第2話 死は突然に

「えっ?」


地面、ないよ?

突然ドロップタワーがスタートしたような、放り出されるような、何かが体から抜けていくような気持ちの悪い感覚。


落下してる?


「えっ? えっ? ええー??」


下を見れば黒い空間。右下からは馬のいななき。横には馬車が――これは、馬車と一緒にどこかから落ちたってこと?


(素晴らしい洞察力です)


「はっ? シールス様?」


(いくつか面倒……いえ、説明し忘れていたことがあるので、直接お話ししています)


いま面倒って言った?!


(トンデモアリマセン。それより、そんなことを気にしている時間はないのではありませんか?)


そうだよ、俺、落下してるんだった。でもなんで?!


(受精直後への転生以外は、すでに存在している魂の置換ですから、元の魂を置き換えなければなりません)


ふむ。


(しかし、無理矢理置き換えちゃうと、元の魂に対して不条理な現象が発生してしまうわけですから、それを避けるために、死ぬ直前の人に対して行われるのです。死ぬはずだったわけですから、元の魂はそのまま他の世界に転生します)


死ぬ運命さだめって……じゃ、このまま落ちて死んじゃうわけ!? 俺の異世界転生時間は数十秒でした的な?!


(いいえ。それでは転生の意味がありませんから。今回は、大きなダメージを受け、生きていくのが嫌になるような痛みをこれでもかというほど受けますが、すぐに死ぬわけではありません。その後、落下した衝撃で壁が崩れ、巨大な岩につぶされて亡くなる予定です)

……細かい説明、ありがとうございます。スゴクイタソウデスネ。しかし、今更何をどうやってそれを回避すればいいわけ? はっ!空飛ぶアイテムがあるとか!

(ありません)


ぬっ。じゃ、超能力で!

(ありません)


ぐぎぎっ。


(一応、即死しても問題を回避できるよう、所持の腕輪にすごいポーションを準備しておきました)

「……死んだ後で、どうやってポーションを使うんですか」

(それは難しい問題ですねー)


そうだネ、難題だネ。って……それですむのかよ!


(人間到る処青山あり、ですから頑張ってください)


それ、字面どおりの意味ですよね? いきなり墓に入りたくないんだけど。


ああもう。結局、落下して重傷を負うけど、それで死んじゃう訳じゃないから、速攻ポーションとやらで回復させ、次いで上から落ちてくる巨大な岩を避ける、ってことか。


(そううまくいきますかね?)


「何、他人事みたいに言ってんだ! それで、ポーションってどうやって使(どっぱああああん!!)」


「ごはあっ!!」


凄い衝撃と同時に、泥水で出来た大きなクラウンが立ち上がる。

どうやら、柔らかい泥で出来た、沼のような場所にたたきつけられたようだ。体の右半分が泥にめり込んで、全然動かない。

って、右半身どうなってんの?! 痛い、ものすごく痛いよ?! ぽぽぽ、ポーションは??


(所持の腕輪は、対象が自分の時は直接アイテムを使用できますから、ポーションを使うと念じるだけで使えますよ)


「つつつ、使う。俺は、ポーションを使うぞー!!!」


左手首の腕輪を苦痛にゆがむ視界に捉えながら、どっかの漫画の悪役が人間をやめるような勢いで叫んだ。すると腕輪が淡い光に包まれて、体から苦痛が抜け落ちていく。


おお、なんか効いてる? 効いてるぞ。


「ふうー」


(落ち着いている時間はありません)


ビシッ、という異音に見上げれば、今まさに、壁の一部が大きく剥離しようとしている。


え、うそ。逃げ……からだが埋まっていて抜け出せません! やばいです。ピンチです。転生人生が速攻で終わりそうですーーーー!


綺麗に剥離した巨大な壁が、ゆっくりとこちらへと倒れてくる。

どうみても直撃コースです。もはや魔法で岩を砕くか、念動でコースをひん曲げるか、人外のパワーで……


(だから、そんなスキルはありません。ほら、早く逃げないと)


し、シールス様、れ、冷静に突っ込んでる場合ですかー!


ゆっくりと剥離した巨岩は、次第に速度を増しながら、どんどん近づいている。


「嫌だー! 死にたくなーい! 消えろ! たーすーけーてーーー!!」


唯一自由に動かせる左手を、巨岩に向けてイヤイヤするように付きだしながら、次にくるだろう衝撃から逃げるように、ぎゅっと目をつぶり、必死になって叫んでいた。ら、


「…………?」


いつまで経っても衝撃が来ない。

おそるおそる目を開いてみると、そこには――


「……あれ? 岩は?」


そう思った瞬間、ぴろっとリストが開いた。


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 所持の腕輪

 --------

 +天恵 4

 

 巨岩

 --------


……腕輪に入っちゃってる。

なんかすごい大きな岩だったように思うんだけど、入っちゃうんだ。


いや、それより落ちてきてたんだよ? 運動量を無視できちゃうってこと? それってもしかして飛んでくる銃弾とか矢とか、格納できちゃうってこと? 認識する前にあたる気もするけどさ。


あと、なにこれ? 「天恵」? と、考えたら、ぴろっと表示が左へスクロールした。フォルダかよ!


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 所持の腕輪

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 << 天恵/

 

 ハイム(天界)

 ポーション 48/48(天界)x 4

 ポーション 0/48(天界・空瓶)x 1

 ギンギン24(異世界)x 336

 

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天恵っていうからには、シールス様がくれたアイテムなんだろうな。

ポーションはさっき使ったやつだ。使うと空瓶が残るみたいだけど、何かに使えるのか?

と考えると、説明が表示された。なにこれ、凄い便利。


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 ポーション(天界)

 

 天界のポーション瓶。1時間で再充填される。

 その後効果は徐々に高まり、48時間で最大効果に達する。

 この時間はポーション瓶の外側の時間に左右されない。

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ほほう。48時間で5個の薬が手にはいると思えばいいのか。……ところで、ギンギン24って、まさか……


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 ギンギン24

 

 あなたが毎日飲んでいた飲みもの。

 これがないと死ぬとか仰っていたので、一応1年分。

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やっぱり、24時間戦えちゃう栄養ドリンクか! デスマの時にがぼがぼ飲んでたのは確かだが、そんなの真に受けられても……てか、もし本当だったら、1年しか生きられないだろ。まったく。

てか、こっちの1年って、336日なのか。


あと、ハイム?


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 ハイム(天界)

 

 おうち。

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そんだけかよ! 使ったら家でも建つっての?!

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