第2話『ダンジョンを作りたい』
ここは王都中央ギルド。
【漆黒】に居た時には随分とお世話になったもんだ。
とはいっても、表の窓口で請け負う仕事より、
ギルドマスターからの密命を受ける
ことに方が多かったのだが。
俺がギルドに来たのには理由がある。
王都内にダンジョンを作る許可を取るためだ。
ギルドの受付にて長い行列を待つ。
……やっと、俺の番がきた。
(お役所はどこの世界も、待たされるねぇ)
「そういうわけで、俺は【漆黒】を追放されて無一文つーわけ」
この受付嬢はアルテという名の少女。
まだ成人して間もないにも関わらず非常に優秀な少女だ。
実は過去に漆黒の任務でアルテの命を助けたこともある。
(まぁ、……あくまでも暗部の仕事は秘密裏に迅速に行われる。俺の姿は見られていない。だから、アルテに俺が『その人』だってこと、アルテは気づいてないんだけどね)
「……んでまぁ、かくかくしかじかこういう事情なんだよ。王都のすみっこ辺りにダンジョン作ってもいい? 結構大きい感じのダンジョンなんだけど、第二の人生はダンジョンを運営しつつスローライフ的なことがしてみたいと思ってるんだけど?」
「ダメですね」
って、即答かよ!
「フッ……いままで秘密にしてきたんだけど、実は俺、……実はちぃと能力者なんだよね? 聞きたい?」
「ユーリさんのスキルは、当然、知ってます。私はギルドの受付嬢してますんで。【迷宮術士】ですよね?」
「ピンポーン!……で、駄目?」
「駄目ですね」
二度あることは三度ある。
……無理そうだな。
グッバイ、俺のスローライフ!
「ほんじゃ。お邪魔したなっ! いままでいろいろとあんがとよ! アルテにはめっちゃ世話になったな」
「待ってくださいッ! 私は、職を失い……路頭に迷っているユーリさんを見捨てるほど薄情じゃありませんよッ! 見損なわないでください」
「泣けること言ってくれるじゃないか。リップサービスだとしても、俺は嬉しいぜ。……うるうる」
「はいはい。ユーリさんのへたな泣きまねはともかく。ユーリさんのスキルは、一生に一回だけダンジョンを作れるっていう、たしかに珍しいスキルですよね……それで、どうやってお金を稼ぐのか……については少し頭をひねる必要がありますが。大丈夫ですよ。なんとかなります!」
「おっ……マジで?」
「はい。ユーリさんはいままで、『冒険者』として漆黒で誰よりも命を張って頑張ってきたじゃないですか。……だから、私はそんなユーリさんが、新たな人生を少しでも幸せに過ごしてほしいと思っています」
「……まぁ命を張ったと言っても、王都の近隣の魔獣を討伐したりって……そんな他の冒険者とやっていることは変わらねぇけどな。ははっ」
表向きはそういうことになっている。
【漆黒】はBランク。
そして俺はただのBランク冒険者。
アルテもきっとそう認識しているはずだ。
「その……。私は……ユーリさんみたいな、無職になってしまったことは、個人的に同情しています……それに、ユーリさんには、個人的な恩義もありますし、応援したい気持ちはあります……その。本当に」
「……マジで? すでに泣きそうなんだけど。俺」
「なみだふく木綿のハンカチーフいりますか? ……いらなそうですね。はい。知ってましたが」
「すまんすまん。無職になった俺を憐れんで、一緒に悩んでくれたことに感謝してるのはマジだって。アルテ、いつもありがとな!」
まぁ……普通にムリなんだろうな。
優秀なギルド嬢のアルテが言うなら間違いない。
これ以上は迷惑になる。帰るか。
「……一つ案が思いつきました! ユーリさん、そもそも、どんなに金貨を積まれても王都の土地を所有とすることは認められていないんですよ。土地の売買自体が中央ギルドの定めた法で禁じられていますので」
「へー。そうだったんだ。でも、家とか持っている人いるのは。あれはどういうこと?」
「あれはですね、一時的に土地の所有権を貸し与えられているだけです。永続的に住めるわけではないんですよ」
「なるほどねぇ」
まぁ、残念だがしょうがない。
それに珍しい話でもない。
俺の転生前の世界での話だが……、
地の購入を認めている国は少なかった。
日本を含めて10カ国程度だとか。
テレビかネットで見た。うん。
「つまり、王都の土地は端から端まですべて中央ギルドが管理しています。王都内に【ダンジョン】のような恒久的な施設を作ることは禁じられています」
「こっそり作ってもダメかな? 先っちょだけでも。だめ?」
もちろん冗談だ。
さすがに俺も分かっている。
ダメなもんはダメ。
無理筋は通らない。
「ダメですね。先っちょだけでも。そもそも何の先っちょだけですか? ユーリさん」
「・・・・・・。ダンジョンの?」
やれやれと言った感じのアルテ。
「もとから存在していたダンジョン、自然にできた野良ダンジョンなら話は別です。ですが、スキルによるダンジョンの設置は、中央ギルドの法に反します」
「それって、……破るとちょっちヤバかったり、する?」
「ヤバいもなにも、即刻、ノータイムで衛兵にしょっぴがれますよ。撤去できなければ最悪、死罪の可能性だって」
「死罪ね。うん。……アルテに会いにきてよかったぜ!」
「……いままで、うっかりユーリさんが王都内で "ちぃと" しなくて、本当に良かったです。私に相談しにきてくれたのはグッジョブです!」
「せやね。俺もそう思うぜ」
無理なものは仕方ない。
夢破れて山河なし。
冒険者以外の職を探そう。
「ユーリさん、落ち込まないでください。職を失って辛いのは私も痛いほど分かります」
「……アルテ。お前はいつもいいやつだな」
「ユーリさん。漆黒を追放され辛いのは知っています。ですが、――体が無職でも、心まで無職に、ならないでくださいッ!」
(……。つか、心が無職ってどんな状態?)
「まぁ、私の方でも、ユーリさんが再就職できるようにお仕事を探しますので。そんなに焦らないでくださいッ!」
この子は人差し指で髪をクルクルやるクセがあるな。
なんか見てるとスパゲッティーとか食いたくなるな。
ミートソースにタバスコと粉チーズをぶっかけて食う。
はぁ……おなかが空いた。
いやいや、そんなこと今は関係ない。
なんでいま俺ミートソースパスタを想像した。俺?
「――。つか、仕事先探してくれるって。そこまでしてもらって良いのかよ?」
「任せてください。私がユーリさんの仕事を見つけますよ……まぁ、困った時はお互いさまってことです。なんなら、私がユーリさんを養いましょうか? 冗談抜きで、ちゃんとお給料もお支払いしますよ?……その……どうですか、ユーリさんっ」
「いやいや。一応、俺にもプライドはあるぞ。気持ちは嬉しい。だが、ヒモはノーだ」
「……そうですか。ふふ。さっきのは冗談ですッ。そうですね。一緒に仕事を探しましょう」
「助かるぜ!」
持つべきものは友だ。
勝手に俺が友達認定しているだけなのだがな。
三人寄れば文殊の知恵。
一緒に考えてくれる相手がいるだけでありがたい。
「……そうですねぇ、どぉしてもユーリさんがダンジョン作りたいというのであれば、ゴブリンに占拠された廃村とか買い上げてそこに作ったらどうでしょう」
「ふえぇ……? 廃村とか、個人のお金で買えちゃうの?」
驚きのあまり、おもわず幼女化してしまった。
「えぇ。魔獣の住処ですし、不毛の土地なんです。王都が近いので、わざわざ王都の外に住もうとする人はいないので、二束三文です」
「ちなみに、参考までに、その廃村おいくら?」
「金貨30枚ですが……あの、ユーリさん本気ですか? 本当に何もない魔獣に襲われた廃村ですよ?」
「まかせろッ! 俺はスローライフのプロフェッショナルだ!」
(死ぬ前は、毎週。剛腕DASHを見てたからね。抜かりはねぇ……ッ!)
金貨30枚で廃村……。
廃村=スローライフ。
スローライフ=何だかんだで無双。
無双=……ハーレム。
ペロッ、これは……チーレム!
――ないっすよね、はいはい。
「本気で正気、超正気。退職金で金貨33枚もらったからその廃村。買ったッ!」
ちなみにざっくり換算で、金貨1枚が10万円。
300万円で廃村が買えると思えばお得だろう。
前世でいうところの限界集落みたいな激安相場だ。
ダメでもともと。
死なばもろとも。
俺だって少しくらい冒険しても良いだろう。
そういうお年頃なんだよ、俺は。
「ユーリさん、よぉく考えてください。お金は大切ですよぉ……早まるのはやめましょうねぇ……一時の気の迷いです」
「いいんだよ。男ならさ、やっぱ、自分の生きた証ってやつを後世に残したいと思うじゃんかさ。俺にとっては、ダンジョンを作るというのがソレなんだよ」
「はぁ、わかりました……。もぅ、知りませんからね。私、止めましたからねっ! ……もし困ったら、私と一緒の家に暮せばいいと思いますよ」
「ありがとうなっ! まぁ、そうならんように、頑張ってみるよ」
心配かけて申し訳ないけど、
一度はやってみたかったんだよ、
スローライフってやつを!
「失敗してもやけにならないでくださいね! 私が、ちゃんとコネで働き先を探しますからっ!」
「あんがとよ! アルテ!」
かくして、俺は一国一城の主になるのであった。
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