第93話『最終階層:狂闘』

「最終階層が地獄とは。随分と皮肉が効いていて粋だねぇ」


『ユーリの内に秘めた怒り。――その心を再現した空間です』





「――――なるほど。そうだな。俺はアイツが許せない」


『わたしも同じです。わたしもアレに強い怒りを感じています』





「ムー。おまえを巻き込むことになってすまなかった。……ありがとう」


『お礼いりませんよ。世界と人を守る。それは、わたしの悲願でもあるのです』




「そっか。そりゃいいな。向いてる方向は同じだ。なら、負けるはずがないよな」


『もちろんです。それにわたしには秘策もあります』





「ほう。ムーの秘策とな?」


『いままで貯めたポイント。ココで全て使い、ユーリをサポートします』





「そりゃまた。景気よくて良いな」


『地獄に金貨もポイントも持って行けませんから。大盤振る舞いです!』


「ははっ。違いねぇな。そんじゃ、頼むぜ!」






「そうだったな。おっしゃ……俺は燃えてきたぜ!」


『……ユーリ。その拳から出てる炎は自壊式によるモノです。ただちに消火を』


「……どうりでマジで熱いと思ったぜ。……あぶね、あぶね。油断するとすぐ燃えやがるぜ。ははっ!」





『復活するシンは、いままでと比較にならない強さ。ユーリ、気を引き締めて』


「もちろんだ。おまえの前で、格好悪い姿見せられねぇもんな」










 『シン・黄金道十二宮シン・アンヘルゾディアック』発動。

 『シン・救世主福音書シン・ニューゲームプラス』発動。







 ――――シン、









「あっ……熱ッ! 僕は熱いの苦手なんだよねッ! ……また僕死んじゃったの? おいおい……マジでやばいじゃんッ。だってさぁさ……僕の命、残りしかないッ!……大ピンチじゃん?」


《えっ、3個?・・・シンの黄金道十二宮アンヘルゾディアックはついさっき完全破壊されたし・・・もしかしてシンぴっぴいままで十二宮の残数・・・・未読マン?・・・ちょっマ・・・・ウケるんですけど・・・きゃはっ!・・・シンピッピちょっち確認してみ》






「……はぁ……。どういうことだよッ!! これ!!……僕の命が2つも減ってるじゃんッ……おいおいおいおいおいおいッ!!! おいッ!!!」


《シンぴっぴ・・・ちょっおこなの?・・・激おこなの?・・・・大丈夫だって・・・だって超絶優秀な・・・マキナちゃんが・・・シンの命・・・ちゃーんと・・・一個増やしたから・・・ね?・・・とりま、問題ないじゃんっ?》








「――――おい、殺すぞ。ガキ」







 心の底が凍りつくような冷たい声。

 女子供の前で取るシンの態度。






《・・・・・自分の命の数を把握してないとか・・・ふつーにありえないんですけど?・・・シンぴっぴ・・・ちょっ・・・マ?・・・ウケる》


「……おい。ガキ。僕のスキル勝手にイジって壊したろ。ふざけてねぇで謝れ。僕はちゃぁんと死んだ数は指折って数えてたからさぁ……間違えるはずねぇんだよねぇ」


《ちょっ・・・バーカ・・・・バーカ・・・・完全にマジでイミフなんですけど?・・・・完全にアンタの数え間違い・・・・超天才のマキナが・・・計算間違えるはずないっしょ?・・・・それにこんな話してる場合じゃないし?・・・敵は目の前の男・・・マキナちゃんじゃないし?》







 最初は油断を誘うための小芝居かと思っった。

 超神展開デウスエクスマキナの方はシンと違い頭が回る。

 だから、警戒しながら見守っていた。




 どうやら雲行きが怪しい。

 シンのキレ方が尋常じゃない。



 ユーリはシンを止めに入る。






「――下らない話は後でしろ。貴様の相手は俺だ」


『二人まとめてノシたげる。わたしとユーリがアナタたちを!』














「――――少し、黙って。ね。僕、大事な話してる最中だから、さ」













《もう・・・シンピッピやめよ?・・・こんな言い合い意味ないって?・・・ね?》


「――門の前1回――マシュマロ2回――グロ2回――イカレ野郎2回――あの男に2回。奪われた命は9個。僕はね。本当はまだ3つも命があったんだ。おいガキ。キミは僕を2回も殺した。許しがたい裏切りだ。まるで、……江戸の仇を長崎で討たれた気分だよ。おいガキ。人殺し野郎。謝れ、謝れ、僕に謝れ、人殺し、クソガキ」


《アンタほんとおかしいんじゃない?・・・最初から・・・ベオっちが・・・3回アンタを殺してたし?・・・マキナちゃん・・・・・・死にかけていたアンタを救っただんだよ・・・天体の運航に干渉して・・・へびつかい座を黄道三宮に入れた・・・・だからシンが生きてるんだよ・・・・本当はアンタ死んでたの!》







「――――黙れガキ。おいおいおいおい。なんでいまここでベオウルフの名前が出てくるんだよ。ザケンな。大人、ナメてんだろ。おい……。僕は嘘を付く奴と、ナメた態度を取るガキが大嫌いなんだよ。キミのミスが僕の貴重な命を二つも奪った。どう責任取ってくれるんだ。おい。答えろよ。キミのミスが僕を殺した。キミは裏切り、僕を背中から僕を刺殺した。2回も。グサリとね……これは、オシオキが必要だね」


《・・・ふっ・・・ザケンなッ!・・・馬鹿はマキナちゃんじゃなく・・・アンタだし?・・・・アンタもうすでに12回・・・殺されてんだよ・・・ざーこざーこ・・・現実を見なよ!・・・それにアンタの敵は目の前のユーリでしょ・・・・・敵を見間違わないでっ!・・・・いつまでくだらない言い合いするつもり!!》











「――――キミたち。ガキのシツケが終わるまで。少し、待ってて。ね」












「嘘をついて、僕を殺して、スキルを壊した。はぁ。これは寛容な僕もさすがにキレた。僕はシツケのためならDVも辞さない男だ。これからシツケるから」


《敵はマキナちゃんあじゃなくてユーリ・・・それにヒトごとが・・・アンタがマキナちゃんに・・・・触れられるはず・・・・・ないじゃん・・・常考?》






 シンにも得意なことが一つある。

 弱者を痛めつけ苦しめること。

 女子供には容赦しない。

 その瞬間は条理を越えた行いも平然と行う。



 シンは何もない空間に右腕を伸ばす。

 空間に亀裂が入る。そこに腕を突っ込む。 

 その亀裂から超神展開デウスエクスマキナを引きずり出す。






《なんで・・・アンタに・・・デキるはず・・・ないのに》


「僕を殺したこと。ナメた口をきいたこと。罰を与える。オシオキの時間だ」

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