第3話『怪力幼女を手に入れた』

 王都の外にある廃村を買い上げた俺は、

 意気揚々と大通りを歩いていた。




「やっぱ、デカイ買い物をしたあとは気分がいいぜッ!」




 武器、防具、備品はギルドの暗部から支給されていた。

 だからそんな金を使うことはなかった。




(暗部……つっても、本来の業務とは別に、ギルドマスターの私財でやってることだから、報酬はあまり大したことなかったのだが……まぁ、それを理解の上で参加したのだ。いたし方あるまい……。……ぐぬぬ)




「一度、やってみたかったんだよな、スローライフ。転生したならやっぱりスラーライフだよな。正直、……スローライフってのが何なのか、俺自身いまいちよく分かってないんだが、DA◯H村を毎週欠かさず観ていた俺ならいけるはずだ! きっと」




 誰に言うとでもなく一人でつぶやく。




「っと……。ギルド公認の公証奴隷商のおっさんと、活発そうな幼女が言い争ってるな。珍しい組み合わせだな?」


「たのもーっ! どれいしょー! さぁ、あたいを買えーっ!」



「あの……お嬢ちゃん。ごめんね。……ここは、王都の往来だから。ね? あんま大きな声を出さないでください」


「・・・。おじちゃん、大きな声はごめんだね。でもね、あたいもお金がないの。……だから。買って? きらん☆」



「駄目ですね。そうやって目を『きらん☆』ってさせても、駄目なものは……駄目ですね」


「ははーん。あたいわかっちゃったっ! さては、おじさん悪徳どれーしょーだなっ! 成敗っ!」


「お嬢ちゃん。私は、悪徳奴隷商ではありませんよ。中央ギルドから営業許可を得た正規奴隷商です……その。……王都の往来なので、風評被害になることは、できれば控えていただけますと。……変な噂が立つとこまります」



「おじちゃんっ! ごめんっ!」


「いえいえ。わかればいいのです」



「おじちゃんは。正義のどれーしょー。だから、あたいを――買ってっ!」


「――駄目なものは、駄目です。それとおじさん『正義』じゃなくて『正規』だから。ね」




 奴隷商おじさんも大変そうだな。

 どこの世界も商売人は大変だ。





「正義のどれーしょーのおじさんの意見も一理ありるっ! でもでも……。うんっ! あたいだって奴隷になる権利はあるっ! 職業選択の自由をあたいは主張するっ!」


「いやいや、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんは奴隷になる権利はないですね。学校行って、奴隷になるための資格もらってないでしょ?」



「えっ、……あたいに権利……それに資格? 学校? ナニソレ……おいしいの?」


「……冒険者なら無資格で誰でも成れますが。奴隷は簡単ではありません。お嬢ちゃんの年で冒険者は危険すぎますしこまりましたねぇ」



「奴隷になるのって。大変なんだね。あたい……遠い田舎で育ったから、知らなかった。ごめんね正義のおじさん」


(正義のおじさんではないと思うけどな。俺は。面白いから立ち見を続けてしまった)




「お嬢ちゃん。奴隷になるためにはね。ギルド指定の奴隷養成学校に一年通って、学問、実技の試験に合格する必要があるんだよ。そうじゃないと資格を貰えないからおじさんがお嬢ちゃんを雇ってあげることはできないんだ……その……資格を持っていたらおじさんも、お嬢ちゃんを奴隷に認める気がないわけではないのだけど」




 奴隷って、簡単になれないんだな。

 昔は王都も奴隷の待遇が中世ヨーロッパ並だったそうだ。



 中央ギルドは『法、秩序、公平』を掲げ、

 いわゆる違法奴隷を一層した。



 本当の意味で、この世界を知らない、

 素性不明の放浪者の俺みたいなヤツが、

 稼ぐ手段は冒険者くらいなんだよな。

 




「正義のおじさん。人生は冒険やで! あたいはね、学校なんて行かなくても、気持ちだけは奴隷になるだけの十分な資格を持っているしっ!」


「残念。ないですね」




 冒険者って奴隷より身分が下か。

 辛い現実だな。



 まぁ冒険者と言っても、ピンからキリだ。

 貴族の坊っちゃんとかエリートもいる。


 冒険者の経験があるってだけである程度評価される。

 男らしさの象徴的な意味合いもあるからな。




「ふざけるなーっ! 奴隷王にあたいはなるっ!」



 "ドンッ!" 



 幼女が机を叩くとバリバリと机が砕け散った。

 なんて怪力! そんな力あるならおとなしく冒険者やれよ。


 って、こりゃ……俺が止めないとやばそうだな。

 そろそろおせっかいをする頃合いか。




「おいおい。チビすけ、奴隷商のおじさん困らせちゃぁダメだぜ」


「チビすけとはなんだ! おまえーっ! 名と職業をなのれーっ!」




「俺の名前は、ユーリだ」


「で、おっさん。職は?」


「……職は――まだないッ!」




 こちとら無職に成り立てだっつーの!

 ちょっと前まではバリバリ働いてました!




「わははっ! おじさん無職の人だっ! うけるっ!」


「人の無職を笑うな。チビ助。つか、おまえも無職だろ? 俺と一緒に、無職王。目指してみるか?」




「うわぁ……無職の人だ! さわるなー! 無職がうつるーっ!」


「無職王。無職って極めるとどうなるんだろうね。哲学だね。おっさん?」


「無色透明になり。無我の境地に至る。……明鏡止水の心を得る。たぶん」




「極めても。おなかはふくれないね。おっさん」


「だな。チビ助。現実は非常だな?」




「はぁ。あたい……冒険者になるしかないかなぁ」


「冒険者になるって。その背丈じゃムリだろ」




「えー? でもあたい、ムッチャ強いよ?」


「ふふん。ならば、こい。俺の鍛えあげたエゲツないシックスパックに力の限り拳を打ち込め! 殺すきでなッ!」



「えー?……でもあたい、知らないよ。おっさんが内臓爆散して死んでも。正義のおじさん。証言してくれる?」


「ほほっ。はいはい。お嬢ちゃんが、ユーリさんをうっかり殺してしまっても、自業自得だと証言しましょう」




「じゃ。いくよ」


「フッ……来な」


「ちぇすとぉおおおおおおおっっっ!!」



 腹部にズシリと重い一撃。

 ぅゎょぅι゛ょっょぃ。


 

 いやいや、ありえんだろ?

 つか、これヤバい。



 俺じゃなけりゃ普通に死ぬわ。

 普通にAランクとか倒せる。

 すげぇな……最近の幼女は。



 つかどんな馬鹿力だよ?

 拳がすでに殺傷兵器なんですけど?



 例えるなら、砲丸投げの鉄球を300kmの

 速さで直接腹筋に叩き込まれたような衝撃。

 おいおいおい。死ぬわ、オレ?



 つーか、俺じゃなきゃ内蔵破裂してたな。

 やべ……これ痛い。あとで回復薬飲もぅ……。



 つーか、俺じゃなきゃ内蔵破裂してたな。

 やべ……これ痛い。あとで回復薬飲もぅ……。



 ――ふぅ、なんとか持ち直した。

 つか油断してたぜ。

 




「チビ助。いまのは……うん。なかなか。まぁ……幼女にしては良い一撃だった」


「大丈夫かぁ? あたい力加減まちがって、うっかり大怪我させたかもとか心配しちった」



「大怪我? ははっ。ありえねぇっ!」


「あの。ユーリさん、口元からかすかに血が出てますよ?」


「ちげぇ! これは……虫歯だ!」


「さいですか? お大事に」





「無職は罪じゃない。心が無職になることが問題なんだ。分かるか、チビすけ?」


「いや。ぜんッぜんッ、わっかんない!」





 安心しろ。俺も何を言っているのか分からない。

 心が無職って……何?




「つまりだ。無職であっても、心が無職でなければ、もう、無職じゃないんだ。大事なのは仕事を持っているかいないかじゃない。気の持ちようだ」




 宇宙を背景にした猫の目のようになっている。

 一時期、よくネットで見たあの宇宙猫の目だ。




「ふぇえ……? あたい、それはどうかとおもうなぁ。さすがに」


「だな。現実を受け入れるのが辛すぎて。俺も現実逃避してたわ」


「あたいも辛いけど、おっさんも。つらいね」


「うん。泣いていい?」




「じゃ、無職の人。あたいを雇ってよ! そうすれば、社長……経営者……つまりトップだよっ」


「マジで?! 社長。経営者。……なにそれ。すごい」



「そこの奴隷商のおじちゃん、あたいが奴隷になった時にいくらになるか、見積もってみてっ!」


「えっと、そうですねぇ……。力仕事もできそうですし、要人のボディーガードも務められそうです、ざっとですが、金貨300枚といったところでしょうか?」




 すげぇなぁ……ざっと、3000万円かぁ。

 どうりで貴族じゃなきゃ買えないわけだ。



 奴隷とか高すぎてハンパないな。

 さらに毎月の生活費や食費も必要。

 こんなの冒険者が買えるわきゃねぇよ……。





「ほらあたいは金貨300枚。心が労働者の兄ちゃん、金貨いくら?」


「さっ……3枚です」




「うん。……しゃーなし。金貨3000枚のあたいが、おっさんに買われたげるっ!」


「はい?」




「あたいが……おっさんを無職から、金貨3000枚の奴隷を雇用する。社長に出世させてあげるっ!」


「……なる。ほど?」


「やったね。おっさん。出費が増えるねっ!」


「不吉なッ! つか……いつの間にか俺が養うこと決定かよッ」


「わははっ! 光栄に思うがよいぞ」


「すげぇな。チビ助。おまえ、営業とか向いてるよ」




 ものすごい速さで俺がこの子を養うことが決定した。

 まぁ……なんだかんだで放ってはおけないもんな。



 しばらくは、俺の手元で預かるしかないか。

 田舎から王都に一人で来るって、よほどワケアリだろうしな?





「しゃーねぇなぁ。俺がしばらくはチビの保護者になる。奴隷商さん、それなら問題ないよな?」


「ユーリさんは過去に問題を起こしたこともないですし、ギルドの信頼も高そうです。保護者なら問題ないですね。ギルドで簡単な手続きすれば通りますよ」


「あんがとさん。そかそか。んじゃぁ。ちょっくら手続きしてくっか」





「いやぁ……それにしても、俺が保護者ねぇ」



 

 生前も孤児院育ちで、両親というものを知らない。

 だからどう接しったらいいのかもよく分からない。



 とはいえ、見捨てておくわけにはいかんだろ。

 旅は道連れ世は情け。しゃーなしだ。




「保護者かぁ。俺いま無職だけど、ギルドの手続き通るかねぇ?」


「ユーリさんなら大丈夫ですよ! えぇ……ユーリさんなら!」


「えっと、奴隷商さん、その根拠は?」


「だって……ねぇ? ユーリさんロリコンじゃないっすからね」


「ありがと。なるほどね! すげぇ……説得力がある言葉で納得しました!」





 まぁ、重要なところだけどさぁ!





「それでは保護者のユーリさん、まずその子が壊したこの机を弁償してください」


「――――(無言)――――」




 そんなこんなで俺は金貨3枚を失った。

 その後のギルドでの手続は全く問題なかった。



 あっさり保護者の申請が通った。

 そう簡単には成れないそうだ。

 俺の信用度凄いなぁっ!



 ……まぁ。ぶっちゃけ、

 俺がロリコンじゃないのが、

 一番の理由だと思いますが。




 そんなこんなで幼女を手に入れるのであった。

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