第97話 サヴィールとやっぱり怒られたと給料日
それから数日は、延々前回の作業の繰り返しだった。
「か、カール様……これは、いったい何処で?」
「リヨン領の、忘れられた塔の中。入り口には、初代デルミカント家のカントンがない紋章が刻まれていたよ」
「な、なんですって!! その塔はどこに?! どこに、あるのですか!!」
とサヴィールらしからぬ剣幕で食いつくように聞いてきた。
「あー、インバークの湖の中に、壊れて水没しちゃった。……てへっ」
それを聞いたサヴィールは絶句したまま、しばらく固まっていたけど、ふるふると震えだしたかと思ったら、
「……てへ? てへって……カール様! 一体なにをされたか分かっているのですか!!」
いや、だから、あれは俺のせいじゃ……
「どう見てもこれは、2000年前の当時のものに見えますよ!? つまりその塔も当時の歴史的遺跡なわけで、そんなものが手つかずで……それを壊しちゃった? しかも水没させた? ああ、もうどこから突っ込んだらいいのか!!」
ううう。やっぱり怒られた。
その後は根掘り葉掘り、その塔の中の話を詳しく聞かれた。エルダーリッチのウーダのことを話すかどうか迷ったが、壊れた経緯から隠すのが難しかったのと、正直に伝えた方が何かを解明するにしても有用だろうと思って、すべてを正直に伝えておいた。ただしステータスにウーダの文字があったことは伝えようがないので言っていない。
彼の本を大切に持っていたようだから、ウーダというのはエルダーリッチの名前なのかもね、と水を向けるだけにした。
当のサヴィールは、俺が復元した地図を見ながら、
「旧バウンドに、今回の塔。もしかしたら、他の印の位置にも、知られていない遺跡があるのかも……」
なんてひとりつぶやいていた。
◇ ---------------- ◇
「みなさん、お待たせしました。待望の給料日です!」
リーナとノエリアがパチパチパチと手を叩いてくれる。いや、君たちの給料はないけどさ。
「はい、マリー。今月もありがとう。14日しかなかったから、ちょっと目標に届かなかったけどね」
「いやいやいや、目標とかありませんから!」
ずしっと重い皮の小袋。絶対100枚以上入ってるよ……ヤバい。泣きそう。
「デルフィーヌも、お疲れ様」
「ありがとうございま……え?」
重! 何これ? 銀貨でくれたのかしら? 重いから金貨2枚で良いのに。あ、今月は8日からだったから、今日で14日しか経ってないのか。
じゃあその分を引かれちゃって、崩れたのかな?
そっと、皮の袋を開いて確認してみたら……はぁああ?
ぜ、全部金色に見えるんですけど! 何かの間違いでは!? と周りをきょろきょろ見回してみると、マリーがくすくす笑っている。
「あ、あんた、これ絶対おかしいでしょ?!」
「そう思うよね。うんうん。よーくわかるよ」
「わかるよって、これ、返さなきゃ、ヤバイよね?」
マリーが突然真顔になって、こっちを向いた。なに、なに、なんなの~?!
「デルフィーヌ、落ち着いて」
「う、うん」
「あなたちゃんと契約書を読んでなかったでしょ」
「え? ううん、一応金貨2枚ってところは確認したよ。凄い嬉しかったよ」
「他の所は?」
「うーん。あんまりみなかった、かな」
「いい、よく聞いて」
「うん」
「カール様って頭が変なの」
「は?」
仮にもオーナーに向かってそれはないんじゃないの?
子供だけど、なんか凄くいい人だし。それに、話してると、ずっと年上みたいに思えちゃうから不思議よね。
「だからね、それであってるの」
「ええ?! だって、これ……下手すると私の4年分の給料くらいあるよ?! 14日しか働いてないのにだよ!?」
「どうやら契約がね、売り上げとか利益の何%って感じの契約になっていて、最低が金貨2枚って事らしいの」
「うそっ!」
「本当」
「カール様って頭が変なの?!」
あ、しまった。
「ななな、なんじゃこりゃあああああ!」
向こうで、サルテッリの声が聞こえる。うんうんうん、その気持ち凄くよく分かるよ。
いずれ、クラドックとドレーリの悲鳴が聞こえてくることは確実だね。
◇ ---------------- ◇
「いやもう、一瞬、1年分がまとめて出たのかと思いましたよ……こんな収入が続いたら、だめな人になる自信があります!」
なんて、ドレーリが妙な自慢をしている。
「みんなが頑張ったから儲かったわけで、儲からなかったら給料も普通だからね。来月もよろしく」
「「「「はい!」」」」
「それでさ、明日はマリーが仕出しってことで、一応休みになってはいるんだけど……朝から店に待機しておいてくれないかな。申し訳ないけど」
「もともと仕事の予定でしたし、それは構いませんが、何かあるんですか?」
と、クラドックが聞いてくる。
「うーん、あるような、ないような。なければいいなあと思っているところ」
「なんだか全然わかりませんけど、わかりました!」
と、ドレーリ。
「あ、それから。全然関係ないけれど、3月から、1,8,15を休みにしようと思うんだけど、どうかな?」
みんなそれで構わないとうなずいた。
「いいですけど、月に3日も休んで良いんですか?」
とデルフィーヌ。
「うん。そのあいだに鋭気を養ったり研究したりして下さい。あ、今後、該当する日は予約を入れないでね」
「「「「分かりました」」」」
さあ、ついに晩餐会だ。一体何が起こるやら。
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