第4話『廃村と男の娘を手に入れた』

「てりゃぁッ!」




 俺は廃村に占拠したゴブリンの群れに突っ込む。

 斬って斬って、斬りまくる。


 筋力でゴリ押しできる魔獣は楽でいい。

 物理耐性持ちの魔獣とか面倒だからな。



「まぁ。耐性があろうがなかろうが斬り伏せるのみだが!」




 ギルドの暗部を担っていた男だ。

 この程度の魔獣の群れなどぞうさもない。




「やーっ」




 幼女がやる気無さそうに適当な石を投げた。

 ――――雑に。



 魔獣のボス格の頭が爆散した。

 ホブゴブリン。瞬殺。



 頭が吹き飛びましね。

 パンッ、て。




(えっ……これマ……?)




 つーか、どんな強肩だよ。

 前世で野球やらせてたら世界狙えてたわ。


 デッドボールで死者がでるけどな。

 つか、ボールが爆散するだろうけど。



「やるな。チビすけ! 俺も負けてられないぜ!」




 斬って、斬って、斬りまくれ!

 残るは、村の奥のあの一体だ。


 俺は目の前の魔獣に向け前蹴りを放つ。

 体幹をくずしひるみながら、後ろへ後退。


 追いうち。

 魔獣の頭部にロングソードを叩き込む。




「うっす。これで一通りの魔獣討伐完了っと!」


「おっさん、おわったー?」



「終わったぜ! つか、俺はともかく。なんでおまえそんな強いの?」


「あたいが強い理由? ……竜と人の間に産まれた竜人だからかな?」



「竜人?」


「そうそう。人と竜がレックスするとできる」


(つか……レックスって、なに? 動詞?)





「わははっ。ぐちゃぐちゃーだー。エグいねぇ」





 金貨30枚の理由を理解した。


 そりゃー金貨30枚でも誰も買わないよなぁ。

 魔獣の死骸が消えてくれないのは面倒だ。


 ダンジョンなら自動的に消えるんだけどね。

 まずは死骸をどっかに捨ててくるか。




「おっしゃ。しゃーなしだ。チビ助。割り切っていくぞ!」


「えらい! がんばれ! さすがあたいの雇用主! すごいっ!」


(あの……キミは手伝う気ははないのかなぁ? ピキピキ)




「よっ! さすが雇用主!」


「バカなこといってねぇで働け! 衣食住はちゃんと払うから」


「でも、ママがいってたよ? 児童労働は法に触れるって」


「……なるほど。法律なら仕方ないね。ぐぬぬ」




 人権意識、思いのほか高くね?

 法で児童労働禁止されてんの?



 ……いやいやねぇわ。

 王都で普通に働いている子たち、

 見たことあるしな。



 たぶん適当な嘘だな。

 ……うん。

 


 つか、ママ居るの?


 でも、ワケアリっぽいから、

 立ち入ったことを聞くのもアレだしなぁ。



 死別してたとか、トラウマ抉るだけだ。

 うかつに聞けねぇしなぁ。

 しゃーなし。俺一人で片付けるか。




「そっすか。んじゃ、チビはそこでリンゴでも食ってろ」


「あーい。がんばれ。雇用主!」


「すげぇな。雇用主と従業員。立場逆転してんな?」






 えんやこらえんやこら。

 わっしょいわっしょい。


 ふぅー。頭使うより体使うほうが、

 俺には性に合ってるみたいだ。



 だいぶ死骸も片付いてきたな。

 地面の血や汚物片付けるのは時間がかかりそうだ。

 無理せず明日の自分に仕事を投げよう。




「ふぅ……それにしても今回は犠牲となった人間もいなかったようで良かったぜ」


「このあたり食うものいっぱいあるからね。人襲う理由もないんじゃない?」




「ゴブリンもわざわざ好んで人間の肉を食うわけじゃないのかね?」


「人間って骨ばっかりで食べるところ少ないもんねーっ」


「いやいや! 魔獣視点で語るな!」


「てへっ☆」




 かわいく言っても怖いわっ!

 まぁでも本当に良かった。


 今回はたまたま運がよかっただけだ。

 いままで、魔獣の群れに襲われた集落を何度も見てきた。


 そのどれもが、……酷いものだった。

 言葉にできないほどの地獄。


 この世界では冒険者には誰でもなれる。

 仕事は安定しないし常に命の危険がともなう。

 それは事実だ。



 それなのに、冒険者はいなくならない。



 冒険者は誰かを守るため、自分の命を捧げることをいとわない。

 命をかけて人々を守るために戦う。


 救われた人々は冒険者に憧憬どうけいの念を胸にいだく。

 冒険者の背中を見つめ、自分もああなりたいと思う

 そんな者たちが冒険者になるのだ。



 だからこそ、冒険者はいなくならない。



 俺は漆黒でその事実を経験し、理解した。

 正直なところ、冒険者に賢い奴はほとんどいない。

 裏表のない愛すべきバカモノばかりだった。





(だから俺は……)



「ねーねー。なんか、あっちの方で気配がするー」


「ゴブリンの生き残りか、それとも人か。分かるか?」



「うーんっとね。わかんない。あの馬小屋のなか。そこにいるのは確か」


「………………」




 剣を構えながら馬小屋の扉を開ける。

 なかは薄暗くて視界が悪い。



 薄っすらと人影が見える。女……。

 服は破かれ、



 ゴブリンは人を好んでは食わない。

 だが、女は連れ去る。繁殖のためだ。


 だから忌み嫌われる。




「……そこの方。俺の声、聞こえますか?」


「ふぇっ……冒険者の方ですか? はい。きこえています」



 よかった意識はある。声も明瞭。


 辛い思いをしただろう。

 だが気丈に振る舞っているのだろう。

 はやく村に連れ帰って休ませてやろう。



 近づくにつれて輪郭がはっきりしてくる。

 細身で整った顔をした女性。

 美しい女性だと思った。




「お嬢さん、大丈夫です。俺が責任をもって元の場所まで連れて帰ります」


「ありがとうございます。でも、ボクは男です、女じゃありませんよ?」


(……錯乱しているのだろう。……よほどひどい目にあったに違いない。おの――ゴブリン!)




「あの……?」


「大丈夫です。すべてわかっています。お嬢さん」



「えーっとね。おっさん、こいつオス」


「おいおい。男と女の区別もつかないのか?」


「論より証拠っ! ほら、このツノ!」




 幼女が女性のスカートをペロリとめくる。

 やめろ……見てはいけない。

 見ては……ッ。



「――? ……えっと、マジ?」


「だからいったじゃないですか! ボクは男です!」


「わははっ! おっさんの反応ウケる!」




「えー。あっ、はい。もちろんちゃんと安全な場所までは連れてくんで安心してね。市民の安全確保は冒険者の務めだからね」




 まぁ。もう冒険者ではないのだが。

 まぁ人として当然の義務だろう。




「おっさん。男相手だからって言葉が雑になるの。あたい、そういうのって、よくないと思うなぁ?」


「はいはい。そっすね。チビ、おまえも手伝え」


「あいあい!」




「あの……ボクの話、聞いてくれますか?」


「どーぞ」



「うん。あたいの勘違いじゃない。同性には、雑!」


(ほっとけ。男相手に女性相手の対応するのも、それはそれで変だろっ! いろいろあるんだよ! こちとら)



「ボクは村を追放され、放浪していたら……魔獣に襲われ、ここに」


「それは……まじでキツかったな……」


「もうボクには帰る場所はありません!」


「おまえも……辛かったな」


「あなたに一生ついていきます!」


「んっ……?」


「なんと男の娘が立ち上がり仲間になりたそうにこちらを見ている! チラッチラッ」


(自分でキャプション入れるなよッ!)


「いやな。実は俺、無職なんだ。金もないんだよ。それに、一生って……」




「オニ! 変態! ロリコン! 無職!」


(幼女め……俺は少なくともロリコンではない。ストライクゾーンはアラサーからアラフォーの間。ちょい仕事にくたびれた感じがエロっぽいんだよな。未亡人とかだとより、グッとくる感じはあるな。俺は……最近そういう性癖を開発したっ! 性癖を極めた! ・・・・。いや、だから何を考えてんだ? 俺は……)




「おい、おっさん。聞いてるかーっ?」


「はいはい、聞いてます。よーし分かった。帰る場所が無いってのはさぁ、実際辛いよな。まぁ、しばらく落ち着くまでは俺たちのもとにいればいいさ」




「はい! ボク一生懸命、がんばります!!」


「おうっ、よろしくな」


「あたいもよろしくたのもー」




 俺と男の娘は手をにぎる。

 微笑んでいる顔を間近でみると美しい女性にしか見えない。

 肩のあたりまで伸びた黒い髪はサラサラだ。




(それにしてもなんでこの男の娘、さっきからずっとツノをおっっててんだ? ヒ◯カの人かな♠)




 キラキラとした瞳は吸い込まれそうでもある。

 なんとなく甘い匂いもする気がする。




(いかん、その性癖は開いてはダメだっ! 違う……違うんだっ!)






 かくして俺は廃村を手に入れた。

 そして男の娘も手に入れた。

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