引退した最強処刑人はハグレ者達と仲良くやります~法で裁けぬ巨悪に鉄槌を!~
くま猫
第1話『追放そして旅立ち』
「ユーリ、漆黒を辞めるってッ……いったい……どういうことだッ!!!?」
「団長、すみません。俺も真剣に考えて出した結論です」
俺の所属する【漆黒】は、
ギルドに登録されているランクはB。
それはあくまでも表向きのランクだ。
【漆黒】各団員の戦闘スキルは非常に高い。
環境次第ではSランクにも負けない実力を持っている。
ギルドの暗部の仕事を請け負っているため、
その強さは表向きに公表されることはない。
だが恐ろしく強い。
俺の所属する【漆黒】は四人のメンバーで構成されている。
団長【
【
すこし……腹囲が気になる【呪術師】、マルマロ。
そしてこの俺【
これが、俺たちBランクパーティー漆黒だ。
俺のスキル【
このスキルは、戦闘において優位に働くスキルではない。
俺は、いままでは限界まで鍛え上げたた筋力だけで団に貢献してきた。
だが、最近は物理耐性を持つ魔獣も出てきている。
俺は魔力適正というものがない。
これから先、俺が足手まといになるのは明らかだった。
みんなは俺に気を遣って俺には言わない。
だが、その事実は俺が一番よく理解していることだ。
みんな優しすぎる、いいヤツなのだ。
「辞めるなッ! 思いとどまれッ! 報酬なら上げるし福利厚生も良くす……有給休暇も増やす。だから辞めるなッ!……この、漆黒の黒装束が恥ずかしいという理由なら、黒色の布を腕に巻くだけで良いッ! だから辞めるなッッ!」
「団長、すみません……待遇は俺にはもったいないくらい、最高でした。それに俺。闇っぽい感じの黒装束好きでした。照れ隠しで、恥ずかしがっていましたが。本当は、みんなと同じ衣装を着れるのが嬉しかったです」
退職時に時に引き止めてもらえたのは前世も含めて初めてのことだ。
前世では自分のための送別会を、俺が準備をさせられた。
何を言っているのか分からないと思うが、俺も分からない。
送別会参加者の調整は大変だった。
そして、送別会の当日。
参加の返事をしてた人たちも全員、当日ドタキャンした。
当日キャンセルはできなかった。
俺は10人分の料金を自腹で払った。
だだっ広い部屋に一人ポツンと残されたときの俺の気持ち。
きっと、誰にも想像がつかないことだろう。
それに比べて……コイツらときたら!
マジでいいヤツすぎるだろ……っ!!
「
入団当初はエッジが何言っているのか分からなかった。
だけど、いつのまにか理解できるようになってたんだよな。
ありがとうな、エッジ。
「ユーリ殿がいなくなったら、ケモミミロリの良さについて語り合う同士がいなくなるのでござる。拙者、そんなの、耐えられないでござるっ!」
ありがとうマルマロ、おまえは最高の友だ。
……それはそうと――痩せろ。マジで。
このままじゃ糖尿病待ったナシだ。
甘い物は控えろ――任務前に、死ぬぞ。
「みんな、ありがとう。だけどそんなお前たちだからこそ、俺のせいで危険な目にあうことは、俺自身が許せないんだ。すまない」
「そっ……それなら、拙者たちがもっと、もっと強くなれば良いだけのことでござる」
「
いままでは俺がいても、なんとか戦ってこれた。
だけど、漆黒に来る依頼の難易度はドンドン上がってきている。
討伐対象の魔獣の強さも、ダンジョンの難易度も上がる一方。
……表向きの仕事は何とかなるかもしれない。
だが【漆黒】の本当の任務を遂行するには……。
いまの俺には十分な機能を果たすことが難しい。
冒険者はお遊びではない。命がけだ。
特に【漆黒】が請け負う密命は文字通り毎回命懸けだ。
俺が失敗すれば、みんなが危険な目にあう。
……俺のせいでみんなが不幸になる。
そんなこと……絶対に認められない。
「はは……ありがとう、な。みんな最高だ……だからこそ、俺はここで身を引きたいんだ。みんなを危険な目にあわせたくない」
「
「駄目だ、団長としてお前の脱退を許すわけにはいかないッッッ!!!」
「ごめん、俺は団長に残酷なお願いをしなければならない。俺を――追放してくれ……!」
パーティーの団長による【追放】の宣言がないと、
俺はパーティーを脱退することができない。
団長の許可なく勝手に脱退すると、
右手首のバングルが爆裂する仕掛けになっている。
片腕を失うくらいはまだ、マシだ。
深刻なのは二度とギルドで冒険者登録が、
できないというペナルティーが課されることだ。
ギルドを頼れなくなった冒険者の末路は哀れだ。
野盗に堕ちるか、死ぬかの二択だ。
これはパーティー内にスパイが潜り込んだ時に、
勝手に逃げられる事を防ぐためにギルドが作った安全装置。
だが、俺たち漆黒には一切必要のないものだった。
俺たちにはギルドが課したそんな制約は不要だった。
だからこそ俺は胸が痛む。
その残酷な言葉を、団長に言わせなければならないのだから。
そして、ソレを言わせる自分を不甲斐なくも思う。
「……っ……、――1つ、いや2つ条件がある……いいな?」
「はい、団長……なんでも言ってください。覚悟は、出来ています」
「1つ、ギルドを辞めても俺たちはずっと――仲間だ。
友であることをやめることは、絶対に許さない!」
「……っく……そんなの、当たり前ですよっ!」
「2つ、退職金を受け取ること! これはお前が頑張った、正当な権利だ!」
漆黒の金銭を管理していたのはこの俺だ。
団長が渡そうとしている金貨は、団の総資産の3分の1。
とんでもない金額だ……。
「団長、そんな大金、俺は……受け取れないですよ……」
「バカヤロー!! 退職金の受け取り拒否は俺が許さない!
これは……団長としての最後の命令だッッッ!」
「……せめて、装備していた武器、防具、備品は返却させて下さい。後任の方に必要でしょうから」
「ふざけるなッッ! これからおまえは身一つで生きていくんだ。友を……
親友……そう、思ってくれていたのか、団長。
やはり、俺の決断は正しかったのだ。
これ以上、好意に甘え、迷惑をかけるわけにはいかない。
それに気づけて良かった。
「ユーリ……俺はお前の意志を尊重する。だが、もし食うに困ったら、いつでも戻ってこい!」
団長が俺をきつく抱きしめる。
痛みさえ感じるほど、力強く、熱い抱擁だった。
はは……抱きしめる力が強すぎて両腕が痛い。
だけど、こんなに嬉しい痛みは初めてだ。
いつの間にか団長に覆いかぶさるように、
マルマロもエッジも俺のことを抱きしめていた。
「く……っ……、ユーリ……よく聞け。これが、最後の団長としての言葉だッ!」
「はい!」
「漆黒の団長、魔双剣士シャドウの名において宣誓するッ!
団長は歯を食いしばり、目からは血の涙を流していた。
【追放】の宣言が終わると、
右手首のバングルがガチャリと外れる。
本当にこれでパーティーを脱退するのだと思うと、
自然と、俺の瞳から熱い雫が頬を伝う。
こんな顔をみんなには見せられない。
だから、俺はみんなに背を向け、扉のドアを握る。
「いままで、ありがとう。団長、エッジ、マルマロ。俺――頑張るから!」
俺はその言葉を最後に、勢いよく部屋を飛び出る。
後ろからみんなのすすり泣く声が聞こえる。
胸にチクリと痛みを感じた。
だけど、俺は後ろを振り向かない。
ここから新しい人生が始まるのだ!
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