第89話『第三階層:消滅』

 『黄金道十二宮アンヘルゾディアック』発動。

 『救世主福音書ニューゲームプラス』発動。







 ――シン、復活。






「……ンだぁ。テメェ、授業中に居眠りとはナメてンのかァ? アァンッ!?」


「キミが……暴力をふるって僕を殺したんじゃないかッ! ッ……人殺しッ!」







「違ぇナァ? 暴力ジャねェッ! 体罰の授業だ。テメェも愛を感じたロッ?」


「……体罰とかッ!! 人として最低の人間のやる事だッ!!」






「愛がなければ、視えネェ」


「ふえぇ?」


「ウルセェッ! 黙って愛を感じヤガレッ!!」




 シャドウはシンにローキックをを放つ。

 ムチのようにしなる横蹴り。

 シンは地面にブザマに倒れる。






「俺の拳に愛が視えねぇのは、テメェに愛がねぇからだッ! 俺がテメェの体に愛を叩き込んでやんよッ! 俺の拳は暴力じゃネェ、――愛の鉄拳だッ!!!」






 シンは両手で後頭部をかばい背面を向ける。


 背面は痛覚が正面より少ない。

 正面から殴打されるより臓器へのダメージも少ない。

 頭部と首を守ればそれなりに有効な防御手段。




 自衛のための正しい方法だ。

 …………常識の範囲の話なら。






「テメェッ、俺の技、パクリやがったから、俺もテメェの技を真似てヤンヨッ!」


「僕の……セイクリッド・ミラクル・ソードを真似る事なんて不可能だッ!!」





「テメェは腐ったゴミ以下のちみっちぇえ、コソ泥野郎だッ! テメェに技は見せネェ! 剣も使はネェ。俺の体罰で徹底的に教育的指導を施してヤンヨッ!!!」


「――そんな非人道的な行いが許されるはずがないッ!!」





「ウルセェッ! 漆黒ッ! 撲殺ッ! セイクリッド・ミラクル・パンチッ!!」





 シャドウはシンをメチャクチャに殴りまくる。

 リズミカルに太鼓を叩くように殴る。




 セイクリッド要素もない。

 ミラクル要素もない。

 単なる拳による殴打。



 そもそも真似る気が1ミリもない。

 シンの剣技。セイクリッド・ミラクル・ソード。

 その技に対するリスペクトは――ゼロ。



 単なる徹底的なタコ殴り。







「テメェにも愛が伝わったかッ?! アァンッ!?」


「痛い……ッ!! ヤメろ、マジ死ぬ……もう終わりにしてくれッ!!!」


「ウルセェッ! 体罰継続無限コンテニューだッ! もう一回殴れるドンッ!!!」







 シンも何もしていない訳ではない。



 防御力を100倍に強化している。

 ありとあらゆる強化付与を施している。



 シンの体は伝説の鋼ヒヒイロカネより、硬い。

 …………まぁ、何の気休めにもならないけど。



 シャドウはメチャクチャに拳を叩きつける。

 殴った部位の皮膚が破れ、血も溢れる。


 





「テメェに愛情ラブ注入だッ! オラッ! 愛を感じやがれッ!!」


「痛いッ!!!! 痛すぎるッ!!!! こんなの……辛すぎるッ!!」






 過去にシンはこのような行いを繰り返してきた。

 だから文句を言う筋合いはないのだ。






「背中を……殴るのはヤメてくれ……皮膚が破れて……痛すぎるッ」


「背中の傷は剣士の恥じって言うんだってナァ……仕方ねぇ、背中だけジャ、バランスが悪いから前も整形してやんよッ!」






 シャドウはシンを転がし馬乗りになる。

 シンはこれから襲う痛みに怯え震えている。






「……やめろぉ……ッせめて、剣でひと思いに殺っでぐれぇッッッ!!!」


「注文の多いウルセェ野郎だぜッ。そのツラ、ボコボコに整形してやンヨッ」






 シャドウは体が燃え盛っている。

 とっくに身体限界はきている。


 今も意識を保っている理由は気合。

 気合以外の理由はない。






「……その手の色なんだよ……黒い……ソレに……おまえ体から火が出てるぞ?!」


「アン?! 熱い男はこうやって燃えるモンだろがヨッ!!」





 シャドウは拳を硬化させている。

 木刀と同じ要領で強化しているのだ。


 シンの聖剣と魔剣を砕いたあの木刀と同じ材質。

 強力な防御魔法でも防ぐのは不可能。




 体が燃えているのは百人組手の影響。

 ……身体限界を越え、体が燃え上がっている。


 脳も炎の熱で湯立っているはず。

 身体の損傷で言えばシンに負けず劣らず酷い。 






「俺が燃えている理由がテメェに分かるかッ!!!」


「ふえぇ……僕には、わからない……です」


「俺のハートが燃えてッからにキマってんだろぉがッ!! テメェをブッ殺せって魂も体も燃え盛るほど怒ってンだよッ!! 見たかッコレが魂の炎だッッ!!!!」






 …………一部訂正しよう。

 シャドウが燃えている理由。

 それは体と魂が怒りに燃えているから。

 猛将100人組手は関係がなかった。

 ……………………たぶん。







万物創造エディタモード……不可視の城壁クリスタル・ウオールッ!!!」





 

 壊れないという概念が付与された無色の壁。

 一枚一枚が城壁と同じ堅牢さを誇る。

 シンが誰かからパクった最強の防御壁。



 厚さも重みもない更に透明。

 所有者の前に展開され自動的に守る。




 その壁を無視してシャドウは殴りつける。

 不可視の城壁クリスタル・ウオール割れて砕けた。

 ……まるで飴細工のようにバリバリと。





「オラァ、こんなモンかッ?!」


不可視の城壁クリスタル・ウオール! 不可視の城壁クリスタル・ウオール! 不可視の城壁クリスタル・ウオール! ひいぃ……っ!!!」





 シンは泣きながら不可視の城壁クリスタル・ウオールを展開。

 まるで子供の『バリア連呼』と同じ光景。


 もはや不可視の城壁クリスタル・ウオールはマジナイ程度の効果。

 展開した瞬間に目の前で拳に砕かれる。




 壁が透明なのも今はデメリットでしかない。

 燃え盛る恐ろしい悪魔の形相が見えてしまう。

 迫りくる凶悪な漆黒の体罰パンチが見えてしまう。




 無限に続くかと思われた攻防。

 シンがタイミングを間違って顔面に一撃をもらう。








「キミの愛……見えたッ! 伝わったッ! だからッ僕を許してッ!!!」


「頭イカれてンのかァッ?! こりゃタダの暴力ッ! 愛なんてネェッ!」


「キミが言ったんだろッ! ……ッ……理不尽だァあああ……ッ!!!」








 シャドウの全身が燃え盛っている。

 生きながら炎に焼かれたら熱いに決まっている。



 だが、そんな様子をシャドウは微塵も出さない。

 ただただ悪魔のように笑っている。



 延々とシンをメチャクチャに殴り続ける。







「熱いぃ……痛いぃ……もう……ヤメてくれぇ……」


「ウルセェ口だなッ」





 シャドウの燃える拳が口内を蹂躙する。

 全ての歯はへし折られた。






「カカッ! 整形成功ッ! テメェの顔面、超前衛的アバンギャルドダナァッ!」






 シャドウは徹底的に馬乗りの状態で殴り続ける。

 あえて頭部や臓器を避けて殴り続ける。



 シンは顔をかばおうとして両手を顔の前に上げる。

 シャドウはその手に、手をあわせる。




 ――――手が潰れて燃えた。

 手の骨が砕け手の甲から突き出ている。


 シャドウの手の平にも骨が刺さって痛いはず。

 ……いや、笑っている。




 シャドウの顔は燃えている。 

 ……表情も分からないはず。




 もうシャドウにはシンが見えていないはず。

 なぜなら……シャドウの顔は燃えるドクロ。





 ……まるで地獄から這い出てきた悪魔。





 全身は燃え盛り、顔の肉は溶け落ちている。

 燃えるドクロの眼球のないそのアナ。

 笑いながらシンを見つめる。



 ……本当は悲痛な場面のはず。

 だけどシャドウは盛大に笑っている。

 泣き言も、悲鳴も、何もない。



 ただひたすらに殴り続ける。 

 ……笑いながら。







《――シンの敗北を検知。超神展開デウスエクスマキナ起動》








 『超神展開デウスエクスマキナ』が自動発動。

 シャドウによる『黄金道十二宮アンヘルゾディアック

 全壊の未来をスキルが事前に察知。



 超神展開デウスエクスマキナは、シンに逆転の可能性なしと判断。

 スキルが勝利を諦めた。



 辻褄合わせのために自動起動。

 このスキルはシンと最も相性の良いスキル。




 『超神展開デウスエクスマキナ

 最も危険なスキル。




 敗北の未来を反転させ勝利に変える。

 どんな反則やインチキを使ってでも。

 能力者に雑に勝利をもたらす。

 脈絡もなく唐突に力を与える。


 


 ご都合主義どころではない。 

 勝利のために設定も前提も変える。

 ちゃぶ台返しも平気で行う雑なスキル。

 






《――シン、簒奪之王スニッチャーを。敵の隠されたスキルを奪うのです》







 常時発動型。相手のスキルを盗み見る体質。

 そんな目をシンは持っている。



 技をパクリ、武器を盗み、スキルを覗き、盗む。

 まるでシンの性格を体現したような能力の数々。



 その目でも見えないシャドウの隠しスキル。

 ソレを『超神展開デウスエクスマキナ』は看破した。






「喰らえ! 簒奪之王スニッチャー キミの隠しスキル――僕のモンだッ!!」


「あーあ。マジでオレ、知ぃらネッ」







 ********************

 ジミーの心音停止を確認

 おめでとうございます 


 隠しスキルの特定と摘出に成功

 簒奪之王スニッチャー発動条件クリア


 世也阜樹ケ縺ョ讓種ケ糶フ繝輔繝ュ卜繝�の略奪しました

 ********************









 ―――――閃光。轟音。爆震。










 第3階層は永劫破損領域グラウンド・ゼロと化した。

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