第124話 今後の予定と王都の事件とサンサでの換金
久しぶりの朝食ミーティングでは、先日の移民問題が議題に上っていた。
「それで、どのくらい住民が移動してきたら、領主間の問題って起こるものでしょう?」
「どのくらいと言われましても……」
ダイバにしてもダルハーンにしても、そんな問題を経験したことがない。
住民課によると、やはりダブリスからサンサ間のサテライトな村々からの移動が多いようだ。
「さすがに600人も増えてしまうと、冒険者になりにコートロゼに来た、では済まないでしょう?」
「そうですな。魔物に襲われる前の全盛期でも、そんなことはありませんでしたから」
と、ダイバ。
「600人というとバウンド南街道の途中にある、小さな規模の村なら、ヘタをすると10個分にあたりますから……」
ダルハーンも深刻そうだ。
「カンザス子爵はともかく、サイデシア子爵あたりに知られたとすると、文句を言ってこられても……いえ、むしろ文句を言ってこられなければ驚きますな」
アルトゥーロ=カンザス子爵はサンサの街周辺の領主で、ヴィットリオ=サイデシア子爵はダブリス周辺の領主らしい。
コートロゼが魔物に襲われた後、バウンド南街道を通過する商人が激減して、ダブリスは通行税を得られず大きな被害を受けたとか。
「それに、あまり簡単に受け入れてしまいますと、自領の不要な民を押しつけられて、さらにはその責まで負わされる可能性もありますから」
あ、やっぱりあるんだ、そういうの。
「それは一応対処しておきましたから」
「は? 対処ですか? 一体どんな……」
いぶかしげにダルハーンが聞いてくる。
ブローカーをぶっつぶせと裏社会の顔役に命令、もとへ、お願いしたとか、そんな話はできないよね、やっぱり。
「あー、まあ適当にいろいろですよ」
「……いろいろでございますか」
「それほど無茶なことはしていませんから」
違法っぽいことはしてるけどね。
「さようで」
「ま、まあ、その辺のことはしばらく役所に任せて様子を見るから、そのように考えておいてください」
「わかりました」
「それで、
「は?」
「ですから街を広げようと思うのですが、街の南側、
「あ、いえ、それはともかく、どうやって広げられるので?」
とダルハーンが心配そうに聞いてくる。
「予算については、この間カール様に都合していただいた4億セルスがありますし、南の復興も一息ついたところですが、規模によっては人手そのものが足らない可能性も……」
「足りる足りる。どうせ人目を忍ぶ系だろうからな」
ハロルドさんが、ソーセージっぽいものにフォークを突き刺しながら、そう突っ込む。
ヴァランセの2号店に出そうかと試作していたブーダン・ブランだ。それはともかく、もうちょっとオブラートに包んで下さいよ。
「シールス様に真摯にお祈りを捧げてお願いすれば、きっと聞き届けてくれますよ。なにしろ奇跡の街だそうですから」
住民課の資料によると、移民を希望してきた人たちは、一様にコートロゼを奇跡の街だと言っていたらしい。
「さ、さようで」
あきらめた顔で額に汗をかきながらダルハーンが頷く。
「そうですな。ノビシロがあるのは西側でしょうか」
とダイバ。
「街の商業施設が、南街区に新設されたものを除けば、北側のギルド周辺に集中していますから、居住区をつくるなら南の果てに広げるよりも西の方がいまのところは便利でしょう」
確かに。街を作り始めたときは、南に広げようと思っていたんだけど、
中央公園的な施設にすればそれでもいいんだが、今となっては秘密基地だからな。
周辺は研究系の施設にして、街並み自体は西に広げるのが確かに良いかもしれん。西の山脈の麓までは相当あるからさすがに足りなくなることは無いだろうし、塩気の問題も水道を引いていけば問題にならないだろう。作物を育てるわけじゃないからな。
「わかりました。じゃ、そうしましょう」
「よろしくお願いします」
◇ ---------------- ◇
「それで、今日は?」
朝食ミーティング後、ハロルドさんが聞いてくる。
「明日にはエレストラさんたちが帰ってくる予定だそうだから、とりあえずサンサに換金にいこうと思います」
「了解。ドア……はないんだっけかな」
ノエリアが双方向で20個作ったリンクドアは、現在、次の9カ所に2個ずつ設置されていて、2つは俺が腕輪の中に所有していた。
1拠点に2個利用されているのは冗長性を確保するためのセーフティだ。どちらかがダメになっても、もう片方を利用して修理というか魔力をチャージするためのものだ。
・ハイランディア(ハイランディア辺境伯の領都)
・バウンド(境界の街)
・ドルム(リフトハウス伯爵領の領都)
・ガルド(迷宮都市)
・ディアス(赤の峰と白の峰に挟まれたマディアス峠の王都側出口
・リラトロップ(首都)
・聖都シールサ
・インバーク
・アイスサイト
最初は他の街にもどんどん増やそうと考えていたのだが、いかんせん、ノエリアの命を削る量が多いので、なるべく最初に作ってしまった10拠点分のセットでまかなおうとしてこうなっている。
ノエリアは10ポイントくらい平気ですよ、なんて言うけれど、どこかで歯止めは必要だ。どうしても必要になるまでは封印している。
「じゃクロの準備をしてくるぜ」
「お願いします」
◇ ---------------- ◇
「街灯?」
「はい。ウルグ様」
王太子の朝食の席で、サイナスが聞きつけてきた街の話を報告していた。それによると、最近夜の早い時間に街灯が消え、真っ暗になる場所があるらしい。
深夜だというのならまだしも、余りに早い時間に街灯が消えてしまうと、その地域の歓楽系の店にとっては死活問題だし、治安も乱れかねない。
「同じ地区だというのなら、その地区の
「それが……」
都市の管理官も最初はそう考えて、その
そこで、暫定的に他の
「一向に問題は改善しなかったというわけか」
「御意。管理官の下にはその地区の住民から多数の苦情があがってきているようです」
ふーん。こいつはまた、アルミス=ウグラデルの出番かね?
一人くらい助手が欲しいな。付き合ってくれそうなのは……
「ウルグ様」
「なんだ?」
「やめろとは申しませんが、御自重を」
「……わかっている」
◇ ---------------- ◇
サンサのギルド職員のサンラータは、昼交代での食事を終えて、ギルドに戻ろうとしていたところだった。
いつもの定食屋の席が一杯だったため、始めて入ったメシ屋は、冒険者御用達なのか質より量といった
「あーあ、ついてねぇなー」
サンラータはぼやきながら歩き、ギルドまで後少しというところで、息を切らせた後輩に呼び止められた。
「サンラータさん!」
「ん? ミルホフか? どうしたんだ?」
査定部のミルホフが、倉庫の方から、駆けてきていた。
「いやあ、いいところで! ギルドの方には話を通してありますから、こっちを手伝って下さいよ!」
手伝いって……半期前のスタンピードの時じゃあるまいし、そんな想定外の人員が必要な事態があるのかよ?
あれで激減したこの辺りの魔物もやっと戻ってきはじめたところだし、ここ1ヶ月は、暇だー暇だー、言ってたんじゃなかったのか?
「まあ、いいですから、いいですから」
「なんだよ……まあ、いいけどさ」
嫌な予感を感じながらも、ミルホフに連れられてギルドの倉庫の扉をくぐると、そこには魔物が山と積み上げられていた。
「なんだこりゃ?! またスタンピードでも起こったのか?!」
ざっと見ただけでも、ダークウルフを中心に数百はいるんじゃないだろうか。
いくら魔物が戻って来はじめたと言っても、1日に数十匹の魔物が持ち込まれれば多い方だった昨今、これは異常だ。
魔物狩りの軍隊でもやってきたってのか?
「さっき、ひとりの冒険者がやってきて置いていったんですよ。量があるからと倉庫に案内したら、いつの間にかこんなことに」
「はあ? ひとりだ? しかもさっき??」
何をどうやったら、こんなに魔物を討伐できるって言うんだ? それよりなにより、こんな量をどうやったら持ち運べるってんだ??
「何十人もポーターを連れてたのか?」
「いえ、倉庫に案内した後は、別の作業をしてましたので……でも、そんなに大勢出入りしている感じじゃなかったけどなぁ……」
どうやって運んだのかはしらないが、ものは目の前に積み上がっている。とにかく仕事だ。
「それで、これ、いつまでにやれば良いんだ?」
「それが……今日中ってことなんですよ」
「な、なんだと~?! もう昼過ぎてるんだぞ。あと数時間でこれを全部査定するのか?!!」
「だから、助っ人をかき集めてる所なんですってば。もっと引っ張ってきますから、とりあえず始めておいて下さい!」
そう言うやいなや、ミルホフはギルドの方へ駆けだしていった。
「って、俺が一人で始めるのかよ……」
積み上げられた魔物の山を見ながら、深いため息をつくと、仕方なくメモ板を手に取り、査定を開始した。
◇ ---------------- ◇
「久しぶりにサンサに来ましたけど、すっかり復興しているみたいですね」
「ああ、幸い街自体はあまり壊されたりしなかったしな。しかし見た目はともかく人的被害は甚大だったらしいぞ。特にサンサ騎士団はほぼゼロからの再出発で、未だにボロボロだってよ」
「でしょうね」
強いリーダーシップを持っていた、デルフォード=サンサを始めとするサンサ騎士団のほぼ全員が討ち死にしたんだもんなぁ。そりゃ被害は甚大だろう。むしろ無くなっていないのが不思議なくらいだ。
「もっとも、しばらくはスタンピードの影響で、まわりの魔物も根絶やしになっていて、騎士団が必要になるような案件がほとんど無かったってのは不幸中の幸いだったよな」
ギルド前から馬車を人目に付かない位置まで移動させながら、まわりを見回すと、統治に関しての被害は甚大だとはいえ、街を行く冒険者達や商売人達は、すっかり元に戻っているように見える。
サンサは、コートロゼはまだ無理だがそれなりに稼げる冒険者達のよりどころだ。スタンピードの終結や、その時の魔物素材の輸送などで、商隊の行き来も活発になったらしい。コートロゼの復興もそれに少しは寄与しているだろう。
「査定が終わるまでヒマだな。馬車の中でハイムって手もあるが、せっかくだから街を見て回るか?」
前回来たときは、観光どころじゃなかったしな、とハロルドさんが笑うと、馬車の中でビクンと体を硬くする雰囲気が伝わってきた。
「リーナ、どうした?」
「ご、ご主人様。あ、あの……」
「?」
「……ま、窓に、窓にの人はいません、です?」
ああ! サンサの橋を渡る頃から、妙にリーナが大人しいと思ったらアレか。
「こずみっくは嫌なの、ですー」
うるうるしながら訴えている。
ダンフォースか。この街で起こった
クリスティーンもそれなりに真剣に探しているはずだが、見つかったという話は聞いていない。広いとは言えサンサはひとつの街に過ぎない。もしここにいるならとっくに見つかっていただろう。
「大丈夫。あの人は、何処かへ行ってしまったらしいよ」
「はふー」
それを聞いてやっと安心したのか、ふにゃーっと柔らかくなって席の背に体を預けていた。
「そうですね。時間はあるし、ちょっとゆっくり見て回りますか。名物とかあるんですか?」
「……実は、何もねぇ」
「ええ?」
「何しろ一般人が観光なんかしにくるような場所じゃないからなぁ。旅行者はほぼ全員が商人か冒険者だろ? 屋台は沢山あるだろうが名物みたいなものは……作るやつがいなかったんじゃねぇの?」
うーん、観光客が先か名物が先かみたいな。鶏・卵状態なわけか。
「屋台があれば、屋台巡りができるの、です!」
後ろからリーナが顔を出す。コズミックな人がいないと聞いて元気になったようだ。ちらりと見るとノエリアがコクコク頷いていた。君たち、屋台好きだよね。いや、俺も好きだけどさ。
「ははは。じゃあ、さっさと馬車を始末して、サンサの屋台の全制覇を目指すか」
「いや、始末って……」
ハロルドさんの言葉に、賛成とばかりクロがいなないた。
◇ ---------------- ◇
その後、町中の屋台をまわって遊んだ俺たちが、約束の時間にギルドに出向くと、査定をしていた男――ミルホフさんとか言ったっけ――が、支払の準備をしているところだった。
それを見ながら、サンサについての雑談をかわしているうちに、話はなんとなく2ヶ月前の話になっていった。
ダンフォースの話が出ると、
「あれ? あなたもあの人のお知り合いですか?」
とミルホフさん。んん? もしかしてミルホフさんってダンフォースのことを知っているのか?
「ええ。私たちが盗賊に襲われた彼をこの街までお送りしたのですが……」
「へえ、そうでしたか。ちょうど私がお世話を承っていたのですが、あの日、スタンピードを退けた後、緊急討伐以来の後処理でものすごく忙しくしていたとき、いつの間にか出て行かれてたんですよね。そのときは、元気になったから出て行ったのかなと。犯罪者でもありませんでしたし、誰も気にしなかったと言うのが本当のところです」
へぇ、この人が面倒を見ていたのか。
「しかし、あの人は大人気ですね」
「え?」
ミルホフさんの話によると、あの後、ひとりの男がダンフォースのことを尋ねてきたらしい。
「どんな人でした?」
「どんな……うーん、なんというか普通? 顔もよく思い出せないんですが、なんというか、特徴のない人でしたね」
彼は、雰囲気はなんだか奇妙な感じだったんですがと付け加えた。これはたぶん、あれだな。
「それから、しばらくして、プラチナブロンドで短い髪の綺麗な方も尋ねていらっしゃいましたね」
ははぁ、これはクリスティーンかな?
「話を聞くと、真偽官だと言うじゃありませんか。もう焦っちゃって」
と笑いながら男が話した。やはりクリスティーンか。ちゃんと探してたんだな。
「真偽官まで探しているとなると、やっぱり重要人物だったんですかね?」
「さあ、教会の助祭様だとは聞いていますが、それ以上のことは」
「そうですか。あ、話が脱線してしまいましたね。こちらが報酬と明細になります」
「ありがとうございます」
明細によると、ブラックウルフx43、バトルボアx8、コボルドx12、オークx8、オルトロスx1、ダークウルフx187、ダークグリズリーx72、トロルx4の討伐分が2,398,200セルス、それぞれの素材が、スタンピード時の大量入荷でいつもの0.7倍くらいになっているとは言え2,504,880セルスだ。
合計4,903,080セルスってことは、大体金貨500枚くらいか。
エレストラさんの分を半分引いて、いつも通りに残りの1/4をハロルドさんに渡しておいた。
さあ、帰ろう!
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