第25話『銀色の髪の少女との邂逅』

 彼女は新しくこの村に加わった住人。

 王都でスカウトした女の子だ。



 身長はルナと同じくらい。

 年齢はおそらくユエと同じくらいだろう。



「とてもかわいらしい子ですね」


「だろ? 冒険者以外の客もぼちぼち増えて来たしなぁ……そろっと、看板娘が必要な頃合いだと思ったんだよ。そんで、俺がスカウトしたっちゅーわけ」



 銀色の髪に、ゴスロリ風の服をまとった少女。

 どことなく神秘的な雰囲気を感じさせる。


 彼女が着ている服は、裁縫が得意なユエが作った。

 たいした材料もないのによく作れるもんだと感心する。



「へ~。やるじゃないですか! ユーリさん、王都で美少女をゲットするとは、なかなかヤりますね!」


「まぁ、俺にかかればザッとこんなもんってもんよ。どやっ!」



「ユーリさん……、ルナちゃんみたいな分かりやすいドヤ顔になってますよ」


「マジで? 俺そんな顔してるか?」


 

 俺は、銀髪の少女に話を振ってみる。

 小さくこくりと頷いていた。



「ルナちゃん、ユエちゃんも看板娘じゃないですか?」


「ルナは看板娘ってタマじゃねーだろ。それに、ユエは男だ」



「男が看板娘でも良いじゃないですか。需要ありますよ?」


「マジか? ちょっとメモしとこ」




 銀色の髪の西洋人形のような少女。

 その肌は、透き通るほど白い。


 ユエが全身の肌が隠れる衣服を作ったのは考えあってのこと。

 同情や哀れみの視線が時に人を傷つけることを知っているのだ。


 ユエは、決してその意図は、言葉にはしないが。

 

 彼女の体のあちこちに焼きごてや、肉が抉られた傷痕が残っている。

 回復の泉での複数回の治療で彼女の表面的な傷は治った。


 だが、深く刻まれた傷痕を治すには、至らなかった。



 

「はじめまして。私の名前はアルテミス。よろしくね」


「ぁ…ぅ………テ……ミス」


「テミスちゃん、それがあなたの名前?」



 彼女はこくりと小さく頷く。

 おそらくアルテの言葉を繰り返しただけだろう。


 彼女が言葉を話すことは初めてのことだった。

 しばらくは、彼女をテミスと呼ぼう。


 必要があれば、自分から本当の名を語るだろう。



「テミスはな、ちょっとだけ、恥ずかしがり屋なんだ。まぁ、無口っ子キャラつー感じだな。嫌っているわけではないので、気にしないでいい」


「もちろん、わかっています。テミスちゃん、よろしくね」


「……ぅ……なの」



 テミスはアルテに向かって、頭を小さく下げる。

 少しずつ言葉を話そうとしているようだ。





 *




 俺がキャラバンを壊滅させた後の事を少し話したい。

 彼女、テミスの出会いを説明するために必要だからだ。


 囚われた者たちは中央ギルドで保護され、解放された。


 帰る場所がある者は、家族や恋人の元へ。

 帰る場所のない幼い子らは、王都の孤児院へ。


 ギルドで保護されていた人々はあるべきところに帰った。

 そんな中、銀色の髪の少女が、一人、取り残された。



 テミスは自身の出自を話す事ができなかった。

 言葉を話さなかったのである。

 ギルド職員は少女は喋る事ができないのだと思っていた。


 言葉での意志の疎通ができない。

 だから、労働力として期待することができない。

 彼女を引き取ろうとする者がいなかった最たる理由だ。



 ギルドに保護されているのは今や、彼女だけ。

 俺は少女に向け、言葉をかける。



「いまさ、絶賛従業員募集中なんだけど、一緒に働いてみない?」



 ……なんとも冴えない言葉の掛け方である。

 というか、微妙にナンパっぽくも聞こえなくもない。

 

 あまりにうさん臭すぎる。

 もう少しなんか気の利いた言葉を言えたらと頭をかいた。



 そんなイケてない言葉に、彼女はこくりと頷いた。



「元廃村で住み込みで働くことになるけど、それでも良いか?」



 少女は、こくりと小さく頷いた。



「それなら、決まりだ。俺はユーリ。これからよろしくな」



 言葉はなかった。



 ただ俺の瞳をみつめ、手をまっすぐ差し伸べていた。

 少女のか細い手を取り、掴み、その手を握るのであった。

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