第73話『祭りのあと』
「はは、さっきの演技。ウケたぜ。あんた、役者だな」
「所詮、三文芝居。君には、かなわない」
「…………………………」
「…………………………」
「王、そろそろ、このお祭り騒ぎも、終いだな」
「…………そうだな」
「王、祭りの最後に、賭けでもどうだ。賭け金は、金貨一枚」
「構わない。勝負の方法は」
「3つの10面ダイスの合計の出目が大きい方が勝ち。それで良いか」
「そうだな。勝負は、シンプルな方が良い」
「ベオウルフ。祭りは終わる。もう無理に、私のことを、王と呼ぶ必要はない。それは、私には相応しくない。……賭けのサイコロは、私が貸そう」
「大丈夫だ。俺も自前のサイコロを、持っているからな」
「――――。……ふふっ。なるほど。君は、本当に面白い男だよ。……それでは、私が指で弾いたコインが落ちた瞬間、同時にサイコロを投げよう」
一枚の金貨を親指にのせ、弾く。
弾かれたコインは回転しながら上へ。
頂点に達すると、落ちていく。
そして、テーブルの上で跳ねる。
ベオウルフと私の
私のサイコロの合計は28。
ベオウルフの合計は13。
「負け。不敗の王の名、返上しなきゃだな」
「――――いいや、君の勝ちだ。ベオウルフ」
ベオウルフの投げたサイコロ。
それは私のサイコロと完全に同じ。
それが意味する事は、つまり……。
「ふっ……なるほど。私には、元より勝機など、なかった。そういう事か」
「すまねぇな。これが、俺が請け負った本当の仕事。……任務。請け負った仕事の完遂、それは何よりも優先される最優先事項。私情をまじえる事は、許されない」
召喚の儀式の最後に私はサイコロを投げた。
そして、サイコロがテーブルから落ちた。
それをベオウルフが拾った。
その時に、すり替えられていたのだろう。
王の体面を優先したこと。
膝をつくことができなかった私の責任だ。
「ベオウルフ、君が私に謝る必要などない。君は、国の王として、その役割、職務を果たそうとしているだけだ。それは人として当然の営み。義務。正しい行いだ」
「俺は、あんたの根底にあるそのクソ真面目なとこ、嫌いになれなかったぜ」
「――――君が、あの時に見た、本当の出目。教えてくれないか」
「
サイコロの合計の値が3以上であれば、成功。
10面ダイスのサイコロの数は、3個。
理屈上、3を下回る数にはならない。
――――だが、起こったのだろう。
「床に落ちたサイコロ。……どの面も指さず、……ただクルクルとコマのように延々回り続けてた。出目を出すのを拒絶していた。見たときゃ、さすがにゾッとしたぜ」
「サイコロが、私の目から、逃れたということか。まるで、それでは、サイコロが意志を持っているようじゃないか……。いや、さすがに考えすぎ、思考の飛躍か」
「そうでもねぇぜ。このサイコロ、確かに意志がある。自分で出目を調整してやがる。あんたがサイコロの投げた後の、ありえねぇ動き。目に焼き付いているからな」
「あり得ない動き?」
「あぁ、あんたが投げた3つのサイコロ。大理石のデーブルにブツかって、跳ねた。そんで跳ねた3つのサイコロが、さらに互いに同時にぶつかり、互いに弾きあった」
「そうだ。そして、テーブルの下に落ちた」
「でもよ、……そんなこと、絶対あり得ないんだ。放り投げたサイコロが、落下時の、反発力より大きな力をうみだして、さらに3つ同時に空中でブツかるなんて事」
そして、落ちたサイコロは床でコマのように回っていた。
ベオウルフは、そう言っていた。
――よく分からないそんな物を、私は、扱っていたのだな。
構造も理屈も動作原理も分からない物を扱う悪癖。
求める結果が出るのであれば扱ってきた。
そうであるならば、人の役に立つために作られた道具のはず。
そう考えた。それ以上は考えなかった。
それが、その結果が、これだ。
思えば、私が扱ってきた物。
これから、扱おうとする物。
その全てを理解していない。
傭兵王ベオウルフ。
――だが、きっと最後の一つだけは。
「あんた、以前俺に『遺物は太古の昔の人間が、人の役に立つために作った道具』そう言ってたよな。だけどな、俺は正直その言葉に疑問があるんだ」
「聞かせてくれ。君の考えを」
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