第16話『ギルドマスターとアルテミス』

【以下の『*』内は補足文章です】

 

 **********************


 第16話~第18話までは設定中心の話です。

 本筋に絡まない舞台裏も描かれています。



 情報量が多いので以下の箇条書きを読めば、

 読み飛ばしてもいいかと思います。



 この頁で書かれる内容は箇条書きするとこうです。





 ・ギルドマスターが漆黒のスポンサーであり王都の最大権力

 ・アルテはユーリに救われたことをギルドマスターから聞いていた

 ・アルテは執行権限を持つユーリをかげからサポートしていた

 ・ギルドマスターは漆黒をはじめ、数々の暗部の仕事を抱え持つ

 ・漆黒の全員はギルドマスターに肉体に処置を施されている

 ・『自壊式』は命を削る。ユーリの体は限界に来ている

 ・アルテは、ユーリが好き

 ・ユーリもアルテを想いつつ、自分の命が長くないことを知っている。

 だから、アルテの気持ちにあえて、気づかないふりをしている。

 ・アルテが――――無職になる。




 以上です。

 ギルドマスターとアルテの会話を

 読みたい方は以下に進んでいただいて構いません。


 ですが、情報量が多い話なのでスキップして、

 あとで戻ってくるのでも問題ないと思います。



 本編始まります↓



 **********************




 ここは中央ギルド内部の調整室。

 俺にとってはよく見知った部屋だ。


 意識はある。脳と耳は機能している。

 だが、他の部分はまったく動かねぇ。

 あれだ。金縛りの時の感覚に近い。



 俺は、あの後限界がきたということだな。

 野犬とか魔獣に食われなかったのはラッキーだった。


 通りすがりの誰かが守ってくれたのだろうか。

 理由はともかく、俺は生きているようだ。



 近くに男女の話し合ってる声が聞こえる。 

 この声は、ギルドマスターと……、アルテ。


 ギルドマスターが居るのは、分かる。

 だがなぜアルテが? 

 

 ……愛人、とか、じゃぁないよな。

 いやまぁ、人の色恋にどうこう言う権利は無いのだが。




欠番実験体ロスト・ナンバー単騎で、ギルド指定の商会の殺害対象の重罪人を一人も逃さずに、殲滅。Sランクですら単独では絶対に再現不可能、圧倒的な暴力。チームではなく、単独で運用できると証明できた事は、大きな成果だ」


「失礼を承知で申し上げます。ユーリさんのことを番号ナンバーで呼ぶのはやめていただけませんでしょうか。彼は、物ではありません。人です」


「特任上席職員アルテミス。キミには、私の身体のことを話していなかったね」




 ギルドマスターは、上着を脱ぐ音が聞こえる。


 俺はギルドマスターの背に刻まれた数を見たことがある。

 番号ナンバーが刻まれている。番号はゼロ


 つか、……アルテの前で服脱ぐなよ。セクハラだぞ?

 危うく、……そういう事かとおもっちまったじゃねぇか。


 ギルドマスターが法を犯すことはありえないのだが。

 ちょっとイラッと来たのは、事実だ。 




「私も、彼らと同じ実験体モルモット処刑者権限デーモン・ライセンスを持つ番号ナンバーズの一人だ。私のこの零という数字は、誇りとともにある」


「……失礼いたしました」


「気にすることはない、頭をあげたまへ。哀れみも同情も不要。私も、彼らも自分の意志で望んで実験体となった」




 ギルドマスターの言葉にウソは無い。

 漆黒も俺も、自ら実験体になるべく志願した。

 みな、リスクを理解している。




「私が冒険者を引退し、ギルドマスターになった理由が自壊式オーバークロックの過剰使用。今の私には、クエストを完遂するための継戦能力がない。椅子に座って、書類仕事をするのが精一杯といった、有り様だ」


「……自壊式オーバークロックの、反動ですか」




 ギルドマスターの冒険者時代の逸話は数しれない。

 どれも常人では成し遂げられない偉業ばかりだ。

 特に、彼の冒険者時代の晩年の記録は常軌を逸している。


 当然、生来の資質と努力に依るところも大きいだろう。

 だが、それだけでは説明できない部分もある。


 その答えの一つが、実験体モルモットだ。

 それは、不可逆の損傷と引き換えに力を得る、

 自壊式オーバークロックを使用する者。




「正解だ。最初の実験体であった私の自壊式オーバークロックは、継戦能力が低すぎる、実運用に耐えない失敗作だった」


「…………」


零番実験体モックアップ贋作勇者がんさくゆうしゃ。人造勇者計画の試作実験体。そして、中央ギルドのマスター、それが私だ」




 俺や、漆黒は人造勇者計画とやらの一部らしい。

 人為的に勇者を造り出す計画。


 正直、俺はそんな未来のことはどうでも良い。

 団長、エッジ、マルマロも同じようだ。


 俺たちは、ただ守るための力が欲しかったのだ。

 未来の事は、偉い人達が考えれば良い。


 俺たち現場の人間は、ただ重罪人を始末する。

 絶望というやまいの拡大を防ぐために。




「失敗作である私の、失敗を踏まえ、出力を制御できるように調整した。継戦能力を持つ実験体。それが、壱番以降の番号ナンバーズだ」


「ユーリさん、そして漆黒の冒険者たち……」


「実運用型の処刑者権限デーモン・ライセンスの保持者には、重罪人相手にしかその力を使用できないという制約も課している」



「ギルドマスターは、どのような基準で人員を選定したのですか?」


「力によって救われた者。自分より他者を想う者。悪を憎む者。覚悟の決まった者。それが、選定の基準だった。それが、壱番以降の番号ナンバーズの選定基準だ」



「私は、背に刻まれた番号ナンバーを恥に思った事はない。ユーリ、シャドウ、マルマロ、エッジ。彼らは同志とすら思っている」


「私も彼らも、勇者に至るための失敗作。だが、失敗は無駄にはならない。失敗から学び、きっと、いつか誰かが、辿り着く」



 照れくさいが嬉しい。これ以上ない光栄なことだ。

 女性の前で上半身を晒したのは、まぁ非常識だが。

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