第20話『がんばったユエとルナ』

 俺が村に居なかった間のことを話そう。

 村に来た客はユエとルナの二人が対応していた。


 ここ最近は冒険者以外の客も増えてきていた。

 だから、たった二人で大変だったはずだ。

 相当に無理をして頑張ったのだろう。



 村に戻った時、一生懸命な二人の姿に驚いたものだ。

 知らぬ間に二人も成長していたということか。


 二人の姿に、正直ちょっとうるっときてしまった。



 

「おっさん、もう衛兵につかまるなよー」


「ルナさんも、お説教はほどほどにですよ」



 村から突然いなくなったことはよく、ルナから怒られる。

 まぁ当然といえば当然のことだ。


 そして、この一連のやり取りもいつもの事だ。



「あはは……なーんも言い返せねぇ」


「ユーリさん、何かあったのですか?」



「いやな、ちょっと前に王都でちょっとばかりやらかしちまってな」


「ユーリさんがですか? それは珍しいですね」



「ちょっと前にスリにあってなぁ。いやぁ、俺も焼きが回ったもんだ」


「なるほどです。ユーリさん、焼きだけじゃなく、後ろ手も回ってしまったと」


「おねーさんにざぶとん一枚っ」


「まっ、冒険者引退したのは正解だったな。潮時だったっつーことだ」




 さすがは元ギルド上席職員だ。

 即興でも話をあわせるのがうまい。


 事情を知った上でこれだけの対応、流石だ。

 ここは、アルテの話に乗ってみようか。




「しょーもない話さ。ふと夜、飲みたくなってな、王都まで向かったんだよ」


「あーっ、私もわかりますちー。仕事をして居ると、そういう日もありますよね」



「そうそう。そんでな、一人気ままに、飲み屋で気持ちよく飲んでたんだ」


「なるほどです。でも、今のところ事件が起こりそうな感じはしませんが?」



「そうだな。ここまでは良かったんだ」


「と言いますと?」


「会計の時に、財布がないことに気がついたんだ」



「私、分かっちゃいました。それが、ルナちゃんのスリの話に繋がるわけですね」


「ご名答。説得を試みるも無銭飲食扱い。店主、大激怒。衛兵まで呼ばれる始末」


「……ユーリさんも、災難でしたね」



「店主にも衛兵にも弁明聞いてもらえず、哀れ、牢屋行きという訳」


「冒険者バングルがないと身元の証明が難しいです。そうですよね、ユーリさん?」


「そうそう。それな!」




「すまん、この通りっ! ユエ、ルナには、マジ迷惑かけたっ!」


「れんらくくらい、よこせーっ。心配したんだぞーっ!」


「連絡したかったんだが、獄中から連絡する方法無かったんだ」


「はー。しゃぁーないねー。特別にゆるすっ」


「ありがたやー」


「ユーリさん、お勤めご苦労さまでした!」



 ヤクザの親分が出所した時みたいな感じのセリフだな。

 まぁ、実際は捕まってすらいないんだけどね。



「いやぁ、身にしみた。あのせんべい布団と、冷たい床はもう、こりごりだ」


「あたい、おっさんが財布盗まれないよーに、財布にヒモ付けたんだよーっ」



「ルナちゃんも偉いですね。いいこいいこ」


「おねーさんあたいって、えらいっ? 


「ルナちゃんは、とーってもえらいです!」


「おっさん、聞いたか? どやっ!」


「ルナ、これ以上にないほど良いドヤ顔だな」




「ユーリさん、夜は危ないです。あまり無茶は……しないでください」


「そだぞー! ユエっちのゆーとーりっ!」


「すまねぇ。返す言葉もねぇぜ」



「そーゆーのって「年寄りの死に水」ってゆーんだよ」


「ルナ、それ「年寄りの冷や水」な! 俺を勝手に殺すな」


「てへへっ。まちがいちったっ」




「ユーリさん、お酒がお好きだったんですね。ボクが代わりに買ってきます」


「まぁ、たまに軽く一杯飲みたくなる程度さ。村には必要ねぇさ」


「それと、夜の外出、禁止っ。はいかいろーじんと間違えられるしなーっ」


「徘徊老人? さすがにそりゃねーよ!」




「それにぃ……あたい、ぼーけんしゃの噂、きいちゃったからぁ」



 ルナが微妙に口ごもっている。

 口ごもっていること事態は常にではあるのだが。



「最近ねっ。近くで、ぶっそーな事件があったのっ……だからねっ」


「ルナさんはユーリさんに危ない目にあってほしくないんですよ。ルナさんの気持ち、汲んであげてあげてください」




 ルナの言っている「ぶっそーな事件」は先日の一件のことだ。


 このあたりでは皆が知っていることのようだ。

 冒険者が集まるこの村には真っ先に情報が入ったようだ。



 さまざまな噂が飛び交っていたようだ。

 ドラゴン犯人説、魔力暴発説、仲間割れ説……。


 最終的には、異なる派閥の違法奴隷商の抗争ということになった。

 ギルドが、正式に調査結果の報告を出したからだ。



 いままで通り、事後処理はギルドが行う。

 隠蔽工作カバーストーリーもギルドの暗部の重要な仕事だ。



 ただ俺の存在を秘匿するだけではなく、潜在的な驚異を叩く。

 罪人達に疑心暗鬼、憎悪の種を植え、争わせる。

 ギルドはこういう泥臭いこともする。



 このギルドのカバーストーリーは効果てきめんだった。

 ギルドの正式な調査結果の報告のあとに変化があった。


 水面下で異なる派閥の違法奴隷商が殺しあっているそうだ。

 静かで地味な戦い。こういう戦い方もあるのだ。

 俺はそんな事を考える。




「あの、ユーリさん……あまり……無茶は、しないでください」


 少し間をおいてユエが口を開くのであった。

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