第22話 採取と討伐と黒の峡谷
ごつごつしたどこまでも続いているような岩場と、それに寄り添うように生えている草花。黒の峡谷の入り口はそんな場所だ。
北西と南東に延びているこの峡谷は、北へ行くほど乾燥し、南へ行くほど湿潤になって植生が豊かになっていくらしい。
俺たちは、峡谷の入り口でお昼を食べながら休憩していた。
「そうだ、ハロルドさんからもらった腕輪の効果を試しておくか。ノエリア」
「はい」
「この腕輪をつけてみて」
ノエリアは、スキルマスクの腕輪を左手に装備しながら
「ご主人様と、おそろいです」
なんていって、頬を染めている。リーナがうらやましそうだ。
装備された隠蔽の腕輪は、ノエリアの腕に丁度よい大きさに自動的に縮んでいく。これがマジックアイテムのフィット効果か、凄いな。
「ちょっと聖魔法と闇魔法を選択してみて」
「はい、です」
ステータスでスキルを確認してみると
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料理 ■■■■■ ■■■■■
無詠唱 ■□□□□ □□□□□
生活魔法 ■■■■■ ■■■■■
重力魔法 ■■■■■ ■■■■■
聖魔法 ■■■■■ ■■■■■ 隠蔽
闇魔法 ■■■■■ ■■■■■ 隠蔽
--------
ん、確かに隠蔽中になってるけれど、これ、隠れてると言えるのか?
(認識は、マスクされているスキルにも有効です)
へー、そういうものなのか。チョイ不安だが……まて。無詠唱なんていつ出来たんだ?
「ノエリアって魔法を無詠唱で使ってるの?」
「はい。練習中はうるさいですし、なんとなく。あ、でも魔法の名称だけは言うようにしています。分かりにくいですから」
ふーん。練習してたらゲットしたってことか。意外と普通のスキルなのかも知れないな。なんかやばそうな雰囲気もあるけれど。まあ、いまはいいか。
「他も隠せるかな?」
「やってみます」
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料理 ■■■■■ ■■■■■
無詠唱 ■□□□□ □□□□□
生活魔法 ■■■■■ ■■■■■ 隠蔽
重力魔法 ■■■■■ ■■■■■ 隠蔽
聖魔法 ■■■■■ ■■■■■ 隠蔽
闇魔法 ■■■■■ ■■■■■ 隠蔽
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「ご主人様」
「ん?」
「4つ選んだら、もう選べなくなりました」
「1つはずしてみたら、また選べるようになる?」
「んと……はい」
なるほど、スキルを4つまで隠蔽できる腕輪なのか。
「いいかい、ノエリア。これから特別な魔法が使えるようになるんだけれど、それが使えることがばれちゃったら、一緒にいられなくなるかもしれないんだ」
「え……」
凄く不安そうにな顔になり、所在なさげにたたずんでいる。
「だからそれをその腕輪の力で隠すんだよ?」
俺は、リストから空間魔法を取り出して有効にした。どうせ呪文が手に入らないから、今のところはlv.1で充分か。魔法付与も取りたいが2ポイント足りないな。
重力魔法もレアだけど、最初から使えることが記録されているだろうから隠さなくてもいいだろうし、聖魔法はばれてるし。闇……うーん。使うところを見られて、かつスキルにないとうさんくさいよなぁ……
やはり、このへんは見せておくか。
無詠唱も、結局使ってるとバレるけど……魔法名だけはつぶやくって言ってたし、一応隠しておくか。あとでハロルドさんに確認しよう。
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SP:8 + 72(used)
料理 ■■■■■ ■■■■■
無詠唱 ■□□□□ □□□□□ 隠蔽
生活魔法 ■■■■■ ■■■■■
重力魔法 ■■■■■ ■■■■■
聖魔法 ■■■■■ ■■■■■
闇魔法 ■■■■■ ■■■■■
空間魔法 ■□□□□ □□□□□ 隠蔽
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「よし、その腕輪はいつも身につけていてね」
「はい」
いや、そこで、頬を赤らめないで。ちょっと恥ずかしいから。
さーて、休憩も終えたし、早速ズルしちゃおうかな。
マップを呼び出して、白金草をサーチ。
……ありませんよ? ホントに黒の峡谷にある草なんですか、これ?
マップをぐーっと引くと、あった……けど、遠いな、これ。歩いたら2時間くらいかかりそうだ。
「あっちの方に2時間くらい行ったところにあるようだ。そこまで、魔物を倒しながら移動しよう。索敵はリーナにまかせるよ」
「おまかせなの、です!」
ついでに薬草もサーチ対象にセットしておいたが、こちらは結構あちこちに生えてる。触るだけで、根っこごと腕輪の中に取り込みまくります。
5本単位で束にするのは……ヒモ忘れた。リンドブルムの皮で括ったら、やっぱまずいよなー。仕方がない、括るのはなしで。
「ご主人様、あの先に何かが4~5匹、ゴブリンのようです」
ゴブリン、キターーーーー! 最初はやっぱりこれだよな。
「ご主人様、魔法の練習をしてもよろしいでしょうか」
そうか、実戦で利用するのは初めてだもんな。今のうちにいろいろ試しておこうか。
「いいぞ、ノエリア。じゃあいつらはお前に任せる」
「はいっ!」
ノエリアが嬉しそうに1歩前に出ると同時に、彼女の周りに、黒く細い何かが20本ほど現れた。
「シャドウランス」
とつぶやくと同時に、それが音もなく高速で発射され、1体当たりに4本づつ、ゴッという小さな音と共にたたき込まれた。
その針が触れた場所には、直径40cmくらいの穴が穿たれ、4本目が当たる頃には、ゴブリンの上半身は無くなっていた。
「凄い、です!」
リーナが感嘆の声を上げる。
……これが適性の力か。って、いや、確かに凄いんだけどさ、ちょっと威力が大きすぎない?
「それ、何本くらい出せるんだ?」
「練習したときは、144本までは可能でした。それ以上だとうまく当てられなくて」
「威力は、今のが最大?」
「いえ、ゴブリンですし、1/4くらいに抑えておきました。でもなんだかスムーズで威力も増しているように思えます」
無詠唱のスキルをゲットしちゃったからかな。
うん。世界の常識はどこいった。でも、闇って強そうだし、このくらいが普通なのかな? またハロルドさんに聞いておかないと。
「今はいいけど、他の誰かが見ているときは、8本くらいに押さえておくようにしてくれる? 一応常識的な数は聞いておくから。あ、あと、素材になるような魔物の時は、あんまり大きな穴を開けない方向で」
「はい」
その後も、採取場所までの道のりはノエリアの独壇場だった。
道を歩きながら、リーナが察知し、ノエリアがランスの威力を調節してしとめる。
最後の方は、見事に眉間だけ細く打ち抜くようになってきて、デューク○郷か、キミは。
収納しているのは、ブラックウルフやベアカーマイン、それにタイダルボアが時々混じる。そういえば黒の峡谷の向こう側は海だったっけ。
6mくらいありそうな、真っ赤なダブルヘッドサーペントが、頭をつぶされ、一瞬で沈んだ時。リーナが声を上げた。
「ひまですー」
「ノエリアが全部片付けちゃうからなー」
「ふふふっ」
こうして嬉しそうに笑っているところは、年相応の女の子みたいだな、なんて考えているうちに、採取場所に到着した。
ここからはマップに従って、白金草を採取していく。ある程度は残しておかないと、全滅したら問題だしな。30分ほどで、80本くらい手に入れたし、そろそろ帰るか。
「ご主人様、何かが20匹くらい近づいてきます!」
リーナが急いで近づき、報告してきた。
マップで確認してみると、直接遭遇するコースじゃなさそうだし、面倒だから隠れてやり過ごすか。
息を殺して隠れていると、その群れは、すぐ先を横切って行く。
ゴブリンとゴブリンシャーマン、ゴブリンメイジに、コボルドまでいるぞ? 別種族が一緒に行動するんだ?
全部で21匹の団体は、ほどなく俺たちから遠ざかっていく。風下でラッキーだったな。
しかしあいつら、いったい何処へ?
「リーナ」
「はいです」
「あの群れが、どこに向かっているのか調べてみてくれ。こちらも距離をあけてついて行くから。見つかりそうになったら逃げていい」
「いぇっさー、なのです」
すっと目の前から消えるリーナ。おお、流石体術カンスト、忍者っぽい。
レベルも相当上がってるし大丈夫だとは思うけれど、少し遅れて俺たちも後を追いかけた。
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