第123話 防具作成依頼とハロルドvsリーナと趣味の人
ぼろい平屋に見えるが、恐ろしく頑丈なドアをドンドンと叩いて、返事も待たずにドアを開け、ハロルドは声を上げていた。
「ダグ、いるかー?」
「留守だー」
「いるんじゃねーか」
「留守だと言ってるだろ」
とバリバリ頭と腹をかきながら、だらしない恰好のダグが奧から出てきた。
知らないやつが見たら、このいい加減そうな男が、この世界でも最高の鍛冶屋などとは絶対に信じられんだろうな。俺も信じられん。
「お、なんだ、嬢ちゃんも一緒かよ。それを早く言えよ」
「お前はロリコンか」
「なんだ? ロリコンて」
「何でも、小さな女の子が好きな奴のことらしいぞ」
「ふーん、だが、小さな女の子が嫌いな奴はあんまりいないんじゃねぇのか?」
「まあ、うるさくなきゃな」
「そりゃ、小さな女の子が嫌いなんじゃなくて、うるさい子供が嫌いなんだろ」
ふむ。確かにそうだ。
「それで何のようだ? 嬢ちゃんはまた、何か切ったのか?」
リーナ嬢ちゃんがダグにムラマサブレードを渡している。
「何かというと、あれだな。物理障壁の魔法陣を7枚一度に切り捨ててたぞ」
「なんだと? 切る方も切るほうだが、張る方も張る方だな。そんなやつがいたのか」
ダグはムラマサブレードを抜いて、片目で歪みを確認しながら相づちを打つ。
「実は先日ノーライフキングとやりあってな」
思わず刀から目をはなし、こちらを向いて、あきれたように言った。
「はぁ? そんなのがこの世界にいるのかよ? お前ら、一体どこで何をやってるんだ……しかしよく生きてたな」
「いや、ノーライフキングは死んでるぜ?」
「お前等のことだよ!」
おもむろに取り出したゴムのトンカチみたいな道具で、ブレードの刃を軽く叩いて、音を確認する。
「ふむ。まあ大丈夫だな。どこにも問題はねぇ。大事に使っててくれてるようで、ありがとうよ」
「大事にって、何でもかんでも切りまくってたぜ?」
「刀は使ってナンボだからな。下手な使い方さえしなきゃ、その方がいいんだよ。ほれ」
「ありがとうなの、です」
刀を受け取った嬢ちゃんがぺこりと頭を下げる。なんだよ、ダグの嬉しそうなだらしない顔は。嬢ちゃんを孫かなんかだと思ってるんじゃないだろうな。
「用はそれだけか? じゃあ俺は寝るぞ」
「まてまてまてまて。今日は防具を発注に来たんだ」
「防具だ? めんどクセェな。素材は?」
「竜鱗だ」
「なんだと?」
ダグの目が一瞬輝く。やっぱ素材で釣るに限るねぇ。
「どのくらいあるんだ?」
「そりゃ、たっぷりあるさ。lv.20オーバーのリンドブルム1匹分だからな」
「ほうほう」
「それで、俺の分と、後はそこの嬢ちゃんとうちの大将と、あとはその嬢ちゃんと一緒にいたノエリア嬢ちゃんの分を頼みたいんだ」
「ノエリアってぇと、あの綺麗な姉ちゃんか?」
「そうだ。言っとくが、メガラプトルの群れどころか、サンサのスタンピードを一蹴しちまった、おっかねぇ女だからな?」
「ふーむ。予算は?」
「ないってさ」
「なんだと?」
「あんたが好きなものを好きに作って、好きに値段をつけろってさ」
カール様も気前が良いねぇ。
「気に入った! 任せとけ!!」
「おい! 言っておくが、素材持ち込みだからな! 俺のは自腹なんだからちょっとは手加減してくれよ!」
「クックック、いざとなったらあの坊主の支払いに乗っけときゃいいんだよ。必要経費は惜しまねぇし、カネはなんとかしちまうタイプだ。大丈夫。あの坊主なら怒りゃしねぇって」
リーナ嬢ちゃんが腕組みしてコクコク頷いている。意味わかってんのか?
ダグは黒い笑顔でにやけてやがるし、うう、ダメだ……こいつがこんな顔をしたときはろくなことにならねぇ。
「嫌な予感しかしねぇよ……」
◇ ---------------- ◇
「おおう!」
「カール様?」
どうしました?と心配する顔で本日のお供のノエリアがのぞき込んでくる。
「いや、なんでもない。なんだか突然悪寒がしたんだが、もうなんともないし、誰かに噂でもされたんじゃないかな」
そう言って、俺たちはザンジバラード警備保障のドアをくぐった。
◇ ---------------- ◇
奧からメモ板を取り出してきたダグが、なにかを書きながら希望を聞いてきた。
マジかよ。コイツがメモをとるのなんか初めて見たぞ?
「それで、嬢ちゃんはどんなのがいいんだ?」
「動いても音がしない、動きやすいものがいいの、です」
と、リーナ嬢ちゃんが即答した。ははぁ、例の、ニャンジャとかいうのを意図しているわけか。
「ほう。しかしそれでは防御力が犠牲になるぞ」
「それは、防御力もあった方がいいのでしょうが、動きやすさが優先なの、です」
「ふむ。おい、ハロルド。ちょっとこの嬢ちゃんと、裏で
「はぁ? ムラマサブレードと斬り合ったら、俺の剣が
「馬鹿野郎。そんなことをしたら、お前が
「ち、しょうがねぇな」
適当な大きさの両手剣風の木剣を取り出して、2、3回振ってみる。うん、まあこれでいいか。
リーナ嬢ちゃんは、ムラマサブレードとおなじようなサイズの木剣を取り出して具合を見ていた。
一応、念を押しておくか。
「いいか、嬢ちゃん、わかってるだろうが、手加減しろよ?」
「馬鹿野郎。手加減なんかしたら動きがわからんだろうが。全力でやれ、全力で」
げぇ、何てことをいいやがる。
「ば、バカ言うな、嬢ちゃんが本気なんか出したら――」
「いき、ます!」
土を蹴った瞬間に、その場から消えるようにいなくなった。
「見えやしねぇだろうが!」
甲高い音を立てて、リーナの一撃を両手剣で受け止める。くあー、ちっこい体のくせに重てぇな、こいつ。
「見えねぇんじゃなかったのか」
ダグの野郎、戦闘中に突っ込むんじゃねぇよ!
「カンだよ、カン!」
そのまま返す刀で、斬りつけるが、反動を利用して、くるんとバク転しながらそれを躱された。
着地のときがチャンスだ! ダッシュで一気に距離を詰めて、大振りは厳禁、コンパクトに振り切るっ!
「もらった!」
と思った瞬間、俺の剣がリーナ嬢ちゃんの体をすり抜けた。ちっくしょう、残像かよ! こういうときは――
「下だろ!」
その瞬間剣が合わされた音が響き、下から来る斬撃を両手剣の根本で受け止めた、と思った瞬間上から振り下ろされた刀が、肩に軽く当てられた。
「そこまで!」
ダグのだみ声が響く。
「うひー。なんだ今の。上下の同時斬撃か? しかし剣は……」
どうみても1本だが。
「ふっふっふ。『まるで噛みつくような斬撃が狼族っぽい必殺技』だそう、です。ご主人様と一緒に考えたの、です!」
ふんすーと鼻の穴を広げながら胸をはってやがる。ま、ちと悔しいが、大したもんではある。
「ま、大体わかった。コンセプトはムラマサブレードと同じでいこうとおもう」
まて。ムラマサブレードと同じってことは……
「MPを吸い上げて防御力を増すタイプか?」
「ご明察」
「ば、ばっかやろう。趣味に走るんじゃねぇ! それで、何かの強大な一撃を止めたとするよな? それでMPが0になって気絶したら、どのみち殺されるじゃねーか!」
「そこは気合いでなんとかするんだよ」
気合いで飯が食えるかぁ!
「だいたい、音を立てずにあの動きに追従して、なおかつ急所を守るとなると、ブレストプレート系にならざるを得んだろう?」
「それにしたって、竜鱗をつなぎ合わせりゃ、音はするだろ?」
「いや、竜鱗を融合して、立体を作る技法で行く」
「なんだと? そんなことが……」
「ドワーフの秘技、なめんじゃねぇ」
すげぇ。
「俺、今始めてダグを尊敬したよ」
「……お前のは無しな」
「おいまて、いいじゃねぇか、尊敬したんだからよ!」
「ま、嬢ちゃんは心配するな。その剣が振れるならさほどの問題もないだろう。とびっきりのを作ってやるから楽しみに待ってろ」
「ありがとうなの、です」
「無視するんじゃねぇええ!」
「何かうるさいのがわめいているが、次はノエリアとか言う嬢ちゃんも連れてこい。採寸せんとな」
「はいなの、です」
おいおい、良い感じに話がまとまってるが、俺のもちゃんと作るんだろうな?
「うるさいヤツだな。あまった鱗でちゃんと作ってやるから心配するな」
ううう、心配だぜ。
「じゃあ、これ。横流しすんなよ」
「するか」
といって、俺の竜鱗の半分をおいていった。
リーナ嬢ちゃんも、預かっている袋を取り出して……なんだかすごく大きくないか?
「カール様が、他にもいろいろと入ってるけど使っていいって言ってたの、です」
「そうか、助かるぜ」
とダグが目をきらきらさせながら袋を覗いている。ああ、こうなっちゃもうだめだ。
できるだけ使えるものが上がってきますように。
おれは久々に、心の底からシールス様に祈りを捧げたのだった。
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