ!」






「――素晴らしい志です。多くの者と、響命レゾナンスなさい」






響命レゾナンス中に、偽神のジャマとか入らない?」


「――聖人ベオウルフ。貴殿から、説明を」






「問題ねぇ。性剣セクスカリバーがありゃ大丈夫だ! ひひひっ」


「――性剣セクスカリバー。響命レゾナンスを重ねることで無限に強くなる、聖なる浄化の剣。偽神を唯一屠ることのできる剣。『偽りの四天王討伐』のチュートリアル後に、授けましょう」


「すげぇ! やったぜ!」









「一つ、助言を。過度な処女信仰は、捨てなさい。身を滅ぼします」


「なんでだよ? いやだッ! それだきゃ、絶対譲れないッ!!!」








「処女は、カルマの次元が低い。四足の畜生とまぐわうも同じ、反転響命アンチ・レゾナンス行為。あなたのカルマを著しく貶める行為。過度に処女にこだわるのは利己的な行い。そのような悪しき偏見は捨てなさい。等しく全ての人を愛し、響命レゾナンスするのです」









「えーっと、つまり、御遣いのガキも、四足の畜生と同じってことっ?」








 気づいたら右の手の甲にナイフを突き刺していた。

 ……さすがに、いまのはまずかっただろうか。





「ひひっ。聖痕スティグマだな。おらっ! 追い聖痕スティグマだっ」






 傭兵王が左の手の甲に万年筆を突き刺した。

 万年筆がバキバキに甲の中で砕けている。

 さすがに、……ヤバいのでは?






「えっ……これ、洒落にならないっ。人生で一番、痛い……っ!」


「感謝しろ! 全部、あんちゃんのためだ。ひひっ」


「――聖痕スティグマ。神の秘蹟。略式ながら」






「まぁ、穴、片方だけじゃイケてないだろ? 両手に穴がある方が、カッケーから。クールでワイルドになって、モテるぜ。あんちゃん。ひひひひひっ」




 傭兵王は手のひらを掲げる。

 左右の手の甲に抉られたような古傷。

 恐らく、拷問か尋問で受けた物だろう。





「俺もあんだよ、聖痕スティグマ。これで、俺とお前は、友達から穴兄弟ブラザーに昇格だ! あんちゃん、もっとモテるぜ! ひひっ。んな傷、ツバ付けときゃ治る。ひひひひっ」


「まぁ……、聖痕スティグマとか、僕的には、ワリとどうでもいいけどさぁ……つーか、そんなことより、僕が言いたいのは、だね、処女信仰ッ!!! 僕は、絶対に捨てないッ!!! 例え、超越神と対峙することになってもッ!!!! 僕の譲れない、曲げられない信念ッ!!!! 僕は、僕の正しさを信じるッッッ!!!」






「――主義を通す、貴方の志に、感服致しました。宜しいでしょう。貫きなさい、貴方の主義を。では少しだけ預言の書アカシックレコードより、貴方の未来ビジョンをお伝えしましょう」


「マジ? やったっ! 女の子のとこだけで聞かせてよっ」





「――視えました。ヒロインは全員処女。更に隠しヒロインもおります」


「……いいじゃん。そーいうの聞きたかったんだよっ! ヒロインは何人くらい? 少しネタバレしてよ? ひえぇっ、すっげー! 燃えてきた!」





「――ヒロイン20名。メイン3名。サブ15名。隠し2名」


「20名……全員、響命レゾナンス可能、だよね、もちろん?」





響命レゾナンスは義務。遊びではありません。貴方は、四偽神を倒すために響命レゾナンスするのです。むしろ、必ず全員と響命レゾナンスなさい」



「ところで、えーっと。僕……少し、好みがあるんだ、具体的……年齢言うの、っ避けるけど、わかるでしょ、ねっ? 身長で言うと130cm以下が好き、頼むよっ」




 満面の笑みで、両手を広げている。

 手のひらから噴水のように血が流れている。

 聖痕の痛みは忘れているようだ。





「ご安心なさい。出会うヒロインの半数があなたのストライクゾーンの女性。ロリ巨乳、のじゃロリ、メスガキ、ロリババア、貴方が望むものは全て、おります」


「……いい。なるほど。頑張る! 善は急げ! なんちゃら四天王、秒でブッ殺してくるっ! 130cm以下と響命レゾナンス! いやぁ、サイッコーだよっ! 最高にイイッ!! 後ろめたい想いをせず、楽しめるじゃんッ、ねっ? 今回の世界では、僕が善人だから感じちゃう、一切の罪の意識を抱かなくて良いし! 全然悪いことじゃないのに、コソコソとこそ泥のようなことをしなくていいんだっ! 堂々と、楽しめる! そういうのって、サイコーじゃんッ!! あんた、さすが超越神の、御遣いさまだぜっ! やったぁっ! チョー楽しい! いぇーーいッッ!!!」








 ・・・・・・・・・・。








「だってさぁ……サイッコーじゃん! もう、こっそり、僕ぁ、罪悪感を感じながら、お菓子とかさぁ、オモチャとかをエサにして……こっそり、人気のない裏路地とか、草むらとか、森の中に……連れ込んでさぁ、ブチ犯す必要もないってころだよね? 押し倒して、……馬のりにまたがって……手のひらで口を抑えてさぁ……陸に打ち上げられた魚のように暴れるのと……いや……あれも、なかなか良いんだけどさ……うん……涙と鼻水でグチャグチャになった顔、見ながら……ハチャメチャにハッピーになる。あのふわふわ感。いやっ、あれも、へへっ、捨てがたい。でも僕は超善人。心が優しすぎるからさぁ……心のどこかで、罪の意識が僕を苛み苦しめる! だから、すっげぇ、今回は最高だよッ! 堂々とハッピーになれるっしょっ!」 











 ・・・・・・・・・・?











「御遣いっちは、僕の事責めるけどさぁ! 僕だって、ここまで処女にこだわるのには理由があるんだよねっ! 僕は、非処女にトラウマを植え付けられた被害者なんだよ? 僕はね、最初に召喚された世界で女神か『欲しい』と思った瞬間に、相手のスキルをゲットできる便利なスキルもらえて、それは、マジサンキューって、感じだったんけどさ。……その後に、あのクソ淫売が、僕の心を傷つけて、心の平和を、めちゃくちゃにしやがったんだよっ! 僕が、処女しか信じられなくなったのは、あのクソ女神のせいだ! だからさぁ、話ちょっと聞いてくれる? 御遣いっちっ!」




「――ふむ。告白しなさい、人の子よ」






 満面の笑みを浮かべ楽しそうに語る男の顔。

 その顔に、私は底のしれない何かを感じてしまった。

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