第64話 空間魔法のさらなる秘密
「うー。うらやましい、です。リーナも乗りたかった、です」
クロが空を飛んだ話をしたら、リーナがうらやましそうにぷーっと頬を膨らませた。
「リーナは今日はお仕事だったんだろ? どうだった?」
「はいです。とても効果的な訓練方法がわかってきたの、です」
と尻尾を振ってニコニコしている。なんだろう、そこはかとない不安が……
俺たち3人は、ハイムの寝室に備え付けてある、クラシカルなデザインの椅子が4つ付いた小さなラウンドテーブルを前に腰掛けて、アイテムボックスの作成を行おうとしていた。
突然ハロルドさんが入ってきても、ここならすぐには見えないし、世界で一番秘密が守られる場所だ。
カリフさんによると、超高額になるアイテムボックスの王国全体の需要は、軍を除けば100-200個くらいではないかとのこと。
もっと低額なものがあれば、裕福な商人や貴族の旅行用や、高レベル冒険者向けに数千個はあるでしょうと言っていたけれど、そもそもこんな需要は満たせないし、売るにしても別ブランドがいいよな。
アイテムボックス注文票によると、0020以降はサンプルストーンno.8(MP700前後)で遅延1/60くらいが希望されている。これが主力ラインになるはずなので、最初にこれから付与してみることにした。
「じゃあ、ノエリアお願い。大体 no.8と同じくらいで、1/60だそうだよ」
「はい、わかりました」
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HP:11,484/11,484
MP:58,127/58,127
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腕輪を手のひらの上に載せ、静かに
「アイテムボックス」
とノエリアがつぶやく。
腕輪は微かに輝いて、すぐ元に戻った。
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HP:11,716/11,484
MP:57,359/58,127
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消費MPが768か。ちょっと大きいか。
すぐにリーナがヒールをかけ、俺がMP共有で元に戻した。
「ノエリア、次はもうちょっとだけ押さえて」
「はい」
同じようにノエリアが呪文をつぶやく。
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HP:11,763/11,483
MP:57,407/58,127
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消費MPは720か。うん、このくらいで大丈夫だな。
「大体そのくらいで大丈夫だね。あと8個、よろしくね」
「わかりました」
一通り0020台の作業が終わり、回復させたところでノエリアのステータスの違和感に気がついた。
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HP:11,479/11,479
MP:58,127/58,127
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あれ? HPの値が変わってないか?
おれは急いでメモをとって、0010シリーズを用意した。
「今よりちょっと強めらしい、no.6と同じくらいでお願い。遅延は 1/180くらいだって」
わかりましたとうなずいて、ノエリアが呪文をつぶやく。0020シリーズよりも腕輪は少し長めに輝いた。
俺は早速彼女のステータスを確認した。
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HP:10,537/11,478
MP:57,186/58,127
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消費は941。大体このくらいでいいが、最大HPが1削れてる!
しかし先日の石の時は、まったくそんな印象を受けなかったし、0020台の時も毎回1削れてたらさすがに気がつくだろう。
もしかしたら時間遅延が原因なのか? 試しに 0000 を取り出して no.2くらい、1/600を指示してみた。
ノエリアは、真剣な顔をしている俺を見て、不思議な顔でそれを受け取り、言われたことにうなずくと、呪文をつぶやいた。
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HP: 7,237/11,475
MP:53,889/58,127
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消費魔力は4238。だが……最大HPが3削れている。
なんてことだ、時間遅延が大きければ大きいほど、命を削る大きさが増えていくのか?
てか、1/7200って、どんだけ削ったんだよ……
普通の人のHPなんて、レベル70を越えても1000がせいぜいだ。HPを10削る作業を100回やったら、それで終了。
しかも空間魔法は生まれつき持っていなければ使えないとハロルドさんが言ってた。レベル1なら覚えたてでも使えるし、つまり、ほとんどの人はレベル1――HPは10くらいだ――で使ってみて、死んでるんじゃ……空間魔法使いがいない理由は、もしかしてこれ?
「ノエリア、もうやめよう」
「どうされたのですか?」
今気がついたことをノエリアに説明しながら、俺はサヴィールが言ったことを思い出していた。
ライアルがサイオンを召喚して、その際、教会の4聖人が命を落としたとかなんとか。それってもしかして、大規模で高レベルの空間魔法だったのでは? 4人はライアルの身代わりだったのでは?
アイテムボックスは、レベル1の空間魔法だ。もしかして、リンクはさらに……
「カール様」
「え?」
「お優しい方。奴隷は利益のために使いつぶすものですよ」
ノエリアはすっと立ち上がって、俺の方に向き直り、膝を突いて目線の高さを合わせてきた。
「カール様はステータスがお見えになるのですよね?」
「うん」
「なら、私が大丈夫なのもおわかりになるのでしょう?」
「それは、まあ……」
「私が持っている力は、ほとんどカール様に頂いたものですから。カール様のために使わせていただきたいのです」
目を閉じて胸元を押さえる。
「それがたとえ、この命でも」
「でも……」
そういうと、ノエリアは閉じていた目を開いて、両手で俺の両手を握ってきた。
「では、その削れると仰る私の命が、普通の人並みになるまでではいかがでしょうか。カール様は私が普通の人になるとおいやですか?」
「そんなことは全然無いよ。ノエリアはどんなになってもノエリアだ」
そういうと、ノエリアは俺の体ときゅっと抱きしめて、では、お願いしますと言った。
「わかった。でも絶対無理はしないって約束してくれ。あと、ボクがいないところでは使わないと」
「おおせのままに」
その後は 0011-0019 シリーズ(11mx11mx11m 1/180)を作成して、8ポイント、0001-0009 シリーズ(26mx26mx26m 1/300) を作成して20ポイントが削られた。
そうして試しに追加したリンクドアでは、なんと片方向で10ポイントが削られたのだった。あうう、すでに10拠点分のセットを双方向接続で作成したから400ポイントが削られてたのか。人の半生分だよ……大切に使おう。
しかし、この事実って、もしかして国家機密なのでは……
◇ ---------------- ◇
みんなが寝静まった頃、今日のショックでちょっと寝付けなかった俺は、一人でキッチンの冷蔵庫の前に座って、セラーから1本引っ張り出していた。
おいおい、ルフ○ーヴだよ。しかも、Batard-Mont...見なかったことにしよう。
そういや、アンヌ=○ロードが亡くなってからどうなるのかなーと思っていたら、それを確かめるまもなく俺の方が死んじゃうとはね、笑えねー。
なんてぼんやり考えながら飲んでると、寝室から小さな影が現れた。ん? あれは……リーナ?
どうやらリーナらしいが、何してるんだ? こんな時間に。と見ていたら、部屋の向こう側にあるドアをあけて入っていった。
あれ? あのドアって、最初開かなかったんじゃなかったっけ?
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