第19話『アルテさんの華麗なるコネ入社』

「ユーリさん、私……ギルドクビになって、無職になっちゃいました」


「アルテ、おまえも無職面に堕ちたかぁーっ!!」


「やったねユーリー! 無職がふえるねっ!」


「――いや俺を無職の代表みたい言わないでくれるかな? アルテすわぁん?」





「ユーリさんは、きっと何か隠されたスキルを持っています」


「……どんなスキル。格好いいやつを頼むッ!」




「追放者と無職を引きつけるスキル。引力のような力をお持ちのようです!」


「ねーよっ!」


(どこのス◯ンド使いだってはなしだよっ!)




 アルテが村に来た。

 俺がギルドマスターの調整室の治療を受けた後、

 この村に帰ってしばらくしてのことだ。



 中央ギルドで聞いたアルテとギルドマスターの会話。

 あれはまぁ、事故みたいなもんだ。



 いわば、うっかり女風呂を覗き見したようなもの。

 ここは聞かなかったフリをするのが大人の対応。




 ……嬉しいが、恥ずかしいアルテの言葉も聞いてしまった。

 俺の体が持たない以上。気持ちに応えられないのが、

 残念ではあるが……。 

 



 ――まぁ。難しいことはなしだ。

 俺に聞かれたことを知ったら、死ぬほど恥ずかしいだろ。



 だから、俺も忘れることにする。





「ユーリさん、そのっ……雇ってくださいっ!」


「俺の友人の中で一番まともなアルテも無職ね。――ははっ。頑張れよ! 俺はおまえを応援してるから! キラッ☆」


「応援はいりません! 雇ってくださいッ! ユーリすわぁんッ!!」




「わははっ! まともそうなアルテっちもついに無職の人になっちゃったかぁっ! 世知辛いねっ」


「ルナさん、事実でも言っていいことが悪いことがあります。アルテさん、心までは無職にならないで下さい。ボクはアルテさんが無職になんか負けない強い心をお持ちの方だと、信じています!」



(ユエのその良い方。女騎士の負けフラグ感が強いのだが?)




「くっ……この身は無職でも、心までは……決してッ……無職に屈しませんッ!」


(アルテもノリがいいな!)


「なんでしょうか。ボクはなぜか逆に、アルテさんがすぐに屈しそうな気がしてきました」



 


「私は、まだまだ働けますっ! ユーリさん、コネ枠のご採用をッ!」


「いっそ清々すがすがしいな。世界一堂々とした不当採用希望者だな?!」





「よよよ。このままでは……野垂れ死んでしまいます。ユーリさん御慈悲をッ!」




 もちろん採用するに決まっている。

 アルテにはいままで数え切れないくらい、

 陰でサポートしてもらっていた事を知った後だ。



 いや、そんなことを知る前から、

 アルテなら喜んで採用していたさ。


 


「はいはい。それじゃ、最終面接通過ということで。採用試験終了」


「ありがとうございます! 私、馬車馬のように働きます!」


「安心しろ。そんなに、仕事ねーから」





 真面目な話をするなら、アルテは引く手数多だ。

 再就職先なんてそれこそ選り取りみどり。



 アルテのキャリアは冒険者とは違う。

 一般の商業施設でも働ける経験を積んでいる。



 ギルドとつながりを持ちたい商業関係者は多い。

 そういう人間からしたら喉から手が出るほど欲しい人材だ。

 本来は、小さな村で雇えるような人材ではない。



 俺は彼女の覚悟を知っている。

 その覚悟をありがたいと思っている。

 心強く好ましい事と感じているのも事実だ。





「ボクはいま、社会の現実を垣間見た気がします……」


「おとなになるってかなしいことなの」





「ルナ、ユエ、いまのやり取りは見なかった、いいね?」





「あたい、なにもきいてない、みてないっ」


「世の中、金とコネ……なのですね。勉強になりますっ!」


「いやいや、メモんな。学ばなくても良いからな?」



 

 ユエは少しだけ笑う。




「分かっています。困った時はおたがいさま、ということですよね」


「まっ、そーいうことだ」




 察しの良い、ユエには説明する必要はなさそうだ。




「アルテさん、改めてこの村の仲間としてよろしくお願いします。分からないことは、何でもボクに聞いてください」


「ユエくん。ありがとうございます。ご迷惑をおかけするかと思いますが、よろしくお願いいたします」




「もと無職のおねーさん、あたいもよろしゅーなっ!」


「ルナちゃんも、よろしくね!」






「そんじゃ、アルテ、改めてよろしくな」


「はい! ユーリさん、これからも、よろしくお願いしますっ!」


「あぁ。よろしくな。まぁ、あんまり気負うな。楽しくやろうぜ!」


「ありがとうございます。ユーリさん!」





 俺とアルテは、硬く手を握りあうのであった。

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