第12話『作戦会議と宴』

 ユエが痛いと言っていたのは、足ツボマッサージのだった。

 確かにウソはなかった。

 シビレを感じるほど痛かった。

 だが、めちゃめちゃ気持ちよかった。


 ユエは、どうやら指圧の心得があるようだ。

 力が強いせいかかなり本格的な指圧だった。



 マッサージ後はコリがとれて体が軽くなった。

 変にビビっていた俺、恥ずかしい。


 ユエは骨格からして美少女なのだ。

 下半身さえみなければマジで分からなくなる。



 ……だから、脳がバグりそうになるんだよな。

 いや、これは完全に俺が悪い。反省だ。




「えー。ごほん。本日は俺たちのこの村に初めてのお客さまがいらっしゃったことを祝しまして、えーっ、ささやかながら、宴の場を用意させていただきました。王都中央ギルドから来ていていただいたアルテは俺とは昔からの……」


「いみわかんないことゆーなっ!」



 

 別に、意味分からない事は言ってないけどな?

 ルナにピシャリと話を打ち切られてしまった。




「ルナさん、駄目ですよ! これからユーリさんの感動的なスピーチがはじまるんです。聞き漏らさないように、傾聴しましょう。目をつぶって集中して聞くべきです!!」


「仕方ないね。うん。あたいも、おっさんの世紀の大演説楽しみにしてるからっ! 続けて!」





 おいっ……ユエ。ハードルあげんな。


 アルテも傾聴する必要ないからな?


 ルナ。おまえ絶対に期待してないだろ?

 そしてお前は、リンゴ食いすぎだ。



 俺、ありきたりのことしか喋らんからな?

 意外性とか期待すんなよ?



 そんな尊敬と期待の眼差しで見られたら、何も言えねぇ。

 これは、……ルナの話に乗っかって逃げるか。




「まっ、ルナも腹減ってるみたいだ。つもる話はメシくいながらで。それじゃ。かんぱーい!」




「「「かんぱーい」」」




 ふぅ……、ルナのおかげで逃げ切れた。

 スピーチの練習とかしとこ。




「アルテ、初温泉どうだった?」


「とてもよかったです。全身の疲れが取れました」



「そうか、そりゃなによりだ!」


「冒険者だけではもったいないです。冒険者以外のお客さんも視野にいれてみたらどうでしょう?」


「ボクも、アルテさんの意見に賛成です。より多くの人に、この村のことを知ってほしいと思います!」




 ユエもやる気出しているみたいだな。

 なんだろう。なんか嬉しいな。




「そうだな。たしかに、ゆくゆくは冒険者以外にも来てもらえる村にしたい」


「はい! ボクもがんばります!」




「あとは、お客さまを呼ぶために目玉となる特産品みたいなのがありゃー良いんだがなぁ」


「おっさん、この村のりんご超PRしよっ。ぜったい、成功する! あたいが保証する」


(ルナがどうやって保証するんだ?)


「おけ。確かにうまいし取り放題だもんな。なんか宣伝方法考えておくわ」





「ルナちゃん、りんごは、ここの辺りではよく採れるの?」


「うん。そこらの木に、ちょーちょーいっぱぁー、なってるよ。たべほーだい」


「……なるほど。これは、もしかすると……もしかするかもしれませんよ、ユーリさん」



「あい。おねーさんに、あたいのりんごあげるね」


「では、いただきますね。もぐもぐ……なるほど、これは甘くて、おいしいですね」





「そうですか?」


「はい。酸味と甘味がほどよい感じです。これは、この村の特産品としていけるかもしれません」


「マジっすか? あー。ルナ、すまんな。今回は俺が間違ったみたいだ。りんご、良いわ」





「わかればよいのだ。わっはっは!」


「はい。たとえば、りんごを使ったお菓子とか売り出してみても良いかもしれませんね。とはいっても、お菓子を作るのも簡単ではありませんが」




「お菓子なら、ボクが作れます。趣味で作っていたのですが、大勢の人にたべてもらうような機会はなかったので挑戦してみたいです。ユーリさんいいですか?」


「おう、もちろんだ。この村はお前たちの村でもある。やりたいことがあるなら、なんでもやっていいぞ。挑戦の上での失敗は、大歓迎だ。ドンドン失敗しろ」




「はい! さっそく、りんごを使ったお菓子のレシピを考えます!」


「ユエっちの、お菓子のししょくは、あたいにまかせろっー!」




「ルナさん、ボクはガンガン作りますので協力お願いします!」


「まかせろー!」





 おお、いい感じだ。

 みんなの魂に火が付いたみたいだ。


 みんなはやりたいことを好きにやればいい。

 地味な仕事は俺に任せとけ。


 そこら辺の仕事はわりと得意だからな。





「はー。それにしても空気がおいしい気がします。それに、静かですね」


「ははっ、ここらは何もないからな」


「そうですね。でも、何もないというのも魅力だと思いますよ」




「そうですかね?」


「はい。王都には本当に何でもあります。ですが、この村にあるような静けさはありません。これは、大きなアピールポイントになるはずです」


「おうとはねー。人、めちゃ、おおいかんねーっ」




「ボクは集落の育ちということもありますが、あまり人が多いところは少し苦手です。王都に暮らしている人には、集落や村の出身の方も多いと聞きます。そういった人たちがくつろげる場所というのは面白いかもしれませんね」


「なるほど……。確かにそれはあるかもな。王都は楽しいけど、移り変わりが早い。疲れる人とかも居そうだよな。ありがとう、いいアイディアだ」


「いえいえ、ボクはたた思いつきを言っているだけですので」




 俺は手元の羊皮紙に今後の活動方針をまとめていた。

 酔って忘れないようにだ。




「ここらで今後の村の発展させていく方針を共有したい。メシを食いながらでもいいから聞いてくれ」


「ユーリさん。ぜひ、お聞かせください」


「ニク、りんご、いっしょにたべてもうまー」


「はい、ボクは完璧に傾聴の準備ができています」




「まず、温泉に混浴を追加する。異議があったら言ってくれ」


「「異議なし!」」「もきゅもきゅ」




「次に、この村の特産品はりんごに決定だ。いいか?」


「「異議なし!」」「ごきゅごきゅ」




「そして、俺たちの村の特産品のりんごのお菓子の開発はユエが担当する。そして、ユエのお菓子の試食大臣にルナを任命する。異議はあるか?」


「「異議なし!」」「しゃくしゃく」





(ルナ。おまえは自由だな。うん。羨ましいぞ、俺は)





「堅苦しい話は終わりだ! さー! みんなドンドン飲んで食え!」





「「「おー!!!」」」

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