第105話『最終任務完了』

 傭兵王の苛烈な拷問は続く。 

 ユーリたちはこの状況を見守るしかない。





 燃え盛る水平線の向こうから青髪の男。

 ギルドマスターだ。

 彼は、一人の少女を連れてあらわれる。





「ご苦労だった。貴君らは文字通りの意味で世界を救った」


「最終任務。――死亡は、完了していないっすけどね」




「否定だ。虚偽報告は認めない。貴君らは、確実に一度死んだ」


「…………はぁ。手も足もありますが」


「最終任務、死亡。だが、私はその後とまでは命じていない」





「そっすか。……つーか、……まぁ、なんで死んだはずの俺が今こうやって生きているのか、俺の方がその理由を知りたいんすがね?」


「それは――。いや……違う。これは私が話すべきことではないな。貴君らは私からではなく直接そのもの達から聞いた方がよい。私が言えるのは任務完了。番号各位ナンバーズ、貴君らが約束通り命を捧げたその事実に、深い感謝を」





 ギルドマスターはそれ以上語らなかった。





「大将、あの使い魔の処分はどうします。14の命を奪った上、今度は不老不死の不死身の肉体になってしまったみたいっすが。いまは見ての通りですが」


「君たちの最終任務。使い魔を倒せ、死ね、王都を守れ。――この3つの約束は全て完璧に果たされた。最終任務完了。……私の予測を上回る、完璧以上の結果だ」





 ギルドマスターは漆黒に頭を下げる。

 彼が誰かに頭を下げるのは初めてのこと。





「否定だ。私は使い魔をと言った。、とは言っていない。世界に、王都に無害な存在になるのであればそれで十分だ」


「そういうもんっすかね」


「肯定だ。採掘王から傭兵王へ正式に遺産として譲渡された。つまりアレの全責任を傭兵王が負うのであり、あの男の手に渡った以上。――救いは、ない」




「……なるほど。まぁ。確かに」


「あの傭兵王。単純な殺傷能力だけで比較するなら全盛期の七色英雄イーリス全員で掛かって勝てるかどうか。……傭兵王。条理を越えた理不尽な存在。そして、奴はその強さに関わらず欲をかかずかつ、絶対に判断を誤らない。だから、侮れない」


「……奴は世界を破滅させる道具。そして強力なスキルを持っています。他にもまだ見ぬ隠し玉を持っている可能性も」




「傭兵王の前で隠し事をすることなど不可能。見給へ。そして傭兵王はそのようなスキを相手に与えない」


「傭兵王の案件になった以上、貴君らがコレ以上、傭兵王にも使い魔にも関わる必要はない。火種にも成りかねない。ここは私に従って欲しい」


「大将。あのベオウルフという男に任せて、本当に大丈夫か」





「肯定だ。私がその安全性を保証しよう。殺しても死なない不死身の化物。———そんなモノ、傭兵王のもとに置くのが一番安全だ」


「――――。だってよ、団長、マルマロ、エッジ構わねぇか」


 

 

 漆黒の全員が首を縦に振った。 




「大将、こっちは問題ないってよ」


「そうか。もちろん、貴君らが心配する気持ちは理解する。だが、アレが傭兵王の手元にある限りは絶無。あの男の手元にある限りいかなる悪魔も、兵器も、不条理も――逃げれない。単純な暴力であれば勇者に比肩すると言われる化物だ。アレは例外。距離を取り、関わるな。アレからは、も捻じ伏せる。暴力によって」


「大将。……随分と奴についてくわしいっすね」


「――――――――」





 まるで聞こえなかったようになにも反応しない。

 ギルドマスターは嘘をつかない。



 だが、語らないことはある。

 語らないことは、すなわち、語れないこと。




「まぁ、深くは聞かないっす。現場の俺ら漆黒には、まったく関係のない話ですし。大将にもいろいろとあるんでしょうよ」





 ギルドマスターは否定も肯定もしなかった。

 ただ少し目をつぶり僅かに額を下げたように見えた。

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