第5話 vs スワンプリザード防衛戦(前編)

「仕方ねぇ、ここは俺が」


ハロルドが無理矢理、立ち上がろうとする。


「ハロルドさん、その前にこれを」


ギョームに棄てられた奴隷に使う予定の分を除けば、正真正銘、最後のポーションを彼に渡しながらマップを確認する。


沼の向こうに大量の赤い点が発生しているが、大部分はリーナが最初にいた馬車の周辺を目指しているようだ。馬の死体もあの辺が一番多いしな。

マップを素早く動かしながら、囲まれにくい地形を探す。1匹づつしか通過できそうにないところ……


  ◇ ---------------- ◇


カールとかいうガキが、見たことのない、透き通った赤い色のポーションを渡してくる。入れものがまた非常に繊細で、どうやって作ったのかもわからねぇ。

こりゃ上物とかいうレベルじゃないぞ。後で返せっていわれても、絶対無理なレベルだ。


当の本人は虚空をにらんで何か考えているというか、しているというか……不思議なヤツだ。


蓋を開けて、貰ったポーションをのどに流し込む。

な、なんだこれは? 旨いとか不味いとかいう次元じゃない。天上の音楽がのどを滑り落ちるような、恍惚としてしまいそうな……


「うぉ!」


な、なんだこりゃ、あっという間に骨折が完全回復したぞ? いや、それだけじゃなくて、体力も魔力も完全回復しているような??


「どうしました?」


なんて冷静に聞いて来やがって、


「いや、このポーション、まさかエリクサーか?」


ありえないだろ、この効果。


「ただのポーションですよ。ただし、天界製ですけどね」

「は?」


テンカイセイ? なんの話だ? テンカイなんて名前の国は聞いたことがないぞ。

そう思った瞬間に、手に持っていた瓶が光の粒子になって消えていった。


「おお?!」


まったく驚くことばかりだ。強い運――まさかね。


「それより、この先を左に入ったところに小部屋っぽい場所があります。入り口はひとつなので、囲まれることは避けられるでしょうが問題は……」

「入り口を突破されたら逃げ道がない、てか?」


彼は肩をすくめて肯定した。

いや、それよりも問題は、のか、だと思うのだが……


まあいい。


「逃げた先に魔物がいれば、どのみち挟撃されて助かる目は無くなるしな。まあ、一匹づつならどうにかなるか。あのポーションは?」

「ギョームの残していった彼女に使ってやりたいので、先ほどのが、正真正銘最後の1本です」


「リーナ、彼女を抱えられるか?」

「はい! おまかせなのです」


この極限で他人の奴隷の心配かよ。いったいどんな育ちかたをしたら、こうなるんだ?


「人助けが趣味とは、ガキにしては上出来だ」


と、俺は笑うしかなかった。


  ◇ ---------------- ◇


俺たち4人は、「the 岩屋」って感じの場所まですばやく移動した。蜥蜴軍団は、まだほとんどこちらに気がついていなかったが、一番近いところにいた個体が、動きを止めてこちらを見ていた。


「お嬢ちゃん、武器はあるのか?」


とハロルドさんが、リーナに尋ねる。


「まかせる、です!」


と、最初の馬車で拾っておいた短剣を掲げた。


「くるぞ!」


ハロルドさんの鋭い叫びと共に、3mはありそうなワニトカゲが入り口に頭を突っ込んできた。あ、スワンプリザードだっけか。……もうワニトカゲでいいだろ。


「うりゃあ!」


かけ声一閃、ハロルドさんが、ワニトカゲのアゴを切り裂いた。

横からリーナ――どうやら目を狙っているようだ――が短剣を突き出す。

右目を貫かれ、上あごの先を二つに割られたワニトカゲは、ドリルのようにぐるぐる回って奧に入ってこようとしている。


「ふんっ!」


ハロルドが大きく剣を横に振りぬくと同時に衝撃波が発生し、ワニトカゲを吹き飛ばす。吹き飛ばされたトカゲは、尻尾をひくひくさせて息絶えた。おお、なんか凄い。


少し遅れてまたメッセージが流れた。

(ヴォルリーナのレベルが4になりました)


レベルアップした? そんなのあるんだ。いや、レベルがあるならあるか。

通知を確認すると、マップの最上部に、祝福キャラという項目ができている。プルダウンしてリーナを呼び出すと……なんだこれ?


 --------

 ヴォルリーナ (13) lv.2 -> 4 (銀狼族)

 HP:53/53 -> 234/234

 MP:46/46 -> 171/171

 

 所有者:カール=リフトハウス

 

 SP:16  《スキルリスト》

 体術   ■□□□□ □□□□□

 短剣術  ■□□□□ □□□□□

 

 カール=リフトハウスの加護

 --------


スキルリスト? を表示させると、なにやらスキルの一覧がずらっと表示された。SPスキルポイントをこれらのスキルに割り振れるってことかな?


どうやら未取得スキルの有効化には10ポイント、その後1ポイントで取得済みスキルのレベルを1上げられるらしい。短剣を使って戦闘したからなのか、体術と短剣術は最初から取得していた。

とりあえずまだまだ戦闘は続きそうだし、両方上げられるだけ上げておこう。


 --------

 SP:16 -> 0

 体術   ■■■■■ ■■■■□

 短剣術  ■■■■■ ■■■■□

 --------


「リーナ。ちょっと短剣を振ってみ。なんか違うか?」

「はいです」


そう言いながら、素振りを繰り返すリーナ。明らかに速度が違う。


「おお、なんか軽いのです。凄いのです」

「おいおい、いきなりサマになってやがんな。お嬢ちゃんって、もしかして天才か?」

「天才、なのです~♪」


驚いて目を丸くするハロルドさんと、調子に乗ってびしびし素振りを繰り返しているリーナ。ほほえましいと言えばほほえましいんだけれど……スキルとやらのレベルが、こんな簡単に上がっちゃっていいんだろうか。


まあ、二人の話を聞いている限りでは、高度なことができる素地が整うだけで、技術は技術で別途身につけなければならないようだから……いっか。


「次が来るぞ!」


ハロルドさんのかけ声に、リーナも短剣を握り直していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る