第26話『夜ふかしてーにゃんとルナ』

 身元のない彼女を引き受ける事を決めてからは早かった。

 ここは中央ギルド、保護者申請もその場ですませられる。


 元Bランクだった実績もあり保護申請は早かった。

 ちょっとした書類手続きをした程度だ。



 彼女について分かったことはそんなに多くはない。

 中央ギルドが管理している情報には登録のない少女。


 名前、出身、年齢、親、すべてが不明。

 『分からない』ということだけが、分かった。

 それが俺がギルドで知った彼女の全てだ。



 俺は彼女を連れてこの村に帰ってきた。

 ルナもユエも、彼女をあたたかく迎えてくれた。

  

 これが俺と彼女との出会いの全てだ。

 


「おっさん、まだ起きてたかー?」


「おこちゃまは寝る時間でしゅよ。ルナは夜ふかしか?」


「ちゃう。おしっこー」



「さては、寝る前にお茶飲みすぎたんだろ?」


「まぁねー。そーだけどさぁ」



「ユーリさん。ルナさんは、ユエさんのお茶の試飲を手伝っているようですよ」


「仕事か。それなら、仕方ないな。えらいえらい」


「あたいの髪をわちゃっとさわるなーっ!」




 こう言っているがルナは俺の手首を掴み撫でさせている。

 ちょっと頭を撫でただけなのに、わちゃわちゃになってしまった。


 つーか、ルナどんだけ力が強いんだよ……。




「おっさん。えーっと……この子、夜ふかしの人なのかぁ?」


「その子の名は、テミスっだ。夜ふかしの人ではない」



「あたい、ルナ。てーにゃんよろしくっ!」


「…………っ」




 ルナは力強くテミスの手を握っている。

 こーいう時にルナに結構助けられてる面はある。


 それにしても、「てーにゃん」か。

 名前の面影が「テ」しか残ってないな。


 まぁ、「おっさん」よりマシと考えるか。

 でも、なるほど、「テー」、か。


 呼びやすい愛称ではあるか。

 さっそく使ってみるか。




「テーも、そろそろ休め。夜ふかししてると、おばけがでるぞ。それとも、ルナのイビキがうるさくて眠れないか?」



 テミスはふるふると首を振る。



「あたい、イビキなんてしないもんっ。そいうの、えんざいってんだーっ」



「冗談だ、怒るなっ! ルナは淑女だからイビキなんてしないもんなー」


「せやでーっ」



「おっさん、あたい、てーにゃんに仕事教えてもいいかぁー?」


「良いけど、ルナも今の仕事だけでも大変じゃないのか?」



「あたい、超だいじょーぶだよっ!」


「うむ、根拠は分からんが、いい返事だ。そんじゃ、ルナは教育長に任命だ」


「えーっ……試食大臣はぁ?」



「ルナは試食大臣から、試食大臣に昇格。教育長と兼任してくれ!」


「やったーっ!」




 ルナは俺の手首を掴み、自分の小さな頭を撫でさせる。

 まぁ……ルナに掴まれなくても、頭を撫でてはいたが。


 あーぁ、力任せに撫でさせるから……髪がくしゃくしゃだ。


 アルテが、胸元からクシを取り、ルナの髪をとかしている。

 年の離れた姉妹みたいで微笑ましくはある。




「そういうわけで、テーはしばらくはルナと一緒に行動して欲しい。構わないか?」



 小さくこくりと、うなずく。



「ルナと一緒に村で過ごして、学んでくれ。ゆっくりで構わない」



 少し深めに頷いている。

 分かったということなのだろう。




 この村にいつの間にか人が集まってきている。

 ……なにかがあった時のことは考えていはいる。


 もちろん、は起こらない。

 まぁ、掛け捨ての生命保険みたいなもんだ。


 俺に何かがあれば彼女たちはギルドマスターが保護する。

 あの男は堅物だが、約束や契約ごとは、絶対に守る。



 人生は長い。



 ゆっくり学んでいけば良い。焦る必要はない。

 いっぱい挑戦して、いっぱい失敗して、それでいい。 


 失敗の帳尻り合わせは大人にまかせておけばいい。  

 今は、楽しい想い出をたくさん作ればいい。

 それができれば、花丸100点満点だ。


 ふと想い出し、あたたかな気持ちになる、そんな。

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