第64話『運命を打ち破る決意』

 ユーリのウソは、とても単純。

 子供っぽいとさえ言えるほど。

 でも、真剣で、本気で、命がけ。



 その言葉には強い想いがこもっている。

 そこに託された願いが、伝わってくる。 

 そこには、愛がある。




 だから、


 


 想いのこもっていない現実、事実それはただの現象。

 そんなモノより、ユーリのウソの方が、ずっと良い。



 だって、そっちの方が、ずっと楽しい。






 *






 親はサンタという優しい虚構ウソを子供に語る。



 子供も、大人が想うほどに単純ではない。

 子供も、虚構ウソだと、薄々は気づいている。

 それでも、サンタを信じる。



 なぜなら、その虚構には愛があるから。

 その想いが、伝わってくるから。

 だから信じる。 




 虚構を信じること。

 幻想を受け入れること。




 それは、共同作業。

 一人では成し遂げられない。




 相手に信じる気持ちがあってはじめて成立する。

 その信頼関係が壊れれば、崩れる、儚い物。 

 砂の城と同じ。



 ユーリの起こした奇跡も同じだ。

 みんなの協力があって、はじめて成立する。

 いわば、共犯関係のような物だ。



 みんなで、ユーリが描いた幻想を守った。

 元から、共同作業だったのだ。


 それは、ユーリも、知らないこと。



 



「ボクたちは、奇跡の起こし方を知っています」


「わたしたちが力をあわせれば」




「そうです。だから、私達にも起こせるはずです」


「あたいたちなら、絶対、うまくやれる!」




「漆黒の方たちのことを、大切に思っている人がいるはずです」


「あたいたちだけじゃなく、みんなで、奇跡やろっ!」




「私にまかせてください。私なら、連れてこれます」


「アルテさん、頼みます」





 もう誰もが、ユーリの帰りを疑わない。

 なぜなら、必ず帰ってくると、そう決めたから。



 奇跡は、サイコロのように確率で決まるのではない。

 人の強い想いと、叶えるための行動で起こせるもの。



 この場の、みんなが、それを知っている。

 絶対の運命をユーリは打ち破った。


 

 それなら、自分たちだってユーリの運命を打ち破れるはず。 

 今度は自分たちが、奇跡を起こす番。





「みんなの想いは、ユーリさんにきっと、届きます」


「はい! 必ず、届けましょう」


「任せて。想いを届ける。それができる。わたしには」




 テミスがそう言い切る。

 短い、でも、とても力強い言葉。

 だから、きっと、テミスにはそれができる。




「私達で、演じましょう。ユーリさんも驚くような、最高の手品を!」


「「「「おーっ!」」」」







 *






「それでは、みなさんが、何ができるか話し合いましょう」


「そうですね。ユエさんの言うとおり、手品のタネは多い方が多いですからね」




 すっと、テミスが手をあげる。

 


「アルテ、最初わたしで、良い?」



「はい! テーちゃんの話、聞かせてくださいっ!」





「わたしは、人の形を模して造られた天秤、月から遣わされた、裁定者リファラで、えっと、……えっと」




 言葉につまるが、誰も急かすものはいない。

 一呼吸を置いて、テミスが言葉を続ける。




「わたしは、星。人じゃに。でに、ユーリが、人と言った。だから人に、なった。それが、わたし」





 支離滅裂で、あまりに荒唐無稽な話。

 それでも誰も笑わずに真剣に聞いた。




 ユーリを大切に思っているテミスが言っている言葉。

 だから、それはつまり、真実。




 テミスのあとは、ルナが、ユエが、アルテが。

 各々が、驚くような真実を語りあった。




 この場のみんなが、強力な手品のタネを持っている。

 奇跡を起こすための、強力なピースは揃った。

 あとは、それを組み合わせるだけ。

 

 


 偶然にも、確率にも運命をゆだねない。

 奇跡を起こす。

 そう、この場の全員で、決めた。





 だから奇跡は、もう偶然ではなく必然。





 想いは集まった。その想いは、――きっと。

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