第6話『ダンジョンを設計しよう』

「なんもねーな」


「わははっ! すっごーい! なんもなぁーいっ!」


「びっくりするほど……無、ですね」



 まてまて、落ち着け。

 俺が授かった能力がこんなショボいはずねぇ。

 こういう時は深呼吸だ。



《・・・虹彩認証、声紋認証を開始。あなたは、ユーリですか?》



「うわっ! がシャベッたっ!」


「……喋りましたね、



 ルナもユエも……動じねぇなぁ。

 つーかって何だよ。

 神とか上位者的アレなんじゃないの?

 順応性高すぎるだろ。



「ああ、俺が迷宮術士ダンジョンメーカーのユーリだ」


《・・・・・認証、完了。マスター。ご命令を》


「命令? なんっつーか、もっと軽い感じで話せない」


《善処します》


「まぁ、いいや。ところでおまえの名前は何って言うんだ?」


迷宮制御装置ダンジョン・コントローラー。それが私の識別名です》


「わははっ、変ななまえーっ」


「少しだけ呼びにくい名前かもしれませんね。ここは一つ、親しみをこめて略してダンコンとかでいかがでしょうか?」



 いや……ダンコンって略し方は、ダメだろ。

 ルナの方もあてにならない。

 俺が名付けるしかないか。



「それじゃ、俺が名前を付けてやる。おまえは『ムー』だ」


《固有名称・・・登録完了。私は以後、自身を『ムー』と呼称します》


「ムーさん、よろしく。ボクの名はユエ」


「あたいは、ルナだよ」


《以後、宜しくお願いします》


「ところで、ムーは何ができるんだ? 迷宮制御装置ダンジョン・コントローラーというくらいだから、ダンジョン関連の何かができるんだろ?」


《肯定。オブジェクトの設置。マスターへのポイント付与が可能です》


「オブジェクト設定はなんとなく分かる。ポイント付与ってなに?」


《このダンジョンに訪れる人が増えるたび、加算されるポイントのことです。1人あたり10ポイントが加算されます》


「なるほど。そのポイントを消費すると何が作れるんだ?」


《ポイントを消費することでさまざまなオブジェクトを設置できます。初回ポイントとして100ポイント。更にルナ、ユエの2名で追加20ポイントを付与します。マスターの初期ポイントは120ポイントです》



 頭の中に120PTという数値が表示される。



「このポイントで何ができるんだ?」



《・・・・・情報共有のため、空間にこのダンジョンに設置可能なオブジェクト、および求められるポイント数を映写します》



 ・ボスフロア :35PT

 ・魔獣一体  :30PT

 ・トラップ  :15PT

 ・体力回復の泉:10PT

 ・魔力回復の泉:20PT



「魔獣とボスフロアは消費ポイントがかなり高いですね」


「わははっ! 120ポイントじゃ、ダンジョン作れないねーっ!」



 笑い事じゃないぞ、ルナ。

 金がなけりゃおまえの好きなリンゴも食えないぞ。


 まぁ確かに、普通のダンジョンを運営するのは無理だ。

 わざわざ元廃村には足を運ばないだろう。


 ならば……。



「ムー。魔獣、トラップは必須ってわけではないんだろ?」


《肯定》


「なるほど。回復の泉の温度とか調整することは可能あ?」


《肯定。0度から100度まで調整可能です》



 ……100度に設定したら回復する前に死ぬだろ。

 初見殺しの悪質なトラップだな。



「よし、なら決まりだ。このダンジョンは温泉施設として運用する!」


「おっさん、オンセンってなぁにー?」


「オンセンですか、それはいったいどういったモノでしょうか?」



 そういや、冒険者の宿屋もシャワーしかなかったな。

 温水が出る魔道具は、便利ではある。

 だけど、疲れを癒やすならやっぱ、温泉だよな。


 自然にできた温泉とかもあるのだとは思う。

 だけど、魔獣がいるせいで入ろうとは思わないだろうな。


 湯に使っている間は完全に無防備になるからな。

 その点、絶対に魔獣に襲われないこのダンジョンは安全だ。

 世界一安全な温泉と言っても良いだろう。


 しかも、だ。実際に効能がある温泉だ。

 回復の泉で作った温泉なら体力と魔力を同時に回復できる。

 怪我の多い冒険者たちは喜んでくるだろう。


 この廃村は立地的にも悪くはない。

 王都からはそんなには離れていないからな。

 料金設定と宣伝方法はあとで考えよう。



「でっかくて、あったかいお湯に皆でつかる場所だ」



 我ながらもっとなんか例えなかったのかと思う。

 実際、説明が難しい。

 実際に体感しなければ温泉の良さは伝わらないのかもしれない。

 一度、広い風呂で肩まで湯につかってみれば一目瞭然なのだが。



「えー。わざわざ、お湯に入りにくる人なんているのー」


「ボクは良いと思いますよ。皆が裸になる場所、ということですよね?」


(……間違ってはいないが、何かが違う)


「ただの湯じゃない。このダンジョンの湯は、治癒効果のある回復の泉の温泉だ。怪我の多い冒険者たちなら、喜んで来るだろう」


「なるほどです! さすがはユーリさんです」


「治癒院って、ぼったくりだもんねーっ。お金ない冒険者行けないもん」


「別にボッタクってるわけじゃないだろうけどな。だが、まぁ……たしかに高い。駆け出し冒険者は、大怪我しても金がなくていけない現実があるからな」


「そうですね。ボクもそういった方たちを救える場所を作りたいです!」


「あたいもーっ!」


「おしっ。意見はまとまったな。それじゃ、ちょっくら温泉作ってみるか!」

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