第5話『ダンジョンを作ろう!』

 『三人寄れば文殊もんじゅの知恵』

 というコトワザがある。


 だけど俺たちの場合……。

 三人よればかしましいだけ。




「ダンジョンは。村のまん中だ! 意義ないな!」


「それは普通過ぎるよ。意表を狙おっ?」


「そこは特に意表は狙わなくていいと思うぞ?」


「あたいは下に一票!」


(いやせめて東西南北で行ってくれよ。下ってどっちだよ?)


「ボクは北が良いです。占星学的には……(中略)……なので!」




 完全に『船頭多くして船山にのぼる』ってヤツだ。

 おのおの主張が強いのでまぁー、ぶつかる。




「へぇ。なるほど。よしわかった。と、北の間をとって、真ん中で決定だ!」


「えー。意外性はぁ? それって普通すぎない?」



「あのなぁ。俺たちが作るのは、俺たちの生活費を稼ぐための商業施設だ! チビすけ、意外性はいらんわっ!」


「おっさん。あたい”チビすけ”じゃない、ルナ! 名前で呼んでね!」


(いやいや……俺が名前と職業を言った時に、おまえ名前言わんかったから『チビすけ』って呼んでただけだぞ? 名前があるなら逝ってくれ)


「あの、ボクは、ユエって言います……改めて、よろしくお願いします。ユーリさん」



 そういえばユエの名前、聞いてなかったな。

 ユエか。いい名前だ。

 ルナも……まぁ、可愛らしい名前だな。



 それにしてもこのままじゃラチがあかん!

 ダンジョンの位置は。

 こうなったらアレで決めよう。



 このまま議論を続けても平行線だ。

 残酷だが、こいつらに現実を突きつける必要がありそうだ。

 心を鬼にして、あの残酷な現実を突きつけねばなるまい。



「お前らの言うことは確かに、一理ある」


(……と、とりあえず言っておこう)


「あたいのは、一理じゃない。全理っ!」


「占星術の意義を認めてくれましたか! さすユーリさん!」




 どっちもアホだな。




「………冷静に、思い出せ。イマの俺たちはなんだ? どういう身分だ? ルナ? ユエ?」


「あっう……あーっ……わはは。あたいは、……そうそうおっさんの従業員。金貨3000枚分の!」


(金貨3000枚分の仕事、期待してるぞ。ルナ!……まぁ、贅沢は言わない。1枚分だけでもいいから。頼むぞっ!)


「ボっ……ボクは……、そう! 自由人です! 何にもとらわれない風のような――旅人です!」


「はいはい。現実見ようね。おれたちは――無職だ」





「そんな……そんな……そんなことってありますか! 神様は残酷過ぎます!!」


「あ……あたいは……無職というより……何にも染まらない無色だから!」


「ルナ、ユエ。……現実をみろ! 人生は冒険じゃない! 日常だ!」




「ルナ。稼がないと、辛いぞ。リンゴすらくえない」


「やーだぁー……あたい。リンゴ食べたいもんっ」



「ボクは毎日、スイーツが食べたいです!」


「そのためには金を稼がないといけない。まずは金だ」



「やっぱ、世の中って金なんだねー」


「お金ですね」




 すごい手のひら返しだな。

 物分りが良いのは良いことだが。




「はいはい。そんじゃ、ダンジョンの場所はジャンケンで決めるぞ」


「ここであったが10年目。あたいにじゃんけんで勝てると思うなっ!」


(ルナ。おまえ、10年前は影も形もないだろ)




「ボクも……相手がユーリさんでも、負けませんっ! 頑張ります!」


(ジャンケンで何をどう頑張るというのだ……)


「それじゃ、いくぞ。じゃんけんポン!」




 勝った! やったぞ!!

 俺は拳を空に掲げ、勝利のポーズを決める。




「おっさん、こども相手に本気だすとか、おとなげないなぁー」


「はわわ。負けちゃいましたぁ……さすが、ユーリさん強いです!」




 結果的に俺がジャンケンに勝ったので、

 ダンジョンは村のまん中に作ることとなった。

 みんなで歩いて村の中央へと向かう。




「それじゃぁ、作るぞ! 迷宮術士の奥義――ダンジョン創造!」



 まぁ奥義というか、これしかできないのだが?

 ついに一世一代のチートを使ってしまった。



 なんかやりきった感があって嬉しい。

 やっぱりいくつになってもこういうのワクワクするよな。



 村の中央広場の地面が光を帯びる。

 地面からズズズ……と巨大な門がせり出してくる。



 しばらくすると村の中央に巨大な門ができていた。

 ダンジョンに通じる門である。




「ふぅ……。やったぜぇ! 無事に成功っ!」


「すごぉー! でかぁー!」




「これはっ……ユーリさん、とても――ご立派様、ですね」


(ご立派様? なんか卑猥に感じるのは俺の心がけがれているからか?)



「そんじゃ、いっちょ、中に入るか」


「あたいが、一番のりー!」


「待ってください。一番乗りはボクですよーっ!」




 あれだな。


 大人しそうだけどユエも結構な負けず嫌いだよな。

 そしてわりと意志が強い。


 ルナとユエ、はたから見ている分には姉妹のようで微笑ましくもある。

 黙っていれば二人とも美人なんだがなぁ。


 まぁ……ユエは男なのだが。




「そんじゃー。俺も、そろっとダンジョン入るかぁ」



 門に手をかけて、俺はダンジョンの中に入った。

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